幼馴染だからって、負けヒロインとは呼ばせない!
たぶん恋愛。
なんで。勇者の幼馴染だってだけで「負けヒロイン」呼ばわりされなければならないんだろう?
私は可愛い幼馴染。アイツの事、誰より知ってるのは私。同じ年に生まれて一緒に育った。一日中、ほとんど寝る前までべったりと。さすがに一緒に寝るのは駄目だって分かってる。だってもう私たち十三歳だもの。そういうのは後何年かして結婚してからなんだよね。
アイツの好物をおばさんに教わって、もういつでも嫁においでと言われてる。ちょっとアイツの顔がいいからって、寄ってくる虫はこまめに追い払う勤勉さ。我が家でも村中でも、私がアイツに嫁ぐのはほぼ決定事項と見られていた。
そりゃ、言われた事はない。
言った事もない。
好きだなんて、お互いに。
でもほら、そういうのって伝わるものだと思うし、空気って言うか、埋めちゃった外堀でお互い他に相手がいないし。今はまだ子供の範疇だから、曖昧でもかまわない。たったあと数年待てばいい。そしたら私はアイツと結婚するんだ。
だから安牌だと思っていた。このまま結婚して子供が生まれて、いつか川を渡る日まで、ずっとずっと一緒だと。
偶に村に来る冒険者に纏わりついたり、日課みたいに棒を振り回したり。
本当は村から出て、剣で身を立てる生き方がしたかったのは知っていた。
だからって、アイツの家の畑を受け継げるのは他にいなかったし、家を飛び出すなんて親不孝ができる奴でもなかったから。馬鹿な夢ばかり見てる男に現実を見せて尻に敷く、村のおかみさんたちみたいに私がなって。平凡で、そんなに余裕はないけれど、食べる事だけなら何とかなる、そんな二人の暮らしが待っていると信じてた。
それが適応されるのって、男が村を出ない前提だって気が付かなかった。アイツがモブだった場合のことでしかなかったんだ。
アイツが勇者として目覚めたその日。
私もまた目覚めた。但し、前世に。
そうしたら、こう色々物語とかゲームとかを知ってた前世知識が示してくれた。勇者が魔王を倒して幼馴染の元に戻ってくる確率を。その低さに目眩がした。
私がちょっと可愛いって、あくまでもちょっとで。
小さな村の外に出りゃ、若い女の分母が違う。王女だの聖女だの女魔法使いだの、もしかしたらクッコロな女騎士もいるハーレム・パーティーになっちゃっう可能性だってあるよね。清楚だったり妖艶だったり、美女に美少女、ばいんぼいんの何かに囲まれれば、そりゃ垢抜けない幼馴染の元へなんて帰らないのも納得だ。あれは恋じゃなかった、で済まされても。
うちの村は。お約束の辺境にある。でもって村にはすぐ近くに森があって。薪やら山菜だの肉などの日々の糧を与えてくれている訳だ。土地が痩せて畑の作物だけじゃ食料が足りないし、火を使うのに薪だって必要だ。
もちろん、子供の遊び場でもあるし、年頃になると恋人たちの逢引きの場所にもなる。おにいさん、おねえさん。もう少し人目につかない所を選んでくれ。目撃者は語る。明日には村中に知れ渡る事請け合い。
そんな森だから、私たちだって遊びに行く。ついでに何々を取ってこいと家族に言われるのも日常。
ただその日。私とアイツは崖下で朽ちかけた祠を見つけてしまった。おそらくは村人の誰も知らないであろう祠を。
祠というのが正解かどうかもわからないが、少なくとも屋根があり、扉があった。内部がどうなっているのかはまったく見えない暗がりが、開けた扉の向こうに続いている。……そりゃ開けるともさ、こんな扉があったなら。そして扉のサイズは、まだ大人になりきれない十三歳の私たちならば潜り込めそうなものだった。思わず顔を見合わせて無言で頷いて、アイツが先に、そして私が続く。このあたり、幼馴染ならではの意思疎通。そこに言葉はいらない。
這うように入った祠の中が、暗がりに目が慣れてそのうちぼんやり見えるようになる。田舎の人間はそこそこ夜目が利くのだ。
扉よりも広い空間は、立ち上がれる程の高さがあったが、どうやら何もないらしい。軽い失望に駆られるが、だが秘密基地にもってこいの場所でもある。小さな村の中にはプライバシーなんてものはないのだ。秘密基地にしようとアイツに提案する前に、アイツが黙って奥を指した。壁から縦に光が漏れている。さっきまでは暗いだけだったはずと首を傾げながらも、好奇心旺盛な少年少女はその光に手を伸ばして、結果、更なる扉を開けてしまった。
