リリアーナ x 腐女子隊
ヴァレリウスは、帝国の玉座に座っていた。
銀髪が月光に輝き、悪そうな目つきで臣下を睥睨する。
だが、心の中は嵐。
幼馴染の将軍、黒髪の美形レオニダスが、常に傍らにいる。
「陛下、今日の作戦は…」
レオニダスの声が優しい。
ヴァレリウスは皮肉を飛ばす。
「ふん、そんなことくらい自分で考えろ」
でも、本当はレオニダスの温もりが欲しくてたまらない。
五年前の戦争で、レオニダスが命を懸けてヴァレリウスを守った。
あの時、ヴァレリウスは初めて自分の気持ちに気づいた。
「お前がいなければ、俺は…」
言葉にできない傲慢王。
レオニダスもまたヴァレリウスを想うが、身分の差で抑えている。
そこへ、剣聖あかりが現れる。
剣の勝負でヴァレリウスを負かす。
「お前、面白い女だな」
ヴァレリウスは言うが、心ではレオニダスの視線を感じる。
嫉妬? いや、守りたい想い?
カレーの夜、ヴァレリウスはレオニダスに分けてやる。
「これ、食ってみろ」
レオニダスの目が輝く。
「陛下、美味しい… まるであなたの心のように温かい」
ヴァレリウス赤面。
「ば、馬鹿者!」
でも、二人の距離が縮まる。
やがて、農業革命で帝国が豊かになる中、ヴァレリウスはレオニダスに告白。
「お前がいなければ、俺の帝国は意味がない」
レオニダス抱きしめる。
「陛下、ずっと待っていました」
あかりの妄想日記終わり。
「はぁ、完璧なBLストーリー! ヴァレリウス王をモデルで、将軍は私が勝手に創作したけど、次行ったら本物の将軍探してみよう。萌えが止まらないわ!」
横からルナが原稿を差し出してくる。
「あかり、これでどうかしら? 陛下の告白シーンをもう少し甘くして、レオニダスの指が陛下の銀髪を優しく梳く描写を追加したの。……ふふ、想像しただけでヤバいわよね」
ルナの目が妖しく輝いてる。
いつもの腐女子モード全開で、原稿の端にまで細かい修正メモがびっしり。
――!
完敗……さすがルナ! 私のストーリーが一瞬でプロ級に昇華されてる……!!
「あかり様、これ……お揃いでどうですか?」
そっとマリーが差し出してくるのは、挿絵の束。
表紙はヴァレリウス陛下がレオニダスに抱きしめられて赤面してる特大アップ!!
陛下の悪そうな目が少し潤んでて、レオニダスの黒髪が陛下の肩にかかってるのエロすぎ!!
さらに中ページはカレーのシーンで、陛下が「ば、馬鹿者!」って言いながらスプーン落としちゃってるやつとか、戦争回の守られシーンでレオニダスが陛下を抱きかかえてる血まみれバージョンとか……もう全ページ神!!
マリーの頰も赤くて、手が微妙に震えてる。
いつものクールメイド腐女子が、興奮で息荒い。
ルナがクスッと笑って、マリーの肩を抱く。
「マリーの絵、最高ね。陛下の表情の微妙なツン具合が完璧。
……あかり、これで次の新作は決まりね! タイトルは『傲慢王と忠犬将軍の禁断カレー』でどう?」
マリーがコクコク頷いて、「あかり様、私……次はR18版のラフも描いてきました……見ますか?」
もう無理!! 私は即座に土下座した!!
「ルナ! マリー! あなたたち最強すぎる!! 私は一生読み専になる!! 腐女子隊の頂点に君臨するのはお前たちだぁぁぁ!!!」
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その時! リリアーナ王女が私の部屋のドアを勢いよく開けて飛び込んできた。
「あかり様――なぜ父のプロポーズを断ったのですか?」
さっきまでルナとマリーと三人で『傲慢王と忠犬将軍の禁断カレー』のR18ラフを鑑賞して鼻血寸前だったのに、一瞬で現実に戻される。
「もー、せっかく楽しい事して忘れようとしてたのに!」
床に散らばったマリーの挿絵――ヴァレリウス陛下がレオニダスに壁ドンされて銀髪乱されながら「ば、馬鹿者……!」って潤んだ目で見上げてるやつ――を、リリアーナ王女がチラッと見て、顔を赤くしながらもすぐに真剣モードに戻る。
「別に良いんじゃないですか? 特に決まった相手もいらっしゃらないのでしょう?」
私は推しを手元に置いておきたい派じゃないので結構です! って心の中で叫びながら、口ではぼかした。
「と言うか、そんな事になったら私がリリアーナのお母さんになるんだけど?」
リリアーナ王女は一瞬ポカンとした顔をして、すぐに平然と返してきた。
「別に?」
……この子、天然なの? それとも貴族の感覚が麻痺してるの?
「貴女はどうなの? エボルスとの婚姻は嫌じゃないの?」
「貴族にとって政略結婚は当たり前でしょ? ましてや私は皇帝の娘なんですもの」
そこはもう達観しているのね……。
「と言うか、それこそ婚姻さえしてしまえば子なんてどうにでもなるのですよ? 実子なんて関係なし、養子でも引き取って産まれたって事にすれば良いのです」
リリアーナ王女はさらりと、とんでもない爆弾を落としてきた。
「なんなら、あかり様を養子にしても大丈夫ですよ? お父様の嫁が嫌なら私達の子供になりますか?」
「もっと嫌よ!!」
私は即座に全力で拒否した。
だって想像してみて? 私がリリアーナとエボルスの子になるってことは、ヴァレリウス皇帝の義理の娘兼孫娘みたいなポジションになるわけで……いやいや、そんな複雑な家系図で皇帝を推すとか、倫理的にヤバすぎる!!
腐女子の妄想が暴走しすぎて脳内がパンクしそう!!
リリアーナ王女は首を傾げて、純粋な瞳で私を見つめてくる。
「どうしてですか? あかり様が家族になれば、ずっと一緒にいられますよ? 私、あかり様のこと大好きですし……それに、この国は強い者には寛容ですから、剣でお父様に勝たれたあかり様なら、他の貴族からも文句は出ないでしょうし」
うわぁぁぁ可愛い攻撃きたぁぁぁ!!
でもダメ!! 家族になったら皇帝を「義父上」とか「お祖父様」って呼ぶことになる可能性があって、そんなの推し活の死刑宣告!! 私は必死で頭を振った。
「いやいやいや、絶対無理! 私はリリアーナの義母にも養子にもならない! ずっと『剣聖あかり』として、自由に妄想を……じゃなくて、自由に生きるの!」
リリアーナ王女は少し残念そうに唇を尖らせたけど、すぐにニコッと笑った。
「そうですか……残念です。でも、あかり様が嫌なら仕方ありませんね。――では、せめて私の結婚式には来てくださいね。ドレス姿の私を見て、きっと惚れ直しますから」
……この子、天然で無自覚にフラグ立ててるよね?
いや、百合フラグか!? 私はため息をつきながら、散らばった原稿の山を片付け始めた。
「はぁ……今日はもう萌え疲れしたわ。ルナ、マリー、ちょっと来て! リリアーナ王女の天然百合エピソードで新作ネタできたから、緊急会議よ!!」
遠くからルナの「ふふ、百合もいいわね……」という妖しい笑い声と、マリーの「すぐに参ります、あかり様!」という興奮した声が聞こえてきた。
――腐女子隊の夜は、まだまだ終わらない!!




