20)サスケ
久しぶりにUPしました。辻褄があわないところがあればご指摘お願いします。
ポートタウンでの買い物が終わると、次の目的地へと出発する。
先ほど見かけたロボットの姿をした人物たちの乗った荷馬車に何度かすれ違う。こちらも馬の代わり馬の姿をしたロボットであった。
今日も天気がいい。三人は船の料理人に作ってもらったお弁当を道端の草原でいただく。 ゴズは牛だけに草を食んでいる。可奈は弁当のパンをゴズに勧めるが、「あっしはこれで十分だ」と言ってくれる。今日はともかくこの先食料が限られる分、道端の草を食べられるのは徹たちにとっても助かる。
「俺は、肉食だけど何でも食べるぞ」
クマ夫は言うが、可奈の料理に口の肥えた彼の言にはあまり信憑性がない。
食事が終わっての休憩中に徹は次の行き先を可奈に尋ねる。
「この次はどこに行くいのかい?」
「もう一人仲間になってくれる人がいるの。そこへ向かうわ」
「それはどんな人物?」
「その人は忍者なの。ぬいぐるみなんだけど動物の種類はわからない」
「へー、可奈でも分からない事あるんだな」
「忍びだからね。正体は隠してるの」
「じゃあ、正体を暴きに出発するとしますか……」
街道を進むこと一時間、ゴズはゆっくり足を止め、運転席に座っている可奈の方に首を向ける。
「こっちの道ですね」
その問に頷く可奈。ゴスは体を曲げ草むらの中へ入っていく。一見道はないように思えたが、道はあった。獣道のような人一人やっと通れる細い道。馬車の車輪は細道からはみ出し、膝くらいまで伸びた草を馬車は押し倒して進んでいく。街道を進む時より馬車の進む速度は落ちてはいるが、ゴズの歩みは力強い。細道は正面に見える林まで続いていた。
林に近づくと、深緑色に見えていたものは竹であることが分かった。よく手入れされているらしく、竹の生えている間隔が広く、日に光も十分に地面に届いている。細道は多少蛇行しているが馬車が通過する幅は十分である。車輪が堕ちた笹の葉を踏みしめる。
竹林に分け入ってからどれくらい進んだのだろうか。草原と竹林の境界線を窺い知ることはできなくなったところで、馬車は歩みを止めた。ゴズは耳を四方に向けられ、辺りの音を聞き取るような仕草をしている。
「何者かいますぜ」
ゴズは警戒している。可奈は座席の後ろに置いてあった盾と剣を取り馬車から舞い降り、臨戦態勢を取り、あたりの様子を伺う。徹は手探りで長剣に手を伸ばし、それを握りしめた瞬間、可奈の表情が目に飛び込んできた。
――可奈、どうしたんだ?