勢いのまま転がるように押し入った先は洞窟へと繋がっており、光源は洞窟の中央に浮かぶ一振りの剣。
どこからどう見てもただの剣じゃない。なのにアイツは熱に浮かされたようにぎこちなく、それでも迷う事なく、剣の柄を握った。途端に剣からの光はアイツをも光らせて。そして時が止まった。
いやもう本当にそうとしか言いようがない。私は隣にいるのに、その横でアイツと剣が明滅しながら交信を続けている。膨大な情報のやり取りはすぐに終わるようなものではないから、きっと時間に干渉しているんじゃないかな。
そして私はとばっちりを受けていた。止まった時間と止まっていないアイツらの時間の両方を認識してしまっているのだ。アイツらの結界に、片足だけが入ってしまっているような歪な状態で。
「いやいやいやいや! あれって聖剣でしょう!? でもってアイツが聖剣に選ばれちゃった勇者って事でしょう!? それ、狡い! 私だって聖剣の発見者なんだから、変に巻き込まれてるんだから、私にも侘として能力くれていいと思う!」
私の主張が天に届いたのか、アイツの時に比べたら地味に地味〜に、ぽん、とコルク栓を抜くような音がした途端、私は前世を思い出した。
それなりの情報の奔流があったけれど、真っ先に思ったのが「勇者の幼馴染で負けヒロイン・ポジかよ、ちくしょう!」だったという。
で、確定していると思っていた未来が崩壊する予想に怯えたのが上記。こう勝手に? アイツに捨てられてしまうんだわ、負けヒロインだから、とか何とか。
でも。アイツと聖剣の交信がやたら長くて。本当に長くて。外の時間と隔絶されているから、別の意味で考える時間があったから。私は段々と冷静になってきた。
お花畑の恋愛脳なぞ、この際どうでもよくなる事実に気が付いたから。
いや、私、このままじゃあっさり犬死にしますやん。
神様だか何だかは、アイツに勇者という称号を与えた。そして巻き込まれた私が前世を思い出したのは本当に偶々で、別にちゃんと能力が与えられていた。
貰ったのは鑑定と収納。お約束だ!
で、少し落ち着いて、自分の中に今までなかった能力が芽生えれば、とりあえず手近なもので試すよね? はい、鑑定しましたとも。アイツと聖剣とこの洞窟を。
聖剣は神代から勇者が持つべく定められたもの。魔物を倒し、邪気を切り捨て、魔王すら屠れる唯一の武器。魔王の復活と共に聖剣も目覚め、己を使うに相応しい人間を呼び寄せ、勇者とする。
そしてアイツのステータス。うん、称号に勇者がちゃんとある。スキルも山ほど持っていて、さすが勇者、さすゆう。なんだけれど。ただの村人だったアイツである。スキルレベルは軒並み1。え、うちの勇者、弱すぎ!?
この洞窟内というか祠には選ばれた人間しか入れない仕様だった。じゃあなんで私が入れたのかというと、おそらくアイツに引っ付いていたからだと思う。そして祠の扉からこの洞窟までが聖域となっていた。聖なる結界で聖剣を守るための場所。聖の字だらけだよ!
鑑定というのは、え、そこもっと詳しく! とか思うと情報が追加で得られるようだった。それによって判明した事実。
聖剣は、ここから出たら魔族に察知されるということ。
聖剣は勇者を選んで、共に戦って、最終的に魔王を倒すまでがお仕事である。今もちかちか明滅しているのは、村の少年Aでしかないアイツの生体情報を得て、勇者に相応しい能力を得られる素材へと作り変えている最中だからだ。それが終わったら、アイツは聖剣を持って勇者として旅立つだろう、当然のように。
だが待って欲しい。
聖剣が世に出たならば。魔王だかその配下の魔族だかは、当たり前のように襲来して、目覚めたばかりで弱い勇者を倒そうとする。芽は早いうちに摘みたい。その気持ちは分かる。上手くすれば勇者は早々に死んで、そしたら聖剣を持てる者がいなくなって魔王も安泰となりゃ、襲うしかないよね。
碌に戦う術もないアイツは、それでも聖剣の力に守られてぎりぎり逃げられる確率が高い。だって勇者だから。
でもおそらく。村は壊滅する。
村人は漏れなく全員死亡。
父も母も、将来を約束したも同然の幼馴染(私のことだ)も魔族に殺されて、その遺体を抱きしめて慟哭した後、復讐を誓って勇者は滅びた故郷を後にする……。
うん、ありがちだよね。そして勇者の魔王を倒そうという大きな理由になるね。
やってられるか! そんな回想シーンで語られるためだけに殺されるなんて、絶対、認めない!
