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side:魔法少女と、裏切りの神官もとい哀れな人質

「し、静音さん?」


ニコルがそんな風に慌てるのも無理は無い。

驚き、心配する目がニコルへと集まっている。そして、静音に対して怒りと憎しみの目が、静音の前にいるニコルを通り抜けるように向けられている。


「ほら、ちょっとは悲壮そうな顔してよ。」


静音は背中越しにニコルにそう指摘するが、戸惑いに引き攣っているニコルの表情は、それを目撃している全ての人々にしっかりと、人質に取られてしまった苦悩などと思わせることが出来ていた。


全部終わったら、教育しなおさないと…。

私達が本当にしっかりしていたら…。


姿を隠して付いて来ていた精霊獣達の、はぁと溜息をつく音や頭を痛めているような物言いが、ニコルと静音の耳にだけ届いた。

それを聞く限り、この行動は完全に静音の独断専行であることが、ニコルにも理解出来た。


あっーーーーはっはははははっ!!!!

「誰?」

「どうかしましたか?」

「なんか…男の、腹が立つ笑い声が聞こえてきたんだけど…聞こえなかった?」

極力顔を動かさないように、目だけで周囲を見回した静音だったが、その声のように馬鹿みたいに笑っている存在を見つけることは出来なかった。




「どういうつもりなのかな、静音ちゃん?」


滅多に聞くことのない、張り詰めた声をソーンが投げ掛けてきた。

瞬きする間も惜しいと、見開かれた目は信じられないという感情と憎悪に近い感情が入り混じっているように感じられるものだった。

それはソーンだけでなく、周囲に居る息をしている者全てから静音へと向けられていた。


「どういうつもりって?」

見て分からない、と静音は笑ってみせた。

全員を馬鹿にするように意識して作り上げた態度は、全員が静音の一挙一動に注目するようにと静音が考え出したものだった。

太陽に照らされて地面に生まれた自分の影に力を注ぎ、何時でも戦えるように備える。

不気味なほどにすんなりと、体の奥底から力が沸いて出てくる感覚に、静音はほんの少しだけ恐怖を覚えていた。まるで、以前大きな被害をもたらした暴走をした時のようだ、と。気をつけないと、と集中する。


「いい加減、ちまちまと嫌がらせしているのも飽きてきたの。この前の、見当違いな馬鹿の言い分にもイラついたし…。」


実を言うと、ニコルを人質に取ったあくの魔法少女、というところまでが静音の考えた計画だった。

つまり、その後のことを何も考えていなかったとも言える。

余裕に、全てを見下すような嘲笑を浮かべて見せながら、内心汗をだらだらと流していた。

そして、それを長い付き合いである精霊獣達も、ちゃんと気づいていた。

静音達、6人の魔法少女達が魔法少女として戦っていた期間よりも長い、精霊獣達がそれぞれが選び出した魔法少女に寄り添い、寝食さえを共にしていた時間よりも長い時間、精霊獣達は静音に寄り添って生活を共にし、彼女を護る為に力を貸していたのだ。気づかない訳がない。


『静音、どうしたいの?』

「どうしたいって、刹那が終わるまでの間、全員の気を引いておこうと思って…。」

呆れ果てているような、静音を気遣うような、そんな睡蓮の声が静音の耳元に届く。自分でも「やっちゃった」なんて思い始めていた静音には、その声が叱られているようにも感じられ、声を潜めることは忘れてはいないものの、しどろもどろに口に出して説明をしていた。

