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腐女子剣聖、騎士団でBL推し活始めました。  作者: 三上折紙


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35/43

リリアーナ x 腐女子隊

「お招きいただき、ありがとうございます」


 お茶会に現れた剣聖は、見た事のないデザインのドレスを着ていました。

 胸の下で切り替えられスカートが自然に広がるデザインが、豪華に広がる従来のドレスを時には下品に感じさせるほど洗練されていました。

 首から支える布地にキラキラとしているのは宝石かしら?

 

 華麗なカーテシーで挨拶をする剣聖。


 『剣聖』という厳格なイメージとは裏腹に、教養の深さが感じられる……予想外でした。


 少し、剣聖の事を見直さなければならないかも知れませんね。

 背後には目的の従者、マリーさんが控えています。


 剣聖の側近として知られる彼女の忠誠心は、噂通り揺るぎないものでした。


 そして……お茶会は和やかに進み、ついにこの時が来ました。


 剣聖――に渡したいものがあると伝え、文箱に入れたあの姿絵を従者を通じて手渡します。


 当然のように中身を確認するマリーさん。


 さあ、その姿絵を見てどんな反応を示すのかしら?


 ……あら?


 予想に反して、無反応でしたわね。


 もしかしてスルーされました?


 剣聖からのお返しとして、布に包まれた何かが渡されました。


 何かしら?


 中身を改めるエシャロット。


 厳しい躾を受け、メイドとして殆ど表情を崩さない彼女が動揺するなんて……。


 エシャロットの、僅かに震える手から渡されたそれは――


『王子と王子の禁断の契り・第一巻』


 ――っ!


 それも……全八巻揃いで。


 ひと目で分かりました表紙や挿絵の絵師が、あの姿絵を描いたその人なのだと。


 剣聖の近くにこの絵師が? まさか、二人のどちらかが……?


 そう想像すると、手が震えて止まらなくなりました。

 

「お近づきのしるしに」


 剣聖が……穏やかに笑って私を見ています。


 まさか!? 私の趣味がバレているのですか?


「お好きだと聞いたのですが……?」


 エシャロットに視線を向けると、彼女は慌てて首を振るのみ。


「私の従者、マリーから聞いたのですが……不快でしたら持ち帰ります」


 スッと手が伸びて、本を取り上げられそうになり思わず声が出てしまいました。


「あっ……」


「?」


 優しい眼差しで、答えを待つ剣聖。


「……好きです。」


 なんとか言葉を絞り出すと、剣聖の表情がフワッと溶けた。


「良かった! いろいろお話ししてみたいと思っていたんです」


 その言葉に、心臓が静かに高鳴ってしまいました!


 本当に夢じゃないの!?


 剣聖様が私と同じ趣味を共有している? しかも、あの絵師様と深く繋がっているレベルで?!


 私は平静を装いながら、紅茶のカップを置きました。


 指先がまだ震えています。


「私も……ぜひ、お話ししたいです。あの、この第一巻の表紙のシーン……あのお二人ですよね?」


 顔が熱くなるのを感じつつ、言葉を続けました。


 剣聖様は目を輝かせ、身を乗り出すようにして。、


「ご想像通りです! この角度の首筋のラインが絶妙で、絵師のこだわりが伝わってきますよね。

 実は、このシーンのラフ画も持っているのですが……」


 ラフ画? 「持っている」……という言葉に、胸がギュッと締め付けられる。


「まさか……剣聖様、ぇ……絵師様をご存知で?」


 声が上ずるのを抑えきれませんでした。


 剣聖様はくすりと笑い、従者のマリーさんをちらりと見てから指差しました。


「実は、この子が」


 マリーさんが頰を赤らめ、静かに頭を下げます。


「……あかり様ともう一人の同志と共に、極秘で描かせていただいております。私が、あの『王子と王子の禁断の契り』の絵師です」


 世界が一瞬静止しました。私の心臓も止まった気がいたしました。


 推し絵師様が、目の前にいる?!


