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正義の味方・魔法少女は指名手配されています。  作者: 鵠居士
魔法少女の対極にある元・魔法少女
10/30

今日みたいな日には、家族みんなで干した布団でお昼寝するんですよ。


そんな幸せそうな声が、街のあちらこちらから聞こえてくる。

様々な音が生まれ続け、静けさなど知らない街の中で、そんな音が聞こえるわけが無いと普通の人間ならば考えるだろう。

だが、それが普通の人間でないのならば違う。

一ヶ所で生まれる音ではない。街の至る所に存在しているテレビ画面から、その音が生まれていた。街に住む人々の注目を集める内容だったことから、テレビの前に居る多くの者達がそれを観ていた。その音が風に乗り、幾つも幾つも重なることで街の中で発生している音の中でも大きなものとなっていた。

ビルの屋上に立つ静音の目にも、大きな街頭テレビの中で子供を抱きあげて微笑んでいる双子の姉、奏音の姿が映った。


一緒に生まれてきたというのに、見た目も性格も、管理者から与えられた力も、今置かれている状況も、何もかもが対極にある存在。運命が別れてしまったばかりの頃ならば、その姿を画面越しに見ただけでも力を暴走させ、テレビ画面だろうと容赦もなく粉砕していただろう。


黒の魔法少女の姿をなった静音は、ビルの屋上で強い風に煽られながら微笑を漏らした。


でも、今は違う。そんな癇癪を起こした子供じみた事はしない。

「さて、楽しい時間の始まりよ。」

「今日は一体、どんなことをやる気?」

ニヤリと笑って街を一望した静音が、手を振り、声を出して合図を送る。

その楽しそうな様子を静音の後ろに立ち眺めていた黒耀とニコルが苦笑を浮かべ、そして聞かされていない今日の計画を尋ねた。

静音の悪戯は、基本的にその力を借りる精霊獣にだけ知らされる。それは、驚いた顔を見たいという可愛らしい静音の企みの一環からだった。今日は、闇の精霊獣・黒耀と火の精霊獣・灯雫以外の、大地の精霊獣・董源、水の精霊獣・睡蓮、光の精霊獣・陽妃、風の精霊獣・流峰が静音の指示を与えられていた。

「まぁ、黙って見てなさいって。」

今日行なう悪戯には大きな自信があるらしく、静音は朝起きて家を出る時から笑顔を浮かべ続けていた。何をやるんだろうと何時も以上に気になる静音の様子に、黒耀とニコルは教えてくれないとは分かっていても、思わず尋ねてしまったのだ。

ニコニコと静音が笑い、頭の上で腕を大きく振る。

すると、ぽかぽかとした温かな日の光が広がっていた晴天の空に、黄色の靄が現れ始めた。

「あれは?」

「砂、だな。董源の力だ。」

それからは本当に早かった。風に煽られた砂で出来ている黄色の靄が町全体を覆い尽くし、そうかと思えば今度は暗雲が立ち込め、豪雨となる。

布団が!!!