その声を聞き、まだまだ付き合いが浅く、静音の突然の行動への戸惑いが冷めていなかったニコルも、この後に続く計画が無いことに気づいたのだった。

「静音さん…。」

「だ、大丈夫!刹那が終わらせてくれるまで、このままでも大丈夫なくらい力が有り余ってる感じだから!」

暴走しないように注意したとしても、自分達を取り囲む輩達の攻撃などを退け続けていける自信はあった。

「それは…大丈夫というにはちょっと…」

『はぁ…』



「静音ちゃぁん?あのね、いくら俺の最愛の君でも、やっていいことと悪いことがあるんだよぉ?」


「うっさい!アンタのその戯言も、もう耳に入れるのも嫌なのよ!!!」


陽妃達やニコルの、何ともいえない声と溜息。

それを受けて、気恥ずかしさを身につまされた静音は、その八つ当たりのような絶叫をソーンへと投げつけた。

「戯言?酷いなぁ、俺はこんなにも君を愛しているのに。」

心外だと、ソーンは凄みのある笑みを浮かべながら睨むという器用な真似をしてのける。


「大切なニコルを助けなきゃと思いながらも、君とそんな風に体をくっつけてるニコルに苛立ってるんだ。そんなにも君を想って恋焦がれている俺を、どうして静音ちゃんは受け入れてくれないのかなぁ?俺の愛を受け入れてくれれば、静音ちゃんだってこんな馬鹿な真似をしなくて済んで、皆と同じ様に幸せになれるんだよぉ?」

ほんと、なんで?

絵に描いたように、ソーンは綺麗に笑う。疑問を呈しているとは思えないその笑顔のすぐ下で、ソーンに注意を向けてみていた静音達にも気づかれる隙を見せることなく、一丁の拳銃を腰から引き抜いて持ち上げ、静音とニコルへとその銃口を向けてきた。


魔道警邏隊が所持しているものだけではなく、今この国にある道具という道具は、そのほとんどが魔術が施された魔道具が使われていた。その方が管理などが楽だから、その方が既存のエネルギーを付かなくて済んでエコだから。それでも魔道具を使うことに抵抗や拒絶反応のある人も少数とはいえ存在する為、普通の道具では完全に魔道具に移行していないものもある。

だが、拳銃は違う。彼等のものも、警察も、裏社会の人々が隠し持つ物も、完全に魔道具の拳銃へと移り変わっていた。


「こっちには、彼がいることを忘れてるの?」


魔道具である拳銃は少し厄介だ。その銃弾に仕掛けられた魔術が何なのか、水なのか炎なのか雷なのか、放たれる直前まで気づくことが出来ない。今の静音ならば、何が放たれようと回避することも出来るだろうが、相手はソーンなのだ。何を仕出かすか分からない。

静音は警戒を強めて、ソーンを睨みつける。


「ニコル。帰ってきてくれて嬉しいよ。葵ちゃんも泣いて喜ぶだろうなぁ。だから、ちょっとくらい怪我しても許してね。お前は葵ちゃんと再会できて、俺は静音ちゃんを手に入れることが出来るんだから。」


まったく迷うことなく、ニコルに笑顔を向けたまま、ソーンは拳銃の引き金を引く。

初めは、目晦ましの効果を狙ったのか、眩い光を放たれた。そして、休む暇も与えないと言わんばかりの連続した、水に炎に風による攻撃。

それら、静音は影を操り全てを弾き阻害し、破壊の力をもって無へと消し去る。

ソーンの突然ともいえる攻撃に便乗して、ニコルには被害が無い位置にいた警邏隊員達も魔術を使って攻撃を仕掛けてきたようだったが、それらは精霊獣達が蹴散らしてくれた。


「ッ!」


「油断大敵、火がボウボウ。」


魔術による攻撃は全て防ぐことが出来た。

でも、ただの弾丸など予想していなかった静音の頬に、一筋に血が滲む。

「あぁぁ、可愛い静音ちゃんの顔に当たっちゃったかぁ。あっ、でも、大丈夫だよ?それくらいなら、舐めればすぐに治るから。」

「結構!」

その言葉の後に絶対、余計で気持ち悪い言葉がついてくると想像した静音は、それを言わせないように大きな声を上げて拒絶した。

『まったく、女の顔に傷つけるだなんて!静音、ごめんなさい。たかが鉄の塊なんて防げた筈なのに…』

陽妃が治癒の力を振るうことで、静音の頬に出来た傷は何の跡形も残さずに消えていく。


「ああぁ。勿体無いなぁ。治ったってことは、奏音ちゃんの精霊獣だよね?確か、陽妃だっけ?理解し合える大切な相棒、家族だったのにって。ちゃんと話も出来ずに別れてしまって、敵になってしまったって。奏音ちゃんが泣いてたよ?」


