王女 x 王子's
私はリリアーナ・マーガレット・アウレリトス。
アウレリア帝国の第一王女です。
皇帝の子供は私ひとりだったので、幼い頃からメイドや執事たちは私を褒めてばかりでした。
自分の好きなことばかり自由にやってきたおかげで、かなり自分勝手な性格だと自負しております。
見た目はとても可憐で、可愛い、可愛いと言われて育ち。
世の男性達は、当然のように私の前に求婚者として列をなす。
それが当たり前だと思っていました。
ですがある日、偶然目にした光景が私の価値観をひっくり返したのです。
──男同士のキス。
最初は見間違いかと思っていました。
ですがその後、何度も同じ二人を見かけたのです。
いつも寄り添い、スキンシップにしては距離が近い。
片方はもう片方を、まるで大切なものを守るように見つめていました。
不思議に思っていましたが、メイド達の噂話しを聞いているうちに理解しました。
あれは、衆道と呼ばれる関係なのですね。
男同士が恋人となること。
世間を見回せば、そんな者たちが意外に多いことも知りました。
それ以来、私に言い寄る男たちに興味が湧かなくなりました。
代わりに、距離の近い男性同士を見ると勝手に彼らの関係を想像する癖がついたのです。
夜の寝室でどんな風に触れ合うのか。
誰が上で、誰が下か。
そんな妄想が、退屈な宮廷生活の唯一の楽しみになっていきました。
もちろん、この話しは誰にもしておりません。
ですが、時にこの話しを分かち合える相手が欲しいと思う事も……。
十五の年、私は父帝に呼び出されました。
執務室で告げられたのは、隣国ノルトルンドの第二王子との婚約……。
五年前まで従属国だった国が、今やアースガルド王国と手を組み、帝国に牙を剥こうとしている。
そんな国の王子に私を嫁がせるなど、父帝の意図は明白でした。
アースガルドに現れたという「剣聖」を牽制するため。
剣聖──
ひとたび戦場に現れると無敵と謳われる存在。
過去の歴史でも、その者の存在で多くの国が堕ちたと聞きます。
ですが、今回の剣聖はなぜか新しい作物を持ち込み飢饉に苦しむノルトルンドを救おうとしているらしい。
武力と恵みが両立するなど、出来すぎた話ですこと。
父は、ノルトルンドで手駒にしている貴族から仕入れた情報を元に、アースガルドよりも多くの食料支援を餌に、婚姻で両国を縛ろうという魂胆でしょう。
ですが……帝国の食料事情もかなり苦しいと聞いているのに、荷馬車十五台分もの食料をどうやって工面したのでしょうか?
私は嫌々ながらノルトルンドへ向かいました。
ノルトルンドの王宮は予想以上に洗練されていました。
アウレリア帝国の質実剛健とは真反対の作りに思わず目を奪われてしまったのです。
ですが、私の目を奪ったのはそれだけではありませんでした。
アポカリオン王子とエルヴェシア王子。
私の婚約者とアースガルドの第二王子ですが、一目で分かりました。
あの二人は、ただの盟友ではありません。
アポカリオン王子は黒髪を靡かせ、クールな微笑を浮かべる美男子。
ですが、その瞳は女性には向けられずエルヴェシア王子にのみ注がれる。
優しく、熱く、独占欲を隠しきれていないご様子。
エルヴェシア王子は明るい金髪に青い瞳。
穏やかな笑みで、アポカリオン王子にだけ甘える。
私が宮廷を移動している際、廊下の隅で二人が短く触れ合う瞬間を目撃しました。
二人は、私が見てきた男性達と同じように寄り添い、その指先はお互いに絡み、触れるギリギリの距離で耳元で囁く。
頬が赤く染まる様子まで、はっきり見えました。
……ふん。
私の婚約者が、別の男に心を奪われているとは。
面白くなってきました。
こんな政略婚姻など、初めからどうでも良かったのです。
ですが……興味は持ちました。
この二人の関係をもっと近くで見たい。
夜の寝室で、王子はどんな声を漏らすのか。
完璧な王子は、どれだけ乱れるのか。
ノルトルンド滞在は、思いのほか退屈しそうにありません。
私は皇女リリアーナ。
これから、最高の「観察」を楽しむつもりです。
誰にも、邪魔はさせませんわよ。
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「見ましたか、マリー?」
「見ました……」
物陰から、ひっそりとリリアーナ皇女を見守る人影、ルナとマリーの二人は皇女の視線を追っていた。
そして、その僅かな反応も見逃さず――
二人は確信した。
「「彼女も同志だ!」」
「そうと決まれば行動を開始しますよ、マリーさん用意はよろしいかしら?」
「はい、ルナさん。こちらに」
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私が従者を連れて部屋を出たときでした、先の廊下を曲がる人影に気が付きました。
あの女性は、たしか剣聖の従者でなかったかしら?
その従者の姿が消える間際に、何か紙を落としたようでした。
本人は気付かずそのまま歩き去ったのですが……。
「何を落とされたのかしら?」
廊下に落ちた紙を拾って目にした瞬間――
何なのコレは!?
そこには、私が頭の中で想像して思い描いているアポカリオン王子とエルヴェシア王子の姿が描かれていたのです!
それも……ただ似ていると言うだけでなく、二人の心情までを完璧に写し描いた美しい御姿で!!
私は常々思っておりました……私のこの想像を絵にできないものかと。
残念ながら『天は二物を与えず』と申しまして、私には想像する才能はあっても、絵の才能は無かったのですが……。
その絵姿は、私が大切に保管させて頂きました。
間違っても二人の王子や王宮の関係者に見られてはなりませんからね。
それにしても、なんてものを落として行ったのでしょうかあの従者は!
それからというもの、私は剣聖の行動を気にしてばかりいました。剣聖が行く場所にはあの従者もいるはず。
いつ、どのタイミングであの従者に声を掛けようか、どう話しかければ良いのかとヤキモキしていたところ。
「お茶会に呼ばれてはいかがですか?」と、私の従者が言ったのです。
お茶会? そうですわ!
女同士ですもの、お茶会にお誘いするのは至極当然の事、さらに格上からの呼び掛けですから相手も断ってこないはず。
私は、お茶会の案内を剣聖の元に届けさせました。
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「リリアーナ王女から、お茶会の招待状が届きました」
「釣れましたね……手筈は分かっていますね。マリー」