今まで見たことがない神剣で厳しい目付き。
「――徹、ゴズの前へ」
張り詰めた可奈の小声がかろうじて、徹の耳に届いた。
握りしめた長剣を鞘から抜き、馬車から飛び降りる。両手で前方に構え腰を落としゴスの前方にいる可奈の側に擦り寄った。
「何者か分からないが、前方の竹の上に何かいる……」
緊張した声に驚きを覚えた徹であったが、彼女の言う通り前方の林の方に剣先を向け、意識を集中する。笹が風に揺らされサラサラと奏でる音以外に、竹のシナリが風を切る強い響きが混じる。それは次第に大きくなっていくことが徹の耳にも感じた。
――バサッ
目の前に黒い影が横切った。その瞬間、黒い影から何かが投じられ、徹めがけ迫ってきた。
「徹、伏せて!」
徹と黒い影の直線上に可奈が踊り出る。竹林の中を金属音が轟いた。可奈の構えた盾によってその飛翔物は軌道を変かえ、地面に叩きつけられた。くさび形の手裏剣であった。それを見た可奈は少し安堵の表情を浮かべた。しかしすぐにその表情は一変する。
「徹、深追いしないで!」
その声は徹には届かなかった。竹の上を飛び渡りながら逃げていく黒い影を、バッティングフォームに似た八相の構えで追いかけていく。
「――ちくしょう!」
徹は平常心を失っている。目には怒りで満ち溢れていた。
いつしか、黒い影は地表を走り、徹はそれに追いすがる。距離が縮まり、振り下ろせば剣が当たりそうになる寸前に、黒い影は徹の視野から消えた。
徹は立ち止まった。竹のしなる音も聞こえない。可奈ともはぐれてしまった。
「くそ、罠か……」
剣を前に突き出し中段の構えを取る。そして、辺りの様子に神経をとがらす。
「奴はどこだ……」
背後から空気を切り裂く切る音がした。手裏剣が徹を狙う。徹は飛び込み前転をしながらが、かろうじて体をかわす。片膝をつきながら上半身を起こし、長剣を手裏剣の飛んできた方に向ける。
――あの方向にいるのか。しかし姿が見えない。見えない敵とは戦えないのか……
再度、手裏剣が空間を貫く。片膝をついている。よけきれない。
――当たる。
そう思った瞬間、剣から発せられている淡い光は徹の全面に広がった。金属音が竹林の中を駆け抜けた。
――今の光はなんだ? シールド?
手裏剣は落ち葉の上に転がっている。徹は驚きで長剣を落としてしまった。
「徹!」
可奈の呼びかけに我を取り戻し、走り寄ってくる彼女のほうを向き立ち上がった。
「可奈、無事か?」
可奈に声をかけた瞬間、彼女の平手が徹の頬を襲った。痛みと反動で顔を伏せた。
「それはこっちのセリフよ!」
可奈は吐き捨てて言った。
左手を頬に当てながら可奈の顔を睨もうとしたが、彼女に怒りの表情に徹は戸惑った。一筋の涙が頬を伝っている。
「サスケ、悪ふざけはいい加減にしなさい!」
可奈が大声で叫ぶと、黒い影が現れ、徹たちの方に近寄ってくる。
――そうだ、まだ敵がいるのだ。
徹は落ちている長剣を拾い上げ中段の構えを取る。それを可奈の右手が制止する。
「彼は敵じゃないわ」
可奈の一言でやっと徹の緊張感が取り除かれた。
黒い影は、可奈の目の前に飛び降りた。右手の握り拳と右膝を地面につけ、立てた左膝の上に浸り手を置き、頭を下げる。
「可奈様、お久しぶりです。ようこそおいで下さいました」
黒装束のその人物は、クマ夫と同じぐらいの背丈で細身、顔は黒い布で巻かれ両眼しか確認できない。
「サスケ、本当に久しぶり。彼が友達の伊勢崎徹くん」
可奈の表情に目をやる徹。すでにいつもの可奈に戻っていた。
「忍びのサスケと申します。勇者さまのお噂は聞き及んでおります。それと知りながらの数々の無礼、平にお許し下さい」
可奈の時と同じようにサスケは頭を垂れた。
「ああ、怪我もなかったから大丈夫だよ。腕前を試されたんだね?」
「何卒ご容赦を……」
サスケは更に深々と頭を下げた。
「サスケ、家に案内してちょうだい」
可奈は跪くサスケを促した。
「ゴズたちはどうした?馬車に戻らなくていいのか?」
その問いかけに、可奈は徹の表情を見て、少し笑みを浮かべた。
「ゴズには細道を先に進むように言ったわ」
徹は今になって、可奈が武器を持っていないことに気がついた。
――そうか。手裏剣を見てサスケだと気がついていたんだな。
「では参りましょう」
サスケは三人の先頭を歩く。徹はサスケの後ろ姿を観察する。お尻から細長く、くねくねとした茶色い尻尾が歩く度に上を向いて揺れている。
「――サルのぬいぐるみか・・・」