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正義の味方・魔法少女は指名手配されています。  作者: 鵠居士
    今を生きている者
19/30

彼女に捧げる想い③

突然、空が割れて、空想上のものでしかないと思っていた異世界から、自分達とあまり変わらない姿形の人々が降り立ってきた。

彼等は、住む場所が欲しいのだと言い。

この世界は、国は、突然の出来事に混乱しながらも警戒した。

膠着状態が続いているとニュースで連日報道された。

人権団体やら、宗教団体、平和主義者などがそれぞれの主張を街頭で声高々に言い続けた毎日。

ある日、膠着状態が突然終わり、戦いが始まった。

これまた、空想上のものとばかり、漫画やアニメでしか見たことのない不思議な力を放つ魔術の前に、自衛隊が使う近代兵器は無力に近かった。

それを彼はノイズが走るテレビの映像で見ていた。


魔法少女達が現れた瞬間も、現場となっている場所から遠く離れた実家のテレビの前で観た。


あの日の映像と、魔法少女達とアウネの指導者達が和解して平和が戻ってきた時の映像を、彼は一生忘れることは出来ないと思う。



平和は戻ってきた。

人々が子供の頃には一度は夢にまで見る、新しい力をもたらして。

アウネの指導者達は、自分達を逃げ延びさせてくれた神様が与えてくれたという魔術という力を、地球の人間にも使えるのだと教えた。

その言葉の通り、一人二人、戦いが終わって数日も経っていない内から、才能があると言われた者達から使えるようになった。その力を、アウネの民達は生活を豊かにする為に使い、元々仕事人間なんて揶揄されるような日本人は、興奮を隠すことなくそれを元来あった技術に組み込んでいった。

輸入に頼っていたエネルギーをそれで賄った。

それによって、何かと無茶振りをしてくる外国に頼らなくても良くなった。これに一番喜んだのは政治家達だろう。

地方との行き来する手段、物流の方法などに利用した。

それによって、地方に居ても都会と同じ生活が出来ることになり、都市に集まっていた人口が上手い事分散された。これに喜んだのは、上京したまま帰らなくなっていた家族が戻ってきたと涙を流しもした年配者達。

ストレスや体質などで都会の生活に辟易していた者達も、地方の自然に触れることで救われたと喜ぶものも居た。

農業に医療、様々な分野に魔術を多く取り入れられ、戦いが始まる前以上の活気が生まれていった。


そういえば、海外に頼らなくてよくなったせいか、日々のニュースで海外の情報が映されることが無くなったような気がする。

そう彼も思ったのだが、元々海外のニュースといえば無茶難題を押し付けてきたというものや、戦争が始まった、テロが…というものばかり。元々ニュースを見ない彼にしてみれば、別にいいかと思う程度だった。


彼はあまり才能が無かったらしく、一番簡単な魔術でさえも取得に何年も掛かってしまった。友人の中には、頭に思い描いただけで使える者も居たというのに、彼は頭痛や吐き気がするまで頑張らなければ出来なかった。

でも、ようやくつい最近になって使えるようになった。

大喜びした彼がそれを最初に報告したのは、幼馴染の少女だった。

母親同士が親友だった事で、生まれた時から何かと一緒だった少女、山口芽衣。

だらだらと大学生活をやり過ごしている彼とは違い、一流の大学で勉学に励み、その上で魔道警邏隊で事務のバイトをしている芽衣とは、今でも付き合いがあった。

恋人、と聞かれることもあったが、そういう関係ではない。お互いが一人暮らししているアパートの合鍵を持って、勝手に行き来もしている。差し入れもするし、何かあれば気軽に報告もしあった。でも、それは兄妹、姉弟という関係だからで、色気のある空気にさえなりはしない。

内より、芽衣の好みは真面目そうな年上だと彼は思っている。

よく、街中などでそういう人物と一緒に買い物をしている姿などを目撃していたからだ。


『…魔術を、使えるようになった?』


電話して喜びの報告をしたというのに、芽衣の反応は思わしくなかった。

何時も以上に低く、不機嫌そうな声。

そういえば、芽衣が魔術を使っているところは見たこと無かったな、とその時気づいた。

思わず、ゴメンと口にした。

『謝んなくていいから。別に、私は使いたくないから使ってないだけ。でも、そう…大輝、使えるようになっちゃったんだ…』

「使いたくない?」

魔術なんて便利なもんをなぜ?

