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腐女子剣聖、騎士団でBL推し活始めました。  作者: 三上折紙


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37/43

ノルトルンド x 腐女子隊

 王子の治療を開始してから二十日ほどが過ぎ、王子の体調に改善の兆しが見られ始めた頃、喜んだ王様による祝宴が開かれた。


 参列したのは身内ばかりだったけど、当のアレクシス王子も参加した事に皆が驚いていた。

 一人で立って歩いている姿を見て涙している者の姿もチラホラ……。

 あのおじ様なんて、メチャクチャ泣いているし。


 そう思ってみていると、アレクシス王子が泣いているおじ様に近寄ってハンカチを差し出した。


「心配をかけたな、ライアン」


 待って! アレクシス王子のあの眼差しは――


 王国の宮廷、深夜の回廊は冷たい石の匂いと、ワインの残り香、そして二人の男たちが放つ熱い獣のような匂いで満ちていた。


 私達は壁の陰から、息を殺してその光景を凝視していた。


 どうしよう! 心臓が激しく鳴り、指先の震えが止まらない!


 現代腐女子のリアルが、私の視界に鮮やかなフィルターをかける。


 ――これはもう、ただの現実じゃない。


 完璧なBL同人誌の表紙が動き出したような、禁断の生シーンだ。

 

 アレクシス王子は壁に背を預け、銀の髪を乱れさせながら上気した頰を月光に晒している。


 ライアン卿の大きな手が王子のシャツを完全に剥ぎ取り、その無骨な指が繊細な白い肌を貪るように這う。


 王子の喉から甘く湿った吐息が漏れた。


「んっ……ライアン……」


 その声は、まるで人気BLドラマのクライマックスで流れる喘ぎ声そのもの。


 腐女子の私は、脳内で勝手に効果音を追加してしまう。


 ――水音が、想像の中で響き合う。


 ライアンが跪き、影が一体となる。王子の腰がびくんと跳ね、細い指がライアンの金色の髪を強く掴む。


「ああっ……!」


 その瞬間、私の頭の中で腐女子の全知識が爆発した。


――攻め:ライアン卿(忠犬騎士×ツンデレ巨根攻め)

――受け:アレクシス王子(病弱美人王子×隠れドM受け)

――シチュエーション:回廊壁押し

――タグ:幼馴染、禁断の主従、汗と涙のキス、月光下の野外プレイ(半屋内)


 私の首筋にしっとりとした汗が流れる。


 顔を寄せ合うルナとマリーの鼻息が荒くなる。


 この世界に来てよかった……と、心の底から思ってしまうほどに。


 ライアンは王子を優しく、しかし確実に快楽の淵へと追い込んでいく。


 ライアンの動きが激しくなり、王子の腰が揺れる。


 涙を浮かべた王子が、掠れた声で懇願する。


「ライアン……もう、限界……お願い……」その言葉に、ライアンの瞳が獣のように輝いた。


 彼は立ち上がり、自分の軍服の前を乱暴に開く。


 鍛え上げられた腹筋と、すでに張り詰めた欲望が月光に照らされ、まるで官能小説の挿絵そのもの。


 二人が完全に重なり合う直前――


 私達はようやく我に返り、音を立てないようその場を離れた。


 頰が燃えるように熱い、歩くたびに甘い摩擦が襲ってくる。


 部屋に戻ってからも、頭の中はあのシーンでいっぱいだった。


 私はベッドに倒れ込み、枕を抱きしめながら独り言を漏らす。


「はあ……最高の生BLだった……同人誌即売会でこのネタ流したら、完売必至だよ……表紙は月光の壁押しで、帯に『幼馴染の騎士が王子を夜ごと貪る、禁断の蜜月』って……」


 部屋に戻ったマリーは、先ほどのシーンの記憶が鮮明なうちに描き始めていた。


 ライアンの逞しい背中、王子の蕩けた表情、絡み合う肢体……。


 線が官能的に流れ、ページが熱を帯びていく。


 さらに、二人の関係をさらに深めるシチュエーションを脳内でプロデュースしてしまう。


――温泉での背中流しプレイ。

――危機一髪で王子を抱き守るシチュ。

――嫉妬に狂ったライアンが侯爵を排除後、王子を激しく求める夜 。


 私のシチュを聞いたルナの手が止まらない。


 どんどんと積み重なる原稿用紙。

 

