勇者の勝利
S*amuser初公演台本の小説版です。
場面ごとに区切って書いていきますので、全4話になるかと思われます。
生暖かい目で見守ってあげてください。
勇者の振るった剣閃が、稲妻の如く走り、巨竜の瞳から尾の先までを一息に貫いた。一瞬の静寂があたりを包み、その刹那身体をつんざく咆哮が轟く。荘厳な巨竜は影となり、目も眩むような光が和らぐと、見惚れんばかりの淡い光を纏った山が鎮座していた……。
「勝ったのか……。」
緊張した空気を別つように、勇者はそう呟いた。
「勝った!勝った勝った!やりましたよ勇者様ぁ!」
勇者の言葉に呼応するかのように、溌溂とした妖精の声がその場に鳴り響く。これまでの彼からは想像もつかないほど燥いだ口調である。先程の台詞がフラグに成り得ると気付き内心冷や汗を流していた勇者は、魔力検知のできる妖精による勝利宣言にほっと胸を撫で下ろした。
「やったな!これでお前も一人前ってこった!やはりこれは、師匠である私のおかげだな!報酬は骨付き肉500gでいいぞ!がっはっはっは!」
「貴方は何もしていないでしょう?それに、あなたは師匠でもなんでもありませんわ。ねえ、そうでしょう?勇者様。」
勇者同様安心したのか、ダンサーと踊り子がいつものように諍いを始める。もはや恒例と化した光景であり、いつもならこちらに話の矛先を向けないでほしいとも思う恒例行事である。どちらかの味方に付いたところで面倒臭いことになるのは火を見るよりも明らかであるが、どちらかの味方に付かねば解放されることはないからだ。
しかし、強大な敵に討ち勝ったという安心感からか、勇者はそれすら微笑ましく感じた。いつもなら妖精に仲介役を押し付けるところであるが、たまには会話に参加してやろう。もちろんどちらかの味方に付くようなことは決してしないが。
「まぁまぁ、仲良くしてよ。同じ職業どうしさ」
「はっ!こいつと同じになんかされたくないね。こんなぺらっぺらのお手振りのどこが踊りだ。」
「まあ。わたくしとて貴方と同等に扱われるなど心外ですわ。」
前言撤回、面倒臭ぇ。完全に言葉選びをミスってしまった……。そうだった。
勇者は門外漢なのでよく判っていないが、本人たち曰くダンスと踊りというのはまったくもって別物……らしい。まさか両方の敵に回ることになるとは……。
流石の勇者も敵を引き付ける役割である前衛職と、味方が戦いやすくなるようにサポートする役割である後方支援職の違いくらいはわかる。だが、正直言ってやってることは一緒だろうとも思う。もちろん口に出して言うようなことはないのだが。
と、それまでダンサーと踊り子の恒例行事には目もくれず宝物を物色していた妖精が声を上げる。
「皆さん!すごいですよ!少なく見積もってもレベル90以上のアイテムばかりです!あっ!踊り子さんやダンサーさん専用のアイテムなんかもありますよ!」
これ幸いと勇者は戦いの渦中から抜け出し、妖精の方に意識を向ける。
「へぇ、それは珍しいね。」
「もちろんこれらもすべて一級品です!」
「まぁ!流石は魔王といったところですわね。」
さっきまでの勢いはどこへやら、すっかり宝物に興味を奪われた2人に勇者はコッソリと苦笑いをこぼす。
「でも、折角だが、もう使うことはないんじゃねぇか?魔王を倒しちまったんだから。」
ダンサーの言い分は尤もである。実際このパーティは魔王討伐を目的として旅を続けていたのだ。先程倒した巨竜はラスボス、則ち魔王そのものなのである。つまり、魔王を倒した今このパーティが冒険を続ける必要性はなくなったのであり、今更そのような装備が手に入ったとて使い道に困るのだ。
「何言ってるんですか!このあともまだまだ戦いますよ!」
「なんでだよ。もう戦いは終わったじゃねぇか!」
「もしかしたら裏ボスが襲ってくるかもしれないですからね!」
なるほど。その存在を完全に忘れていた。ボスを倒して町まで戻れば、平和な世界が訪れている……とも限らず、不穏な空気が残っていて更なる旅が始まってしまう、というのがRPGのお決まりである。とはいえ。
「そんなお決まりはゲームの世界だけにしてほしいものだなぁ。」
「冗談です。安心してください。今まで魔王の復活以外でこの世界が魔物に侵されたことはありません。」
「じゃあ裏ボスってやつはいねぇんだな!」
「では、その存在が脅威でないのなら、やはりもう戦うことはないのでは?」
「いえ、魔王は倒されましたが、モンスターはまだこの世界に残っているんです。」
「じゃあ、その残党共を倒し切るまでは戦い続けるのか」