『私だって、そう思っていたわよ。でも、己の心の弱さに負けてしまった、世界に仇なす存在となってしまったあの子は、世界の一部そのものである私にとって敵でしかないわ。』

姿を隠したまま言葉を紡ぐ陽妃の声は、涙を堪えているようにも聞こえた。

「やっぱり、刹那を待つのは止める。」


人々の気を静音達が引き、刹那がアウネの神を捕らえた後、アウネに仕える者達や、奏音をはじめとする元・魔法少女の動きを封じて、邪神と管理者の前に引き出そう。

そう思っていた。

でも、それを悠長に待っているのが嫌になった。

自分で引き起こしたことの癖に、勝手な泣き言を吐いて…。誰でもない自分を哀れんでいるだけの奏音のことを一発殴ってやりたいと、抑え切れない衝動に静音はその身を浸していた。


『…静音、好きになさい。』

『そうだな。今まで我慢してきたんだ。最後なのだからな、お前の好きに動いていいと思うぞ?』

「こいつらの気を引いておかないといけないのに?」


『それくらいならば、私達だけでも充分だ。』

力に満たされているのは、静音だけではない。

陽妃、睡蓮、流峰、灯雫、董源。精霊獣達が姿を隠したまま、静音の背中を次々と優しく押していった。


そして、空高い場所にそれぞれの力を力強く纏った精霊獣達が姿を現した。

見た者の目を潰すように眩く光輝く白い猫、水の球を周囲に生み出して地上へと振り落としていく青い蛇、炎の雨を降らせる赤い鳥、風の刃で人も地面も建物も切り裂いてみせる緑の虎、地面を強く震わせ大きく口開かせる黄色い蛙。

凶悪ともいえる攻撃の数々を人々に対して仕掛けて見せる彼等に、静音とニコルに集まっていた注目の多くが裂かれていった。


「……ありがとう…。」

力が満たされているとはいえ、世界の安定を保つ為にその力を管理し世界へと振り分けなければならない精霊獣達。本来であれば、大規模な攻撃に力を裂く余裕はない。だからこその、魔法少女という存在でもあったのだ。

静音が望みを叶えられるよう、協力を惜しまないでくれる彼等の気持ちが、静音は本当に嬉しかった。


「静音さん、私も此処に残ります。」

「えっ?」


目の前に立つニコルに、行こうと伝えるつもりだった静音は、それよりも早くニコルが申し出た言葉に驚いた。

「私が居るよりも、静音さんが一人で向かった方が早いと思いますし…。それに、私も私で、彼等と話をしなくては…。」

人質に取られていると見られているニコルは、静音が去ってしまえば保護されることになる。そうすれば、仲間であり友である、彼等の下にソーンが連れていってくれる。

そして、理解しあえなくてもいい、説得できなくてもいい、もしかしたら最後になるかも知れない彼等と話をしたいのだと、ニコルは淡い微笑みを浮かべて静音に申し出た。


「分かったわ…。一応言っておくけど、気をつけて。」


「ありがとうございます。静音さんも気をつけて。」


あちらの建物の…。

ソーンには見えないように、敷地内の奥に見える建物を指差したニコルが、奏音達が普段使っているという場所を静音に教えた。


静音は、集中した。

それを行なうのは初めてのことだった。でも、出来るということは自分でも感じていたし、精霊獣達にも出来るようになっていると言われていた。

空気中から水を集める。

水を集めて使い暴れている睡蓮が近くに居るせいか、集めやすくはあった。

その集めた水に、炎の力をぶつける。


闇を司る魔法少女である静音には、本来扱うことが出来ない属性。それでも、精霊獣達と寝食を共にして、その力のすぐ傍にあり続けたことで、静音にもそれを扱える可能性が宿ったのだ。

その可能性を今、実力へと進化させた。


水と炎。


それによって生み出されるものは、静音がこの場から姿を消すには充分過ぎるものだった。

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