あかり x マリー
その日はマリーが個人的な用事があると出かけて不在、帰るまで部屋にいて欲しいと言われたのでコルセットを外したラフな格好で部屋で寛いでいた。
スマホはまだ見る気になれない。
一人でいる時間は苦痛ではないので『アル x カイル』のアルさんが、何故私を睨んだりするのだろうかと考えて(妄想して)いた。
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二人がお互いの存在を認識したのは、二人が育った村で起きたちょっとした出来事からだった。
アルバラード(以下アル)が十歳で、カイルが八歳の年。
アルは村の鍛冶屋の息子で、小さな頃から父親に習って剣も使え、同い年の子と比べても背が高く寡黙ながらも兄貴分として村の子供らに慕われていた。
一方カイルは、幼くして両親を亡くし村の寺院で育てられていた。気が弱く引っ込み思案なカイルは中々村の子供達と馴染むことが出来ないでいた。
ある日、村外れの森の中で魔物に襲われているカイルを偶々通りかかったアルが助けた。
「お前は弱いなあ、今度からは俺が守ってやるよ」
(お前はもう俺のものだ)
その言葉をキッカケに、カイルはアルの後ろをついて回る弟のような存在になっていった。
ある年の秋祭り、アルが剣技を村民の前で披露。
汗をかいたアルにカイルがタオルを渡して気付く。
「アルって意外とまつ毛長いんだね」
照れたアルが「馬鹿言うなよ」と頬を赤くして、照れ隠しにカイルの頭にポン、と手をおいた。
(それからは普段でも手を繋いで過ごす)
それから月日が経ち、アルが十五になる年にその事件は起こった。
村を魔物の群れが襲い、立ち向かった村民の大半が命を落としたのだ、そこにはアルの父親も含まれていた。
アルは父親と共に魔物と立ち向かっていたが、アルを庇って父親が亡くなり自分のせいだと自責にかられる。
(が、実は父親が庇ったのはアルと一緒にいて大怪我をしたカイルで、アルはカイルを守れずに父親も亡くしてしまった自責の念で闇落ち)
――トラウマの深さを思うと、アルの闇落ちはただの「守れなかった」じゃ済まない。
オメガバースなら、ヒートの匂いがトラウマを呼び起こし、アルはカイルを近づけまいとする心理葛藤に苦しむはず。
互いの本能が引き寄せ合うのに、社会の抑圧で離れざるを得ない……そんなすれ違いが、リアルすぎて切ない。
それ以降アルは人々を避けカイルとも話をする事が無くなった。
そして村に居ることを嫌ったアルは騎士団に入るために王都へと旅立つ。
アルは持ち前の剣の腕で見事に騎士団へと入団を果たし、若くして近衛騎士にも選ばれた。
(それでも他者とは積極的に関わらず、己の技を磨くアル)
そんな中、カイルも騎士団へと入団するための試験を受けに来る。
騎士団に何とか入団したカイルに、アルは近寄ろうとせず。カイルは近寄れるキッカケが欲しいと悩んでいた。
(お互いの気持ちのすれ違い)
ある訓練の日、少しの油断からアルが大怪我を負ってしまいカイルの回復魔法で何とか命は取り留める。
その時「今度は僕がアルを守る番だよ」(もう二度とアルと離れなくないカイル)のセリフに、アルの感情が爆発。
「だったらもう絶対離さないからな」と思わずカイルに抱きついてしまう。
(このまま手放すと二度と守れなくなる)
これをキッカケに二人は以前の様に行動を共にする様になり、お互いがお互いを守れる様にと訓練にもより一層励むようになっていた。
そんな日に、神の啓示でこの国に剣聖が現れると聞き、始めは自分達には関係ない話しだと思っていたが……。
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私は、ベッドの上で膝を抱え、ぼんやりと天井を見つめていた。
(……やっぱり、ありきたりすぎたかな)
自分で作った『アル×カイル』妄想エピソードを振り返って、ちょっと恥ずかしくなってくる。
幼なじみ、守る約束、すれ違い、傷ついた過去、そして再会後の激しい独占欲。
まさに王道の王道。BL小説のテンプレートに沿いすぎてて自分でも苦笑いしか出ない。
でも。
「……でも、これきっと当たってるんだよね」
この世界に来てからの私は、他人の心の機微がかなり明確に感じ取れるようになっている。
元々の私は(……この人も界隈の人かなあ)と近寄って痛い目に会う事が多々あって、それからはかなり慎重に行動していたのだけれど今の私ならそんな失敗しない気がする。
これが『剣聖』の効果なのか分からないけれど、これが今までの私には無かった新しい感覚だという事はわかる。
さっきまで感じていた「感覚」が、今も胸の奥に残っている。
それはまるで、誰かの感情が自分の心臓に直接触れてくるような不思議な熱だった。
アルバラードさんが私を見る目。
あれは、決して「嫌い」なんかじゃない。
……恐怖だ。
(カイルをまた失うかもしれない)
(今度こそ守れなかったら、自分はどうなる?)
