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腐女子剣聖、騎士団で推し活始めました。  作者: 三上折紙


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アルバラード x カイル

「何故こうなったの?」


 私は今、騎士団の訓練場で近衛騎士のアルバラードさんと剣を持って向かい合っている。


 ・

 ・

 ・


 数時間前

 

「剣聖! 俺と付き合え!」


 散歩中の私の目の前に現れたアルバラードさんからの突然の告白!


(ちょっと待って! リアルで付き合うどころか告白すら受けた事ない私が何故ここで告白されてるの?!)


 人生で聞いた事のない言葉に完全にテンパってしまい変な汗が流れて頭がぐるぐる。


「ふぇ……私には推し……が……いて……男性との……お付き合い……は」


「あかり様、これは単について来いと言われているのかと思いますよ」


 横からのマリーの言葉に何とか現実に戻る。

 

「へっ? そ、そうなの?」


 アルバラードさんは、さも当然の顔をして。


「だから、そう言っているだろう!」


「だったらもうちょっと言葉を選びなさいよ!」


 こっちは腐女子なんだから、リアル男性との免疫なんて皆無なんだからね。


 ・

 ・

 ・


 今日は休養日で誰もいない訓練場。

 そこに立っているのはアルバラードさんとカイルさん、私とマリーの四人だけ。

 

「この勝負に俺が勝ったら、お前には俺達の前から消えて貰う!」


(消えて貰うと言われても、私は帰る方法なんて知らないし……帰れるものなら帰りたいよ)


 アルバラードさんの自分勝手な言い方に、少しイラッとする。

 でも、剣聖の「感」覚が、彼の奥底の恐怖を捉えてる――カイルを失う不安が、こんな攻撃性に変わってるんだわ。


 唐突に始まった勝負だけど、鋭く何度も繰り出される攻撃を、私は剣を振って軽く受け流す。

 

 アルバラードさんの剣の腕は、騎士団長さんも認める程だと聞いていたけれど。剣聖の私には、数回打ち合うだけでアルバラードさんの剣筋は全て読めるようになっていた。

 

 それに、完全に使いこなせるようになっていた身体強化の魔法。既に私とアルバラードさんとでは、稚児と大人程の差が生まれていた。


 攻撃が思うようにならなくて、アルバラードさんの顔に焦りが出る。


「ハァッ!!」


 勝負は一瞬でついた、私がアルバラードさんの剣を弾き飛ばして、首筋に剣先を僅か数cmで止める。


「クッ、殺せ」


「しないわよ!?」


(何で私が推しを殺さなきゃいけないよ)


 私も剣を引いてマリーに渡す、正直こんな物は持ちたくないし。


 ガックリと地面に膝を突き、項垂れるアルバラードさんに駆け寄るカイル。


「また俺はコイツを守る事が出来ないのか……」


(何でそう考えるかなぁ)


「さて、私が勝ったのだから貴方には私の言う事を聞いて貰うわよ」


 キッと私を睨むアルバラードさん。


「貴方は私に出て行けと条件を付けたのだから、私も言うわよ?」


 グッと唇を噛み締めて横を向く。


「これから毎日、貴方はカイルと共に行動する事。

 これは近衛長にも了承済みだから、それと貴方達の部屋も同室にして貰ったわ。

 今頃荷物も運び込まれているはずよ」


 ハッとした顔で私を見上げるアルバラードさん。


「勝つ事も何もかも始めから織り込み済みか……」


「そして、毎日の稽古に私も立ち会うわ。私が居てもカイルに何も起こらないと分かってもらう為」


「貴方も知ってると思うけど、カイルは剣と回復魔法を使える。特に回復魔法はかなり優秀だそうよ」


「カイルお前……」


 アルバラードさんがカイルの顔を見る、カイルは少し恥ずかしげな笑顔を浮かべている。


「回復魔法の取得条件と能力を上げる方法は貴方達の方が詳しいと思うけど。回復魔法を他人に使うと、その回復させた怪我の痛みが幻痛となって使用者を襲う、その痛みに耐えられる者だけがより強力な回復魔法を使えるようになる」