「そういうことになりますね。過去のボス戦は魔法陣を用いた封印でしたので、作戦完了とともにモンスターは消え去っていたのですが……」
まずい。妖精の解説魂に火がついてしまった。
彼は博識であり、またその知的欲求は底が知れない。もちろんそれは良いことではあるし、彼のその知識量によって助けられた場面はいくつもある。……のだが、その有り余るほどの知的探求心故に暴走することもしばしばあるのだ。
そうなれば彼は使い物にならなくなってしまう。厳密に言えばその場から動くことを拒否して大学教授もビックリするような講義を始めてしまう。妖精の熱弁が本格的に始まってしまう前に阻止せねば……。
「そんなことより妖精!早く帰ろう!」
「それもそうですね。お宝はどうしますか?」
「折角だから全部持って帰りてぇよなぁ。」
「そんなの無理ですわ。いくつか選んで、それ以外は諦めるしかありませんわよ。」
「そうだね……山だから。」
勇者は思わず目の前の宝の山を見上げる。比喩表現であることには違いないのだが、文字通り山である。実際に妖精は(申し訳なさそうにしながら)その山に登って宝物を物色していた。そうでもしないと全容が把握できないような量なのだ。
90レベル以上のレアアイテムばかりだということだし、すべて持ち帰りたい気持ちはある。しかし、現実的に考えてこの量の宝物を運搬する方法はなく、踊り子の言う通り厳選して持ち帰る他ないのだ。だがしかし目の前の宝物を諦めきれるかと言われれば……
「勇者様!ボクなら全部解決できますよ!」
「本当かい?なら、君に一任するよ!」
「お任せあれ!”ラマセ・トゥ・ル・ルート”!」
妖精の詠唱とともにあたりは淡い光に包まれる。直後、柔らかな鈴の音が鳴り響いたかと思えば、目の前の煌めきは妖精の周りに収束し、蝋燭の煙の如く消えていった。
幻想的な景色にしばし目を奪われる。と、その場の余韻もそこそこに、先ほどまで目前に存在していた山が一瞬にして綺麗さっぱり姿を消したことを確認したダンサーが口を開いた。
「よし!じゃあここに思い残すことはなにもなくなったな!帰ろう!」
あいも変わらず自分の興味に忠実な奴だ。大方この建物にも飽きて早く帰りたい、といったところか。
魔王を討伐したからといってそういったあたりが変わることはないのだな。と”いつもの光景”に顔を綻ばせた勇者だったが、”いつものように”とは問屋が卸さなかった
「ま、まってください!まさか帰還呪文を使って帰るだなんていいませんよね?」
「何言ってんだ。それ以外に方法はないだろ?
「いや、でも、もうあまり力が残っていません。」
なるほど、確かにボス戦直後だ。十分な力をつけてから万全の状態で挑んだとはいえ、かなりの消耗戦であった。回復も請け負いつつ魔法戦士職として戦いに参加していた妖精にとってはかなり厳しい戦いであっただろう。
そのうえ先程の魔法。あれだけの量のものを出し入れするには相当な量のMPを消費するであろうことは想像に難くない。
戦士職の勇者はステータスを確認する術がないので、どれぐらいの力が残っているのかは未知であるが、十分な力が残っているとも思えない。
「一回やってみるだけやってみてよ。意外とギリギリいけるかもしれないよ。」
「わかりました……いきますよ!”ソルティレージュ・ドゥ・ルトゥール”!」
妖精の詠唱に合わせ、足元に大きな魔法陣が描かれていく。引き上げられるような感覚に身体を任せると、魔法陣は淡く光り、徐々に浮遊感を伴って……きたところで光は消え、一同は前につんのめってしまった。
「まぁ、本当に魔法が使えませんの?」
「使えないというか、4人全員で街まで戻れる力はもう残っていないんです。」
「じゃあ、いけるところまで魔法で戻って、そこからは来た道を戻ることにしよう。それならできるでしょ?」
「えぇ、まぁ。”ソルティレージュ・ドゥ・テレポルタシオン”!」
妖精の詠唱を合図に、各々は転送に向けて脱力を開始する。
いつもよりも少し高い鈴の音が聞こえたかと思うと、妖精を中心として眩い光があたりを包んだ。
いつもとは違う浮遊感(というよりも寧ろ重力による圧)を感じつつ、この後の生活に思いを馳せて胸を高鳴らせる勇者なのであった。
1話目ご精読いただきありがとうございました。
いやぁ、小説は書くのんムズイっすね。やっぱ。
台詞自体は台本そのままなんですけど、動きで説明すればいいやって思って描写してない部分を説明文過ぎひんように地の文にしていかなあかんくって鬼ムズでした。
国語力が試されますね。ちゃんと日本語勉強しなおします(笑)