そんな壊れそうなほどの怯えが、あの鋭い視線の奥にあった。
そしてカイルさんの方は。
(アルに何かあったら、自分はどうすればいい?)
(あかりさんのせいで、アルが傷ついたら許せない)
だからこそ、私に近づこうとする。
優しく笑って、でもどこか無理をしているような笑顔で。
「……二人とも、バカだなぁ」
ふーっと息を吐いて、ベッドに寝転がった。
(私、別に二人の仲を引き裂きたいわけじゃないのに)
でも、こうなってしまった以上、放っておけない。
だって、今の私には「わかる」から。
二人がどれだけお互いを想ってるか、どれだけ傷ついてるか……全部。
「……どうしよう」
その時だった。
ノックの音がして、ドアが少しだけ開く。
「あかり様遅くなって申し訳ありません、只今戻りました」
入ってきたのはマリーだった。
いつもの穏やかな笑顔、手に持った盆には温かいお茶とクッキーが載っている。
でも、私はマリーの瞳がどこか意味深に細められていることに気が付いた。
「マリー……さん?」
「あら、びっくりした顔をなさって……もしかして、私が何か知ってるんじゃないかと疑ってるんですか?」
マリーはくすりと笑いながら、盆をテーブルに置いた。
そして、そっと椅子を引き、私の真正面に腰掛ける。
「……ちょっと、昔の話を聞いて頂けますか?」
「昔の話?」
「ええ……ある村を襲った悲劇と、その村の少年の不幸なすれ違いのお話です」
心臓が、どきりと鳴った。
(まさか……本当に……?)
マリーさんは、優しく微笑んだまま静かに語り始めた。
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「今でも二人はすれ違いを続けています。お互いが、お互いを思うからこそのすれ違いを……」
マリーさんが、私の手をそっと握る。
「そして……どれだけあかり様のことを、今、怖がっているか……」
マリーさんが、微笑みながら最後にこう言ったの。
「ねえ、あかり様。
……少し、お手伝いしましょうか?」
窓の外では、夕焼けが美しく燃えていた。
そして、あかりの新しい物語が、今、静かに動き始めようとしていた。
(いや!? そんな事ないよ? 私は普通に推し活して過ごすから!)
――でも、心のどこかで、マリーの言葉が刺さる。
この世界で、ただの推し活で済むのか。
私の「感」覚が、二人のトラウマを癒す鍵になるのか、それとも邪魔者になるのか……。
孤独な異世界生活で、そんな葛藤が初めて胸を締めつけた。
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マリー
マリー・マルクレア(16歳)
長年王家に支えるマルクレア家の長女。
現在のメイド長である母親、マーガレット(36歳)により幼い頃からメイドとしての行動を厳しく教え込まれている。
超有能?なメイドで、かわいいものが大好きだったが、つい先日見せられたあかりのBL本によりBLにも興味を持ち始めている。
だが、その事はあかりにはまだ明かしていない。
読んで頂きありがとうございます。
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