王子 x 王子
大広間での晩餐会が盛り上がる中。
私は剣聖としての挨拶も一通り終えて、バルコニーに出て一人息抜きをしていた。
月明かりが美しい夜だった。
食料問題の心配も少し忘れて、ぼんやりと星を眺めていると──
「……こんな所にいたのか」
低い、静かな声。
振り返ると、そこに立っていたのは黒の王子、アポカリオン・エボルス。
昼間のクールな表情はそのままに、しかしどこか柔らかく、月光に照らされた横顔があまりにも美しかった。
「どうしたんですか? こんな場所に」
私が尋ねると、彼は無言で近づいてきて私の隣に立った。
「……少し、話がしたくなった」
王子は視線を空に向けたまま、ぽつりと呟いた。
「エルヴェシアとは、もう何年も前から知り合いだ。
隣国同士の交流で出会って……最初はただの政略的な付き合いだった」
彼の声はいつもより少しだけ低く、どこか遠くを思わせる響きがあった。
「でも、いつの間にか……俺は、あいつから目が離せなくなっていた」
……きた。
これは、きた。
心の中で私は絶叫した。
原作でも語られなかった「白 x 黒」の本当の始まり──秘密の恋物語が、今、私の前で語られようとしている!
「俺はノルトルンドの王子だ。
感情を表に出すのは控えて、常に冷静でいなければならない。それが俺の役割だと思っていた」
王子がゆっくりと息を吐く。
「でも、エルヴェシアは違う。
あいつは笑う。俺の前でだけ本当に笑う。
俺がどんなに冷たくしても、袖を引いて、耳元で囁いて俺の壁を崩してくる」
彼の横顔に、ほんのわずか──本当にわずかだけ、微笑みが浮かんだ。
「今日も、謁見の間で……お前を見ていた時も、あいつは俺の袖を軽く引いて『可愛い子だな』って言ったんだ。
……俺は、ちょっと腹が立った」
え?
「だから、わざと『見た目は普通』って言った。
あいつが気にするように」
……!!! つまり、あの失礼な発言は嫉妬!?
白の王子への嫉妬から、私にわざと言った!?
「でも、お前は剣聖だった。
見た目なんか関係ない、本物の強さを持っていた。
……それを見て、俺は少し安心した」
王子がようやく私の方を向いた。
月光に照らされた瞳が、真っ直ぐに私を捉える。
「エルヴェシアは俺のものだ。誰にも……渡さない」
クールな顔で、静かに、しかしはっきりと宣言する黒の王子。
私はもう心の中で大暴れだった。
最高すぎる!!
これが本物の「白 x 黒」!!
原作を超えた秘密の恋物語!!
「でも……まだ、誰にも言っていない。
俺たちは、ただの『隣国の友人』としてしか、見られていない」
王子は再び空を見上げた。
「いつか、ちゃんと伝えたいと思っている。
でも今は……このままでいい」
静かな夜風が吹き抜ける。
私はそっと微笑んだ。
「……王子同士の恋、ですか……素敵だと思います」
王子は少しだけ驚いた顔をして、それから──
本当に稀有な、本物の笑みを浮かべた。
「……ありがとう、剣聖」
その夜、王子たちの秘密の恋物語は……私だけが知る、特別な宝物になった。
(そして私は誓った。
この二人を、絶対に全力で応援するって。食料問題よりこっちの方が大事かもしれない……!)