 腐女子の血が騒ぐ。


 翌朝、何故私を呼ばなかったのかとリリアーナ嬢から非難されたが、昨晩の原稿を見せるとそれっきり部屋に篭ってしまった。


 私はベッドの端に腰掛け、膝の上に置いた挿絵を眺める。


 描かれたのは、昨夜の回廊でのアレクシス王子とライアン卿の禁断の逢瀬――


 マリーが描き上げた生々しい線画だ。


 鉛筆のタッチが肌の汗を、影の濃淡が絡み合う吐息を、まるで生きているかのように再現している。


 隣ではルナが頰を赤らめながら、次の原稿を仕上げている。


 彼女の筆は止まらない。

 

「次は……王子がライアンの軍服のボタンを一つずつ外していくシーン……ここで王子が耳元で『お前は俺の騎士だろ? だったら、全部捧げろ』って囁くの……」


 ルナの声は震えていた。


 興奮と、創作の熱と、そして自分でも抑えきれない疼きが混じり合って。


 マリーも出来上がった原稿を読みながら、次の構想に取り掛かっている。


「はあ……ライアン卿のこの背中の筋肉線、最高……リアルすぎてヤバい……ここ、汗が一筋流れてるのめっちゃエロいよね……」


 私はページをめくりながら、ふと気づいた。


 この部屋にいる私たち三人――


 全員が、2025年の腐女子文化を骨の髄まで染み込ませた同士だ。


 いや、正確には私は転移者で、ルナとマリーは私の影響をモロに受けて「覚醒」した現地民と元女神。


 いずれにせよ今この瞬間、私たちは完全に「同人女子」のスイッチが入っている。


「ねえ、帝国に行ったら……皇帝×ルーカス侯爵のカップリングも絶対掘れるよね?」


 私が呟くと、二人とも同時に顔を上げた。


 目がギラギラと輝いている。


 ルナが息を荒くして続ける。


「冷徹ドS皇帝攻め×野心家誘惑受け侯爵……もう最高の敵対カップルじゃん! 侯爵が皇帝の膝の上で媚びるように腰をくねらせて『陛下、どうかこの身をお使いください』って……」


 マリーが興奮のあまり紙の束を握りしめる。


「そして皇帝が無表情のまま侯爵の首筋に歯を立てて『お前は俺のものだ』って低く囁くの……! あ、背景は玉座の間! 臣下たちが退出した直後で、まだ蝋燭の火が揺れてる感じで……!」


 私は立ち上がり、部屋の中央でくるりと回った。


「決まり! 帝国潜入の隠れミッションは『極秘BL資料収集』とする! 表向きは内政の混乱を煽る事だけど、裏では……」


 三人同時に叫んだ。


「「「最高級の生BLネタを漁る!!」」」


 その夜、私たちは徹夜で次の新作の構成を練った。


本編:『銀月の騎士と病弱王子 ~禁断の回廊~』

表紙:月光壁押し構図(マリー担当)

本文:300P全編書き下ろし予定(ルナ担当)

番外編:『皇帝と野心家の宵闇』

予想シチュ:玉座プレイ、鎖で繋がれた侯爵、皇帝の黒手袋による愛撫など

特典:帝国潜入中に見つけたら即追加のリアルタイムネタ


 翌朝、リリアーナ嬢がまた部屋に押し掛けてきた。


「ちょっと! 昨晩も私を仲間外れにして……!」と怒り心頭だったが、私がそっと新作原稿の表紙を見せると――


「……っ!」


 リリアーナ嬢の瞳が一瞬で蕩けた。


 頰が真っ赤になり、手が震える。


「こ、これ……ライアン卿のこの表情……王子殿下のこの蕩け具合……!」


 そのまま原稿を奪い取り、彼女は自室に駆け込んで行った。


 鍵をかける音が響く。


 ルナがくすくす笑う。


「リリアーナ嬢も完全に堕ちたわね。もう立派な腐女子」


 マリーが満足げに頷く。


「次は、誰がターゲットになるのでしょう」


 私は窓の外に広がる朝焼けを見上げながら、静かに微笑んだ。


「帝国には、もっと濃いネタが待ってる。私たちの腐女子魂ここから本気出すよ」


 剣聖の名は表舞台で陰謀を斬り、裏では――

 甘く淫らな欲望の記録者として、帝国の闇に潜む。


 今夜の腐女子会は、まだまだ熱を帯びて続く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 アレクシス第一王子

アレクシス・ノワル・ノルトルンド(20歳)


 ノルトルンド王国第一王子、帝国の陰謀で毒殺されかかっていたのを、あかりの現代知識と魔法で取り止める。家庭教師であったライオネルとはいつしか……。


 ライアン卿

ライアン・ライオネル(35歳)


 ライオネル侯爵、アレクシスが幼い頃から剣術と学術の両方を教える教師として教えていたが。アレクシスからの厚い信頼が、いつしか別の感情に置き換わっていたのに気づき……。



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