魔法少女のアニメを見て、変身に必要な道具を模した玩具を放さず、成りきっていた芽衣。それに何度も付き合わされた彼は、何かと優秀な芽衣のことだから、すぐに取得したとばかり思っていた。

今、生活をする上で様々なものに魔術は組み込まれている。完全に全てとはいわないまでも、魔術を使わないとなれば不便極まりないし、金も掛かるだろう。


『なにもかも与えられる事で、自分では何も出来ない、考えることも出来ないような人間に墜ちたくないの、私。この世界には、この世界の力があって、その力のおかげで人間は知恵を得て、進化してきた。産業革命が世界に何をもたらしたか、授業中寝てるかお弁当を食べてた大輝でも、知ってるでしょ?』


芽衣は時々、難しいことを言う。

でも、それが全て正しいのだと後で思い知って後悔するのは、何時も大輝だった。そして、文句を言いながら、もう知らないからねと言いながら、大輝の為に骨を折って助けを差し伸べてくれるのも、何時も何時も芽衣だった。

だから、大輝は思い浮かべた考えを迷いもなく、すぐに口に出して電話の向こう側に居る芽衣に伝えることが出来た。


「そっか、そうだな。じゃあ、俺もう魔術使わないことにするわ。」


多くの人々を苦しめ続けている公害に、地球の根本からを破壊する環境問題。

資格者推薦なんて、簡単な資格と面接だけでなったおちゃらけ大学生でも、それくらいは知っている。

だから、芽衣の意見に異を反する気持ちなんて、一欠けらも無かった。


『えっ?』


何度も何度も、魔術を早く使えるようになりたいと芽衣にまで愚痴っていた大輝の、あまりにもあっさりとした宣言に、電話口でも分かる戸惑いと驚きの声を芽衣が漏らした。

「だって、こんな事の為に芽衣に嫌われたくなんてないしさ。それに、やっぱり使おうとする度に頭痛くて薬飲むのも、やっぱり体に悪いんだろ?」

芽衣の前でも何度も痛み止めの薬を飲んだことがある。

その度に、薬は体に悪いと止められていた。

それでも魔術を使えるようになりたかったのは、今では魔術を使えることが就職が有利になる条件だったから。元々、そんなにいい職に就けるとは思っていない。だから、魔術が無くてもつける、あまり人気ではない職でもいいかと大輝は、手元に広がっていた大学から配布された資料を捲り始めた。


『…知り合いが、根性のある人間が欲しいって言ってたんだけど。大輝のこと紹介していい』

正社員の話だと言い、芽衣は会社名を口にした。

若い社長が頑張っているという優良企業の名前。間違っても、大輝が通うような底辺の大学に来るような求人ではない。

はっ?と戸惑いの声を上げて固まった。

『じゃあ、詳しい話は会ってしましょう。…で…に。いいわね。じゃあ、おやすみ。』

淡々と、わざと感情を見せないようにするような口調で、大輝の返事を待つことなく電話は切られた。


「…知り合いって、あの彼氏かな?」


ようやく大輝が正気に戻ったのは、付けっ放しだったテレビの、始まったばかりの歌番組が終わりを告げた頃。やっと我に返ることが出来た大輝は、何度か姿形だけを遠目に見た男と思い出しながら、そんな凄い人だったのかと感心するしか出来なかった。

「今まで以上に、芽衣には頭が上がらなくなるな。」

せめて何かプレゼントでも…。そう考えたものの、女性が喜ぶ贈り物になど覚えがない。大輝はパソコンを開くとネットに繋ぎ、検索を掛けて探そうと考えた。

ネットのホーム画面に浮かぶ、最近あった目ぼしいニュースの一覧。その一角には、『黒の魔法少女』に関する特設の項目がある。彼女に関するニュース、目撃情報を書き込むスレッドなどなど。

"見かけたら魔導警邏隊まで通報を!"と書かれている大きな『黒の魔法少女』の写真。


「この人も、芽衣みたいな考えで動いてるのかな?」


何で、ようやく平和になって皆が笑顔になれたというのに、一人で戦い続けているのだろうか。捻くれ者?闇だから悪の道に進んだのか?

今思えば、馬鹿っぽい考えを持っていたものだと大輝は顔を赤らめる。

だが、投稿された様々な写真に写っている彼女の表情の中に、真剣なもの、思い悩んでいるようなものを見つけ、幼馴染の考えを聞いたばかりの大輝は、今までとは違う考えを抱き始めた。

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