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「居ました。場所も時間も予告通りです。」

興奮した様子を抑えきれず、カメラに向かい、マイクを構えて口早に離すレポーターがいる。

レポーターを映した後にカメラが向いたのは、彼らの目の前に建つ6階建てのビルの屋上。レンズの倍率を上げることで、その姿をはっきりと映し出した。


足首まで真っ直ぐに伸びた漆黒の髪。

体に密着した真っ黒な装い。

スカートから、真っ白な足を晒している。


少女と呼ぶ時期は完全に終えている、女性の姿がそこにはあった。


「平穏な日常の破壊者『黒の魔法少女』『裏切りの魔法少女』が現れました!!」

彼女は、闇の意思の化身によって選ばれた魔法少女。数年前までは、人々から喝采を浴びせられ、人々を護る為に力の限り戦いに挑んでいた内の一人だった。


そんな彼女は今や、敵であったアウネの民と手を結び、協力し合う事で戦いによって傷つき荒れ果てた国を建て直そうと、そして平穏で笑顔に溢れる日常を守ろうとしている国に反旗を翻す『裏切りの魔法少女』として各地に混乱と破壊をもたらし、悪として追われる立場になっていた。





ある日、何一つ普段と変わらずに青く広がり、白い雲を流している空に穴が開いた。

黒くひび割れるように広がった穴から現れたのは、数十隻の空飛ぶ船の大群だった。

その先頭の船から、空に浮かぶように降り立った数人の青年達。人々は、自分達とそう変わるところの無い姿の青年達に息を飲み、その口から語られる言葉を静かに聞いた。

物腰穏やかに自分達が「この世界とは異なる世界から逃げ延びてきた者」であることを告げた。

ある日突然崩壊を始めた彼等の世界、彼等は彼等の世界の神アウネの導きによって開かれた道を通り、この世界に僅かな人数で逃れてきたと言った。

そして、ようやく辿り着いたこの世界に根を降ろし、安住の地を得たいのだと願う。

戦いなど望まない。ただ、地に足を着いて安心出来る土地を与えて欲しいという願いだけを彼等は口にした。


その願いを聞き、政治家や様々な専門家、そして世論が、アウネの民と呼ぶことにした彼等をどう扱うのか、彼等に土地を与えてもいいのか、それを議題とした討論は誰も彼もを交えて紛糾した。

様々な意見、様々な疑問、様々な提案が出た討論の中で、圧倒的に多かった意見があった。けれど、それに踏み切るには人々に勇気が足りなかった。その意見を纏めると、それは『拒絶』という言葉になる。

突然現れた存在を、しかも異世界という物語の中でしか知りえなかった未知の場所からやってきたという、未知の技術を扱う一団を、人々は信用することは出来なかった。何より、娯楽として楽しんでいた映画や漫画、小説といったものに親しんでいたせいか、その未知の力をもって自分達が排除され、この世界を奪おうとしているのだと声を上げる者がすぐに現れ始めた。その声は瞬く間に広がり、事実として受け止められていった。


そして、始まりも突然だった。

始めに手を出したのは、こちら側。

ひとまずは、と数十隻の方舟は琵琶湖へ降りるよう指示が出された。その指示に大人しく従い停泊した船団。琵琶湖の周囲には自衛隊、警官が配備された。それ以上の野次馬も集まった。

数日経ち、数週間経ち、それでも話し合いは終わらなかった。様々な主張が入り混じり、及び腰になった政治家達は判断を下すことを躊躇っていた。

そんな中、精神に限界を迎えていた一人の警官が近くに停泊していた方舟に向かい怒声と共に銃を発砲した。

その一発の銃弾が、長い時間待機させられ不安が募っていたアウネの民達の恐怖を煽り、新天地を求めて戦う覚悟を決めさせてしまった。

緊張と警戒、不安を胸に停泊する方舟を監視していた自衛隊や警官達と交戦が始まってしまったのは、その一発の銃声が鳴り響いてから数日も経たない内だった。

それによって、国民の意思は完全に決まってしまったのだった。


それでも、やはり異世界の技術、力というものは未知のものだった。始めは地の利や数によって圧倒していた戦況だったが、異世界の魔術という未知の力、魔道具という未知の効果を秘める道具の前に段々と押し遣られていくことになった。


あぁ、もう負けてしまうのか。侵略されてしまうのか。

人々が絶望を覚えようとしている時、それまで感じたこともない、見たこともない奇跡を目の当たりにした。


決死の覚悟に武器を構え戦線を護る自衛隊と、何時でも攻撃が出来るようにと力を纏い立つアウネの兵達の間に出来た空間にそれは空から墜ちてきた。


六色の光の塊。

そう表現するしか無い、それはしばらくの間、煌々と周囲を六色の光が交わることなく照らし続けた。人々も、アウネの民達も呆然とその光景を見るしか出来ない時間だった。


そして、長く感じられた短い時間の後、その六色の光の中から、その光の色を纏った六人の少女達が現れた。

12・3歳程とまだ幼さを残す少女達は、それぞれの横に空に浮かぶ少女達と同じ色を纏う動物のような存在を連れていた。

彼女達は魔法少女だと名乗った。

世界を護るために生まれる、自然の意志の巫女たる存在こそが魔法少女。彼女達を遣わしたこの世界の管理者は、世界の隔たりを無断で壊し侵攻してきた異世界の者を受け入れたりはしない。そう、魔法少女達に寄り添う、自然の意志の化身である精霊獣達が宣言し、魔法少女達はその力を解放した。