そんな叫び声が激しい雨間に聞こえた気がした。

「奏音のあれ、昨日からやってるのよね。だから、今日晴れたら絶対、皆ふとんを干すだろうなぁと思ったのよ。作戦、大成功!」

光の魔法少女には、人々を先導する力があった。それが"光"の力によるものなのか、彼女自身が持っていた魅力なのかは知らない。知りたくもない、と静音は吐き捨てる。

けれど、人々の為に戦った元・魔法少女にして、アウネの民の代表の妻に収まっている彼女が、今も人々の注目と関心を集める存在であることは確かだった。

彼女がこうしたと報道されれば、多くの人々がそれをやってみようと考える。

今日の静音の作戦は、そんな人々の心理を利用した嫌がらせだった。


あの日、奏音と最後に対峙した時のことを夢に見た静音は、虎視眈々と奏音を利用する形でその腹いせを実行する機会を狙っていたのだ。


ホカホカで、太陽の匂いとなった布団で眠ることを夢見ていた中で、せっかく干した布団が黄砂に塗れた上にずぶ濡れとなる。その絶望はいかようなものか。


身体を反らせた静音は、豪雨の中でさえ響き渡る高笑いを上げたのだった。


しばらくすれば、雨は止んだ。

そんな事が本当にあったのかと誰もが言う程に、真っ青に晴れ渡った空。さんさんと照りつける太陽の光が降り注いだ雨の痕跡を消し去っていく。

雨によって至るところへと落とされた砂が水分を失い、地面や壁、窓や車、そして慌てて取り込まれていく布団など洗濯物へこびり付いていった。


「気は済んだか?」

「うん。」

子供に戻ったかと思える無邪気な笑顔を浮かべて地上を見下ろした静音が、黒耀の呆れ混じりの問い掛けに、素直に返事をした。

「明日のお仕事は、大忙しですね。」

今日は精のつくものを夕飯に用意しましょう。

最近、食事をもっぱら作っているニコルが、そう言って何を作ろうかと考え始めていた。

顔の知られているニコルは、人の目を避ける為に家から出ることなく、掃除や料理などの家事を担っている。そして、以前のビル清掃の仕事も辞めざる得なかった静音は、クリーニングの工場でのバイトを始め、日々の生活費を稼いでいた。精霊獣達は新しい家の周辺に広がる大自然の中で、食べられる山の恵みなどを探し出したり、自分達の力をつかって他人に見つからない程度の畑を作ったりしていた。

贅沢など必要のない静音たちは、そうやって糧を得て慎ましく日々を送っていた。

「えっ?」

腹いせのことばかり考えていた静音は、ニコルの言葉に首を傾げた。

黒耀は、ニコルと同じことを思ったのか、ニヤニヤと「頑張れよ」と言って笑っていた。

「被害にあった奴等が布団をクリーニングに出すだろうって事だよ。まさか、お前そんな事も考えてなかったのか?」

「あぁぁ!!!!!!」

黒耀に説明され、ようやくその事に思い至る。静音は絶叫を上げた。

それなりに忙しいバイト。初めて間も無く、まだまだ作業に慣れておらず、家に帰り着けばヘトヘトだった。そんな自分の首を絞めたことに気づいた静音は、どうしよう、と涙を滲ませたのだった。




「…静音ちゃん。」


そんな声がかけられるまで、ビルの屋上に自分達以外の人間がいると気づかない程の大騒ぎをしていた静音達。自分の膝に顔を埋めた静音と、それに対して励ましたり、宥めたり、「俺は止めとけって言ったよなぁ」と煽ったり、楽しげにも見える騒ぎの中、懐かしく、そして聞きたくも無かった彼女の声が静音に顔を上げさせた。


「奏音」


頭には大きな帽子、フワフワとした白いワンピースを纏っているその姿は、良家のお嬢様。光の魔法少女だった彼女には相応しい装いで、気品さえも感じさせる。

笑顔でも浮かべていれば、幸せそのものを体現しているとさえ思わせるだろう奏音は、悲しげな雰囲気を顔に浮かべながら静音に強い眼差しで見据えていた。


「あんたがたった一人で、こんな所に現れるなんて。一体どうしたの?」

大切な身の上、奏音の周囲には何時如何なる時にも護衛の姿があった。

それらの姿が、静音が目を見渡せた範囲には確認出来ず、たった一人で奏音は静音達に対峙していた。

「陽妃の気配を感じたの。だから…」

「私の名前を気安く呼ばないでくれるかしら。」

奏音が問い掛けに答えようとすると、その中に自身の名前を聞いた陽妃がそれを遮って、吐き捨てた。

自分の相棒であった陽妃に睨みつけられ、冷たく言い捨てられたことに傷ついた。そんな顔になった奏音を、静音は鼻で笑った。

「なんて、顔しているの?捨てたのは、あんたじゃない。」

「ち、違う。捨てたなんて…私は…」

「捨てたんでしょ?この世界を壊す輩と手を組んで、今もぬくぬくと一緒に居るってことは、この世界そのものの一人である陽妃を捨てる、殺すってことよ。私より頭が良くて、優等生だったあんたが、そんなことも分からない訳ないわよね。」