「要は、自分の痛みを知り他人の痛みも知っているからこそ使える魔法よね。それをしたくない回復魔法使いは自分にしか使わないと言うのも分かるけど」


「カイルは、貴方の為に率先して重傷患者の回復を担当していたと聞いたわ、そのおかげで今は教会の司教クラスの腕前だそうよ」


「アルバラード、僕はもうあの時の弱いカイルじゃないよ。アルバラードと並んで一緒に戦いたいんだ」


「だが……俺は……」


カイルに伸ばそうとする指先が震えている。


「貴方のその手の震えや時々襲ってくる幻覚は、子供の時に受けた記憶が元になっている。その恐怖を取り除かない限り元には戻らないけれど、薄める事は出来るわ。時間は掛かるけどね」


 ――医療従事者として、PTSDの治療を安易に提案するのは倫理的にどうかと思う。

 でも、この世界に専門家がいない以上、放置するのも心が痛む。

 オメガバース体質なら、トラウマがフェロモン抑制の歪みとして再発するリスクが高いのに……本当にこれでいいのか、自問せざるを得ない。


 そして、ピッと人差し指を立てる。


「PTSD、トラウマ軽減治療プログラムフェーズOne」


「その一、日常共有ね。とにかく毎日一緒にいる事」


 これは、カイルがいる事に慣れて貰うためね。


「その二、軽度訓練。私が見ている前でカイルと訓練をしてカイルが怪我をしないと理解する事」


 始めは走ったり一緒に運動するレベルから、こないだ見せて貰った徒手空拳? アレの軽い感じで組み合うのも良いわね。

 剣を持って向き合うのは無し、せめて木剣で素振りする程度にしてね。


「その三、安心理解。三日に一度、カイルにアルバラードの目の前で回復魔法を使って貰う事」


 魔物とかの死体を使って、カイルの回復魔法がどれだけ優秀か、カイルが自分の身を守るだけの手段を持っている事を知って貰う為。


「その四、幻痛共有。夜寝る時はカイルに手を握ってもらい、僅かに回復魔法をかけて貰う事」


 これは幻痛の共有体験ね、お互いが痛みの経験をする事でトラウマの記憶を中和するの。


 体を強張らせるアルバラードに対して、

「嫌だったら手を離してもいいからね」と優しく微笑みかけるカイル。


「以上、私が王立教会のラファエル司教様に聞いた、戦争で同じような体験をした兵士の回復プログラムだから、毎日やるように(ほんとは私の医療従事者経験十五年の経験談だけどね!)」


(これでっ……二人の稽古を毎日見られる……)


「これを最低二年は継続、最初フラッシュバックがあるかもだけど、症状は徐々に少なくなっていくはずよ」


 震える指を見つめるアルバラード、その指をギュッと両手で包み込むカイル。


「僕も協力する! 毎日一緒に寝るのはちょっと恥ずかしいけど……」


「いや、握るだけでいい……」


「!?……アルバラードがその方がいいなら……握るだけにする」


 アルバラードは、手を握るカイルの顔を真っ直ぐに見つめ。


「頼むな、カイル」


(よし! オッケー)


「これでフェーズOneだからね、最終的に日常生活が送れるレベルになるにはフェーズThreeまであるから、長い付き合いになるわよ」


 ――このプログラムが本当に効くかはわからない。

 再発の可能性、二人の絆が試されるのはこれからだわ。

 私も、ただの傍観者じゃ済まないかも。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 アルバラード

アルバラード・シュタイン(20歳)


幼い頃の事故からトラウマを持ち、剣聖を見るとパニックを起こしてしまう。

あかりのトラウマ解消プログラムで、徐々に回復に向かっている。


 カイル

カイル・ノルクレア(18歳)


 アルバラードの幼馴染、八歳の時に魔物に襲われていた所をアルバラードに助けられてから兄の様に慕っている。

 しかし、村を襲った魔物の襲撃で重傷を負い、その責任を感じたアルバラードと疎遠になった。今は、何とか元の関係に戻りたいと思っている。



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