 剣聖様の専属従者で、剣聖様も認める熱心なファン……いや、クリエイターの一員? 言葉が出ない。


 ただ手を握りしめて、震えを抑える。


 剣聖様の手がスッと伸びて、優しく私の手を包み込む。


「これからは一緒に語り合いましょう。

 次は、私の私室で……秘密のお茶会はいかがですか? エシャロットさんもご一緒に。

 もちろん、新作のネタバレも含めて……」


 新作? このシリーズがまだ続きますの? 涙目になりながら頷くしかありませんでした。


「ぜひ……お願いします」


 こうして、私の人生最大の繋がり――


 推し剣聖様と推し絵師様との、秘密の腐女子会が始まりました。


 お父様、申し訳ありません。


 私には、剣聖様の計画を止めることはできません。


 リリアーナは、この腐女子会に生涯を捧げることになりそうです。

 


 ――剣聖あかり様の私室。


 いつもの秘密サロンのメンバー(あかり様、マリーさん、ルナ様、そして私リリアーナ)が集まった特別なお茶会。


 テーブルには紅茶とクッキー、そして分厚い原稿用紙の束。


 あかり様が穏やかに微笑みながら説明を始める。


「みんな、待たせたわね。

 今日は特別、新作の第九巻……いや、外伝エピソードのラフをみんなで試読しましょう」


 マリーさんが頰を赤らめ、原稿を配られます。


 表紙には、見慣れた筆致で『王子と王子の禁断の契り・外伝 月光の下の再会』。


 第八巻の続きではなく、第一巻と第二巻の間を埋めるエピソード?


 あかり様が目を細め「これ、ずっと気になってたのよね。あの別れのシーンの後、どう再会したのか……」と呟く。


 私も、静かにページをめくる。


 ――物語は、第一巻のクライマックスで敵国に引き裂かれた二人の王子、アルバスとエボルスが、三年の歳月を経て再会するところから始まる。


 アルバスは戦場で無敵の将軍となり、エボルスは敵国の人質として幽閉されていた。


 だが、二人は単なる恋人ではない。


 アルバスはオメガの血を抑え込んだアルファ、エボルスはアルファの運命を拒絶したオメガ――禁断のペアリングが、戦争の渦中で彼らの絆を試す。


 再会のシーンは、月夜の古城のバルコニー。


 アルバスが黒いマントを翻して現れ、エボルスが静かに呟く。

 

「……あなたは、もう来ないと思っていた」


 アルバスがエボルスの頬に手を伸ばす。


「三年待たせた分、たっぷり愛してやる」


 だが、すぐには触れ合わない。


 三年の空白で生じた傷――アルバスは戦いのトラウマで触れることを恐れ、エボルスは幽閉の孤独で信頼を失っていた。


 お互いの心の壁を、ゆっくりと剥がしていく過程が静かな緊張感を生む。


 マリーさんの挿絵は神がかっていました。


 アルバスの鋭い瞳とエボルスの潤んだ目、首筋の微かな震え、指の絡め方が心理的な深みを加える。


 尊い、というより切ない。


 ルナ様が静かに解説を始めました。


「ここ、アルバスは三年間エボルスのことを想い続けて、毎晩夢に見ていた設定。

 でも、再会してすぐには抱かないの。お互いの傷を確かめ合って、ゆっくりと信頼を築く……この焦らしが、たまらないわよね」


 マリーさんが頷く。


「わかります。あの時代、アルファとオメガの絆は社会的に禁じられているのに、二人はそれを乗り越える。

 その心理描写を重視したんです。」


 私は言葉少なに頷くしかありません。


 心の中で、自身の立場を重ねる。


 お父様の政治的野望と、私のこの趣味……禁断の契りみたい。


 クライマックスは、城の地下礼拝堂。


 二人が禁断の契りを新たに結ぶ。


 月光がステンドグラスを通して照らし、アルバスがエボルスの左手薬指に、かつての指輪を嵌める。


「今度こそ、誰にも邪魔させない。お前は俺のものだ」


 エボルスが涙を零し。


「……はい、私の王子様」


 だが、ここで終わりではない。


 外伝は、二人が戦争後の世界で互いのアイデンティティを探求する余韻を残す。


 単なるハッピーエンドではなく、未来への葛藤を匂わせる。


 ――完。


 部屋に沈黙が落ちる。


 やがて、静かな歓声。


 「神がかった心理描写……」

 「尊いを通り越して、リアル」

 「マリーさん、ルナ様、天才」


 ルナ様が満足げに笑う。


「本編の第九巻はもっと激しくなるわ。

 戦争終結後の政略結婚を巡る修羅場……ふふ、omegaverseの要素を深めて、社会批判も入れてね」


 第九巻? まだ続くこのシリーズに、私は完全に没入した。


 お父様、本当にごめんなさい。


 この腐女子会から抜け出すなんて……想像できない。


 むしろ、ここで得た絆が私の人生を変えるのかもしれない。


 次回の秘密のお茶会が今から待ち遠しい♡


読んで頂きありがとうございます。

面白い、続きが楽しみだと思われましたら

フォロー、応援をよろしくお願い致します。


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