笑顔であることを心掛けた静音によって冷たく切り捨てられた奏音は、何も言い返すことも出来ず、顔を伏せて沈黙した。

それはそうだろう。

静音は笑う。


何を言い返せるというのか。あの時、あの街で怒りのあまり力を荒れ狂わせた静音が目覚めた時にはもう、奏音の姿は無かった。置き去りにされた陽妃から告げられたのは、「戦わないでもいい道を見つけたい。」、そんな静音に言わせれば馬鹿のような言葉を残して、アウネの民の下へ行ったのだという話。

その後、魔法少女とアウネの民との戦いの中に姿を現し、戦いを邪魔し尽くした。

「話し合えば分かり合える。協力し合えば、世界は壊れない。」

管理者の「彼等が世界から排除しなければ、世界が壊れてしまう。」という言葉を忘れたのか、と精霊獣達は激昂させた。静音も、暴走によって力を消耗し回復途中にあった状態をおして、奏音に攻撃を加えたものだった。

なのに、水面下で他の魔法少女達に接触をもっていた奏音によって、静音は仲間を失っていった。精霊獣達は相棒を失っていった。

それに伴って、世界の修復に尽力していた管理者からも大きく力が削がれる事態となり、アウネの神の"洗脳"にも近い力の影響は人々に降りかかってしまった。


そして、魔法少女は敗北を期した。


「静音ちゃんには聞こえなかった?」

沈黙してくれたと思っていた奏音が突然、口を開いた。

「は?」

「私には聞こえてたよ。他の、葵ちゃん達にも話をしたら、聞こえてたって言ってた。それが怖くて、嫌で、悲しいって、言ってくれたよ。」

表情を見せないまま、奏音は言う。

何のことか、と静音は眉間に皺を寄せた。

「苦しいって、痛いって、何でこんな事になったのかって……戦いたくなんて無いって!皆の声が聞こえてきたよ。もう戦いたくないって。早く戦いなんて終わって、平和が欲しいって!」

ようやく顔を上げたかと思えば、奏音はボロボロと大粒の涙を流していた。

「葵ちゃん達も聞いたって。それだけじゃないよ。私にはアウネの人達の声も聞こえてた。そして、アウネの神様の声も。皆同じだったよ。私達と同じ。戦いたくないって。もう痛い思いなんてしたくないって。平穏が欲しいって。だから私は、戦わなくてよくしたかった。だけど、どんなに管理者に相談しようとしても、彼女は返事をしてくれなかった。声を聞けた時もあったけど、戦うしかないって聞いてくれなかった。彼等が居るだけで危険なんだって。だけど、アウネの神様は私の話をしっかりと聞いてくれたの。僕もそう思うって、協力し合いたいって言ってくれたの。」

静音ちゃんには聞こえなかった?


ボロボロと涙を流し、真っ白なワンピースの胸元を握り締めて皺を造り、必死に訴えているその姿は、彼女を慕うものたちが見たのならば庇護欲を誘うのだろう。

だが、静音の脳裏に走ったものは「反吐が出る」という言葉だった。


「聞こえてたわよ?"死にたくない"って。」


「じゃあ!なんで、まだ一人でそんな事をしているの?今を見て!!管理者が言ったみたいにはならなかったよ。皆で手を取り合って、彼等が来る前と何にも変わらない日常を送れてる。アウネの神様も力を貸してくれて、魔術が使える人も増えたんだよ。前よりも便利で、皆幸せになってる。だから、静音ちゃんも…」

「馬っ鹿っじゃないの?」

何を言い出すのかと少しだけ興味があって遮らずに居た自分に後悔した。

そうだった。こういう奴だった、と静音は舌打ちした。昔から、人の話を聞かずに自分の考えを突き抜けるような奴だった。それがまた、話を聞いただけならば正論だったり、人の心を打つものだったりした為に、奏音の周りには彼女を好ましく思う者達が集まっていた。

そんな奏音の言葉に、あまり惹かれるものを見出せなかった静音は、そんな光景を幼い頃から遠巻きにしていた。そのせいで、奏音が悲しみ、彼女を愛する者たちが静音を毛嫌いしたことも多かった。

