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Dream Note  作者: 御衣黄
18/22

18)お金の重み

 朝日が部屋の中に差し込み徹はいつもより早く目を覚ました。何分この客室は壁の半分以上がガラス張りのせいで、外の様子がよくわかる。ポートタウンに近づいたらしく、海上にはチラホラと他の船影も見受けられる。徹は部屋の外の甲板に降りた。

 そのうち、たくさんの船が停泊している港が見えてきた。だんだん近づいていくとそれらの船は帆船や左右に外輪の付いた蒸気機関船、後方に外輪のついた蒸気機関船が混在していること事が分かった。少し離れたところには、漁船と思わる小型の船も桟橋に何十隻と繋げられている。起きてきたクマ夫が徹に近寄ってきた。

「この街で魔女討伐の準備をするんだ。キャッスルタウンの舶来品の店よりもっといろんなモノがあるらしいぞ」

 クマ夫はなんだかワクワクしている。

 ――そうだな。心の準備も再度しないといけないな。

 徹はクマ夫の話をそう受けとめた。


 徹たちは朝食を船内で食べたのちポートタウンへ上陸する。船長は徹に「どうかご無事で帰ってきてください」と告げる。トーマスや船員の多くが徹たちに手を降る。

 港には倉庫らしい建物が立ち並び、貿易船の荷下ろし、貨物船への荷物の積み込みの仕事のため朝から多くの人が働いている。

 徹たちはタラップを降りた。そこにはワンボックスカーの大きさ幌馬車が置かれている。しかしゴズの姿が見えない。徹は幌馬車の荷台を除き込むと、積み込まれた荷物の他にゴズが横になって眠っていた。

「ゴズ、起きろ。出発するぞ」

 ゴズの耳がピクリと動くと、首をもたげて顔が徹の方を向く。

「おや、旦那、お早うごぜえます。もう朝ですか?」

「もう、とっくに日は昇っているぞ」

「旦那、そりゃ失礼しましただ。よろしく頼んますだ」

 ゴズは二本足で立ち上がり荷台降りて馬車も前に歩いて行く。徹たちはリックサックを馬車の荷台に載せた。徹と可奈は前の運転席に乗り、クマ夫は荷台に乗り込んだ。


 可奈はゴズに市場に連れていって欲しいと依頼し、その道順を教えている。

 ゴズは特殊なベルトをしていた。首元と胸に巻かれた二本のベルトは繋がっていた。可奈の説明が終わると、ゴズはそのベルトに馬車の前から伸びている二本の棒を繋いで、4本足で歩き始める。馬車はゆっくりと進みだす。しかしいつまで経ってもスピードが上がらない。他の何台かの馬車に追いぬかれた。

「なあゴズ、もう少しスピードでないのか?」

 いらいらした徹はゴズに催促をする。

「それじゃ、旦那がたしっかり馬車に捕まってくだせえー」

 ゴズは暴れ牛のように走りだした。馬車が上下に激しく揺れ、徹たちも体が跳ねる。角を突き出して走る姿は、まるでスペインの牛追い祭りのようだ。路上をあるくぬいぐるみたちもびっくりした顔で通り過ぎる幌馬車を見送る

「ゴズ、ストップ、ストップ!」

 徹は馬車に付いているブレーキを引いた。スピードが落ちてゆく。

 ゴズは馬車のブレーキが効いていることに気がついてピタリと止まった。

「ゴズ、スピード出し過ぎだよ」

「あれ、そうでげすか。じゃどれくらいの塩梅ならいいですか?」

「他の馬車ぐらいのスピードに合わせてくれたらいいんだよ」

「はい、がってんしました。あっしは荷馬車ばかり引いてたもんで、人を乗せるのは慣れてなくてスマンです」


 これで何とか街の中を軽快に走れるようになった。そのうち市場に到着する。

 市場は馬車の幅で片道二車線の道の両端にズラリと食料品店が並んでいる。左一車線分はお客の馬車や荷下ろしする馬車で走行不能になっていた。朝から人通りが多い。新鮮な野菜や魚を購入しようとする人たちであろう。

 可奈がゴズに止まるように指示を出すと、馬車は左車線の隙間に駐車する。

「みんなはここでしばらく待ってて」

 可奈は馬車を降り、店先を一店一店と順番に覗いてはメモを取っている。どうやら、お目当ての食材の値段を調べているのだろう。少しでも安いものを買いたいという万人の心理は可奈も例外ではなかった。可奈が店を覗き込んでいる姿が遠くになって見えなくなっていく。ゴズは4本足で立ったまま居眠りをしている。徹もあくびが出そうになる。しばらくすると可奈が戻ってきた。