白色を纏う少女が喉を震わせれば傷ついて倒れ人々の傷が癒えていた。

黒色を纏う少女が喉を震わせれば戦いに震えていた世界に静寂が訪れた。


赤色を纏う少女が腕を振るえば炎が荒れ狂った。

青色を纏う少女が槍を振るえば水が荒れ狂った。

黄色を纏う少女が剣を振るえば大地が荒れ狂った。

緑色を纏う少女が鞭を振るえば風が荒れ狂った。


魔法少女達の力で、もう後一歩まで追い詰められていた戦況が完全に逆転していた。

あまりの光景に、それを映像として見ていた人々の声までも奪っていた。


アウネ神とアウネの民、世界の管理者と魔法少女、

そして人々の闘いの火蓋はこうして切られたのだった。


それからの戦いは、それまで以上の熾烈さを極めた。

アウネの側も魔術・魔道具を惜しみなく投入し、果てには船団を率いる立場にある高位者達までも戦いに身を投じた。

魔法少女は、自然の力を惜しみなく使い、そして幼さという無邪気さを持って戦いに身を投じた。

そうして生まれたのは、戦いの舞台となった各地に今も残る爪あとだった。大地は抉れ、焼き尽くされ…幾つもの街は消えることになった。自然にも大きな傷痕が残っている。


人々は疲れてしまった。


そんな戦いが終わったのも突然だった。

そうなる事を魔法少女達も知らなかった。

国民も知らなかった。

だが、それはすぐに受け入れられた。

何故なら、皆疲れていたからだ。戦いの日々に、巻き込まれぬようにと逃げ惑う日々に。それは、アウネの民達も同じだった。

何より、戦いの中で僅かに、細々とアウネの民の末端と国民の末端で交流が始まっていた。ほんの少ししか違いは無いのだと、相手を理解する者達が増えていた。

国民の意思を受け、自分達も戦いに疲れ、そして戦いを交える中でアウネの戦士達に理解を示し始めていた魔法少女達も、精霊獣の制止を振り切り、戦うことを止めた事にした。アウネの戦士達と魔法少女達が握手を交わした映像は国中に流れ、人々の歓喜の声が国を包み込んだ。


けれど、それを許せなかった者が一人いた。

祝福に溢れる国民の姿を冷めた目で見下ろし、地に足を踏み下ろして新しい生活を始めたアウネの民達に嘲笑を落とし、幸せそうに笑う魔法少女達に憎悪の眼差しを送り、姿を消した魔法少女がいた事を、その時はまだ誰も気づいていなかった。






「彼女の仲間であった他の魔法少女達は、今やアウネ自治区の代表夫人など、華々しい立場について平和を護る為に行動に従事している事は皆さんも御存知でしょう。それぞれ、可愛らしいお子さんにも恵まれ…」

バァンッ!!!

「はっはは…」

ビルの屋上に立つ『黒の魔法少女』を背景に、中継を続けていたレポーター。

彼が、彼女のかつての仲間達である5人の魔法少女の現在について語ろうとした時、一瞬の光とつんざくような音が中継の映像に映された。

恐怖に腰を抜かして座り込むレポーター。

カメラマンが座り込んだレポーターへとカメラを向けると、レポーターの横の地面がプスプスと煙を上げて焦げ付いていた。

現場にいるスタッフ達は見ていた。

レポーターの横を、雷が落ちる瞬間を。

ハッとこの異常な事態の原因に思い至り、カメラマンはビルの上に立つ魔法少女へと向けた。そして、映し出した。ぞっとするような表情でこちらを見下ろしている、漆黒に包まれた魔法少女の顔を。


魔法少女が腕を上げ、そして振り下ろす。


バァンッ!!!

そこで中継は途絶えてしまった。

魔法少女が生み出した、二発目の雷が落とされたのは、近くに停車していた中継車の長く伸ばされたアンテナ。

プスプスと黒い煙を上げて焦げ付いているアンテナが、彼等の目にはっきりと入っていた。



「うっさいのよ。余計な情報私に聞かせようって言うんなら、アンタん所の中継車のアンテナ全部に雷落とすわよ!!」

魔法少女の怒鳴り声がビルの壁に反響して、彼等の耳に届いた。


「どうせ、まだ結婚してないわよ。子供いないわよ。いい年して、こんな格好して『魔法少女』なんてしてるわよぉぉぉぉ!!!!」


周囲一帯に、何発もの雷が連続して落ちていった。


雷の当たる事は無かったものの、その眩い光でしばらくの間目が使い物にならなかった彼等は知らない。

ビルの屋上で顔を手で覆って大泣きしている『黒の魔法少女』の傍を6体の精霊獣が飛び交い、宥めている様子を。


そして、家族とも言える6体の精霊獣に宥められながらも涙を止めることの無い『黒の魔法少女』もまだ気づいていなかった。

その様子を、隣に立つ8階建てのビルの屋上から見下ろし、ニヤニヤと笑っている男の存在を。


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