嫌な事を思い出した。

静音はもう一度、先ほどよりも大きな音が響く舌打ちをした。

「静音ちゃん…」

奏音に最後まで喋らせなかった静音の目は鋭く、冷たさと共に殺気を放つものとなっていた。その事に気づいた奏音は、悲しげに静音の名を口にした。

「ねぇ、奏音?あんたって昔っからお利口で、学校の成績も優等生だったよね。だからって、自分が"世界の管理者"よりも偉いだなんて、どうして思ったの?」

ねぇ答えてよ。と静音は淡々とした声音で問い掛けた。

「この世界全てを把握して、一人で世界中の天候とか自然を管理出来ていた"管理者"が、あんなに必死になって言っていたことを間違いだったんだって、判断出来るなんて…あんた、何様だったの?」


"世界の管理者"である彼女は、魔法少女達に頭を下げて願った。

世界が壊れてしまわない為に、異世界の民達を排除してくれ、と。早い内ならば元の世界に返すことも出来るかも知れない。でもそれが過ぎてしまえば、管理者が全力を持って穴を塞ぐ為、駆除するしかなくなる、と。

管理者が示した、最初のタイムリミットはアウネの民達の抵抗によって、すぐに通り過ぎた。

何より、その抵抗によって彼等が乱発した魔術、神の力を分け与えられた理に介入する力が、世界の崩壊を大きく促進させ、管理者の消耗を激しくさせた。

奏音が、管理者が返事をしなかった、しても声だけだったと言った。それは、彼女が身動きも取る事の出来ない状態に陥っていたからだと、静音も後々に知る事となった。

あの、一度だけ見ることになった、管理者が今置かれているおぞましい光景を、あの当時の奏音達が見ていたらどんな反応を示したのだろうか。

泣き叫んで、嘔吐でもするのかな、とほの暗い感情が静音を襲った。

アウネの神によって、葵達が自身が司る理に属する命達から聞き取ってしまった言葉によって感じた感情を、上手く操られ、惑わされてしまったのかも知れない、と精霊獣達と話したことはあった。けれど、それがどうだというのか。静音は絶対に裏切った彼女達を許すことはしない。一番初めにきっかけと作った奏音を、静音は自分の命が尽きるその時まで恨み続けるだろう。

だって、静音は『死にたくない』のだから。

それが病気だったり、最悪事故だったら、しょうがないと諦めることも出来るかも知れない。どうして、こんな理不尽で馬鹿馬鹿しい事で、何もしていない静音が死ななくてはいけないのか。

静音は、自分が死なない為にも、そして今の静音の傍に居てくれる精霊獣達という家族と共に生き続けるに、魔法少女で在り続けている。


「私に聞こえたのはね、死にたくない、死にたくなかったっていう言葉。そして、『どうして自分達を捨てたの』っていう言葉。」

静音は、小さく深呼吸をした。

身体の奥底から湧き上がってくるものが、あの時と同じだと気づいた。高まった感情に引き摺られて外に出ようとする力を抑える為に、落ち着けと自分に言い聞かせた。

静音と奏音達の違いは只一つ。アウネの民が捨ててきた世界の声が聞こえたか、聞こえなかったか。聞こえていたのなら、アウネの民達の、アウネの神の嘘を見破れたのかも知れない。だが、それは今となってはどうしようもない事だった。


話をしても無駄。


そう考えた静音は、浮かべるのを忘れてしまっていた笑顔を作り出して、奏音に言った。


「私の前に、よく顔を見せれたわね。」

笑顔を浮かべたまま、低い声音を意識して出した静音はゆっくりと言い放つ。

その周囲には精霊獣達が浮かび上がって睨みを効かせ、静音の隣に野球帽とフードの二つを使って口元以外の全てを隠したニコルが護るように並び立つ。


静音の物言いに恐怖を感じたようで、奏音はお腹を庇うように手を回し、その周囲には先ほどまで気配も消して潜んでいた護衛たちが降り立つ。

その中には、奏音の夫であるカウストとソーンの姿もあった。



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