恋のお花畑なんざ後回し。私は早急に生存戦略を練らなければ。
どれくらい経ってか。聖剣が光るのをやめた。アイツの作り変えが終わったんだろう。聖剣の代わりに洞窟が淡く光り出して、アイツの汗で張り付いた赤い前髪の下、さっきまでとまったく違う強い意志の光を宿した瞳がよく分かる。座り込んで聖剣を抱えたアイツは、ようやく私に気が付いて、困ったような、少し泣きそうな顔になった。
「アニー、俺、勇者になっちゃったみたい」
「だろうね」
「魔王、復活したんだって。俺、倒しに行かなきゃ」
「そうなるね」
「アニー? なんか冷めてない?」
「エドガーがさ、聖剣とあれこれやってる間に考える時間が沢山あってね?」
「うん」
「でもって、私もちょっとした力、貰ってね」
「うん?」
「犬死にしてやるもんかって決意したんだよ」
「えーと? アニーは俺が守るよ?」
「気持ちは嬉しい。でも現実的じゃないから。エドガー、あんた、そのまま外に出て、それからおじさんとおばさんに勇者だって説明して、それから一人で旅立つつもりだったでしょ?」
「うん。まったくその通り。さすがアニーだね」
見慣れた呑気な表情を浮かべるアイツの前ににじり寄る。
「色々、目覚めちゃったから直球で言うと。私の方がエドガーより頭がいい」
「えっ!? そう? そうなの?」
「そうなの。考えなしにこのまま外に出るのは阿呆のすることだよ。ここから外に出たら、聖剣は魔族に察知されてしまう。そうなると村は襲われるわね。あんたは聖剣に守られるかもしれないけど、おじさんもおばさんも、もちろん私も死んでしまう。だからね?」
私はアイツに向かって手を伸ばして。
「収納」
言葉にすると同時に、聖剣が私の空間収納に納まったのを感じる。普通なら私が聖剣に触ることも持つこともできないだろう。でも、触らなくても目視できれば私の収納は可能なのだ。それは聖剣も例外でなく。……これ、なんでも盗み放題にならない? バグ? それともチート? まあそれはともかく、私の収納の中にある限り、聖剣の在処は魔族に隠される。自分の収納能力をしつこく鑑定したらそう出たのだ。ならば利用するしかあるまい?
「えっ、俺の聖剣は!?」
「本当に必要な時まで私が預かるから」
「いや、俺、これから旅立つんだけど! 聖剣ないと困るんだけど!」
「安心して、私も行くから。使う場面になったら渡す」
「それ、おかしくない? 勇者が持つもんだろう?」
私は勇者になってしまった幼馴染に向かって、呆れたような視線を向けた。
「言ったでしょ? エドガーに持たせたままだと、村が襲われて皆殺しになるって。あんた、私が死んでもいいのね?」
「アニーが? 嫌だよっ!」
「なら聞いて。あんたは勇者になったけど、今は超弱い」
「そ、それは、そうかもだけど、言い方!」
「私が預かっている間は魔族にも行方が分からないままなのよ。で、そうやって時間を稼いでいる間に、あんたには修行してもらう」
「修行」
「そう。本物の剣なんか持ったこともないでしょ。身体鍛えて。剣の使い方習って。戦うために必要な知識を蓄えて。経験を積んで。勇者として準備ができてから魔王討伐に旅立つために。今のままじゃ弱すぎる」
私の言葉に打ちのめされて地面に懐くアイツの背中を叩く。
「ほら、一旦帰るわよ。あんたんちと家と、両方を説得して、明日の朝に出る荷馬車に乗せて貰うから」
「聖剣見せなくて、どうやって俺が勇者だって証明すんだよ!?」
「ふふん。この賢者アニー様にお任せよ!」
引きずるようにアイツを洞窟から連れ出して帰宅すると、私は両家の両親を説得してみせた。脅迫とも言えるかもしれない。人間誰しも、人に知られたくない秘密の三つや四つはあるものだ。鑑定さんはチートだなあ。
そうして翌朝、私はアイツと荷馬車に揺られていた。目的地までいくつか村や町を経て約三日の道程。
「……で、どこ行くんだよ」
両家の両親の私への怯えっぷりが伝染したのか、アイツもまた少し私と距離を置こうと無駄な努力をしている。荷物が満杯の中、無理に乗せて貰ったために、座れる場所は狭いのだ。
「辺境伯を訪ねるの」
「……そんな偉い人にどうやって会うんだよ」
「そこはまあ、アニーちゃんにお任せってことで」
「おまえ、友だち失くすぞ」
私が取るであろう方法に行きついて、アイツの顔色が悪くなる。でも、使えるものは使っていかないと、こちらには時間がないのだ。勇者が成長するのが早いか、魔族が襲ってくるのが早いか。だから私の評判がどうなろうと、それは些末なことだと片付ける。でも。
「エドガーがいてくれるでしょう? 私はエドガーさえいればいいわ」
「ばっ、おまえ、何言って!」
さっきまで青かったアイツの顔がたちまち赤く染まった。おやこれは、まだ幼馴染ルートが残っている?