「徹とクマさんは私についてきて。ゴズさんは馬車を引っ張ってきて」

 徹とクマ夫は馬車を降り、可奈についていく。可奈はある店の前で商品を眺める。ゴズは目を覚まし、馬車を引っ張って店の前の道路に駐車した。

「おじさん、小麦粉と大きい袋で二袋ね」

「まいどあり」

 可奈は大人買いというか業務用買いをしていく。次の店に行くとじゃがいも、ニンジン、たまねぎ、魚の干物など腐りにくい物をまとめ買いをしていく。もちろんこれらは旅の先々で村があり、そこで食料を補充できるとは限らないためである。比較的高値な貿易品のバターやチーズ、ハムやソーセージなども買っていく。徹には料理のことは分からない。買い物は可奈にお任せして、徹はスティワートに預かったお金で支払いを済ましていく。支払いが済むと徹とクマ夫は買い物の運搬係だ。

「可奈様、お連れ様は勇者様でしょ。魔女を倒すのを祈っているよ」

「ありがとう。みんなの期待に答えるように頑張ります」

 可奈からは値切らないが、店の主人から値段を負けてもらうこともあった。徹も頭を下げる。さすがに勇者様から値切るのはカッコ悪いのだろう。


 市場を一巡りして、荷物持ちの徹はヘトヘトになった。

「可奈だいたいこれで買い物は終わり?」

「うん、調理器具はお城から使い慣れたものを借りて馬車に積んでおいてもらったけど、移動用かまどとか、テント、シートも欲しいな。輸入雑貨のお店にいけばあると思うけど、その前にお金を下ろさないといけないね」

 徹の預かったお金の入った巾着袋もかなり軽くなっていた。

 徹たちは馬車に乗り込む。馬車の荷台はお城からの荷物と買い物した食料が積み上げられている。可奈は「次は銀行へ行ってちょうだい」とゴズにお願いしてその道順を教える。この街は、お城のある街と違い道路は舗装されていない。しかし、区画整理はしっかりされているため、行き先の指示はしやすかった。


 銀行の前に到着すると徹と可奈は馬車を降りる。銀行の看板には『王立銀行ポートタウン支店』とある。政府系金融機関の一種なのだろう。

 徹と可奈が店内に入ると、「いらっしゃいませ」と制服を着たぬいぐるみの銀行員たちが挨拶をする。日本の銀行と同じ光景だ。可奈が窓口のチワワのぬいぐるみの前に行く。

「口座のお金を下ろしに来ました」

「勇者様の口座ですね。では本人確認を行いますので勇者様こちらへいらしてください」

「徹、こっちへ来て」

 可奈の催促に長椅子に腰掛けていた徹は窓口へ行く。カウンターにはペーパーナイフが置いてある。

「これで、強盗でもするの?」

「徹、違うわよ。それ握って。振り回さなくてもいいわよ」

 ――振り回したら、それこそ銀行強盗だ。

 徹がペーパーナイフを握るとほのかに輝いた。

「はい。お手数掛けました。勇者様ですね。ではおいくら下ろしましょうか?」

「口座にはいくらあるんですか?」

 徹は下世話なことを聞いた。チワワの銀行員は帳簿を見ながら答えた。

「はい。残高は3,238,745アルクです」

「1アルク10円だから、――三千万円! マンションが買えるじゃないか」

 可奈は吹き出しそうになる。

 チワワの銀行員が説明する。

「このお金は国民の寄付によって貯められたお金です。勇者様にお金の不自由があってはいけないと集められました。どうか、戦いのためにご自由にお使いください」

 ――まあ、そう言われても物見遊山の旅じゃないから……

「とりあえず10万アルクでいいわ」

 可奈がそう伝えると、チワワの銀行員は残念そうな顔をした。

「そうですか。では、しばらくお待ちください」

 徹と可奈は椅子に座り話し合った。

「10万アルクって100万円だよね。それでも大金じゃん」

「うん、なにかとお金も必要になるかと思うけど、それが精一杯よ」

「精一杯?」

 その疑問符は銀行員がお金を差し出す姿で徹は解決した。

「おまたせしました。勇者様。よいしょっと」

 徹が窓口にお金を取りに行くと、バレーボールぐらいの革の巾着袋が置いてある。中身はもちろんお金である。両手で持つ。

「重い!」

 中身は金貨や銀貨だから重いのは当然である。この国には紙幣はなかったのである。


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