「私、信じてるの。エドガーは強くなる。魔王だってワンパンで倒せるくらいに。そうしたら、私のこと、守ってね?」
「お、おう」
ごめんね。私、前世では、地道なレベリングを繰り返して、レベルをMAXまで上げてから魔王城に突撃するタイプだったの。まずは辺境伯の騎士団に放り込んで剣術レベルを上げて。次に小さい魔物から順に強い相手と戦ってもらって。勇者だったら魔法も使えるようになってもらわないとだから、魔窟と呼ばれる魔法使いの塔にも放り込もう。遺跡にダンジョンの探索も大切よね。やってもらうことが山のようにあるのよ。覚悟してね?
三年後、すっかりトレーナーと化した私の育成計画により、レベルMAXとなったエドガーが、痺れをきらしたらしい神からの神託で正式に勇者と定められた。そんな彼をフォローするための勇者パーティも結成。王女であり聖女である清楚美少女。魔窟の主である妖艶な女魔法使い。脳筋だけど姉御肌の美女剣士。貴族出身の男装の麗人である女騎士。
そこに何故か賢者として私が指名されてしまった。まあ、聖剣の運び手でもあるから同行はするつもりだったけれど。荷物持ちか何かで。前世のオタク知識含む幅広い知恵と、鑑定の限界を超える真・鑑定を駆使して敵も味方も丸裸にする手腕が、天にも認められたということか。
パーティメンバーである美女たちからも怖がられ距離を置かれる私ではあるが、根っこはよく知る幼馴染だと悟ったエドガーは側にいてくれている。おかげで彼女たちは勇者とも微妙な距離感で、そこに恋愛が入る余地はない。
これは魔王を倒したら、故郷に錦を飾って、私が勇者と結ばれるしかない黄金ルートに至れるということかな。
そうなったらきっと、もう誰も私を「負けヒロイン」なんて呼ぶことはできないだろう。
アニー:村の平凡な少女。色々目覚めた結果、魔王よりも畏れられるように。でも夢はエドガーのお嫁さん。突っ込み属性だったが、いつのまにやら突っ込まれる方に。
エドガー:村の平凡な少年。剣士に憧れていたが、それを飛ばして勇者に選ばれる。アニーの変貌に慄くが、彼女の目的が生き残るためだと知って受け入れる。魔王よりも魔王なアニーだが、インパクトは群を抜いており、エドガーの記憶に他の美女を残さなかった。一緒にいて当たり前の存在であり、村に戻って結婚することに異議はない。ある意味大物。アニーには元から何でも知られていたので特別秘密はなく、そのため、アニーの鑑定・丸裸☆も堪えない。
聖剣:復活した魔王を倒せる勇者を選ぶ。魔王を倒せる唯一の武器でもある。しかし聖域とアニーの収納から出すと魔族に居所を察知されるという点を忌避され、魔王城に着くまで収納されたままだった。
魔王:数百年ごとに蘇り、世界を支配しようとする。破壊大好き。しかしレベルMAXにまで育った勇者にワンパンで倒される。あまりのあっけなさに気力を失い、次の復活は一回休み。
鑑定:ちょっと目に入る情報を知らせてくれる便利な能力、でしかなかったはずが「もっと詳しく! もっと詳細を!」とアニーに情報を搾り取られ、無茶ぶりを続けられすぎて折れ、鑑定を望まれたらさっさと超詳細情報を知らせるようになった。
活動報告は多分、夜に!




