白 x 黒
「シャドウリッパー?」
「そうだ」
また近くの村に魔物が出たらしい、オーウェン隊長が広げた地図で場所を説明してくれる。
今度は二日ほど離れた山の洞窟の中。
「洞窟の中なら、別に無視すればいいんじゃない?」
「そうもいかん、魔物はほっとくとどんどん増えて外へ出てくるようになる。
特にシャドウリッパーは、人間に取り憑いて心地良い夢を見せ、眠らせている間に養分を吸い取って殺してしまうんだ。
大声を上げたり騒いだりしないせいで、気付いた時には被害が広がっているタチの悪い魔物だ」
「何ソレ怖い」
それに、シャドウリッパーには普通の武器も効かない。聖属性の武器か、教会で聖水を貰い振りかけた武器でないと倒せないそうだ。
とにかく迷惑で面倒な魔物だと言う事で、また魔物退治に行く事になりました。
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到着した村で詳細を聞いて洞窟へと向かう。
「ここかあ」
山に入ってすぐの開けた場所、崩れた山の斜面にポカリと開いた洞窟の入り口。
こんなのだったら誰でも気になって入ってしまうよね。
洞窟は中が狭くなっている場所もあると言うので、入るのは六人に絞られた。
隊長と私、それにメルド班の四人だ、副隊長がオーウェン隊長を心配そうに見ているのはいつも通りだけど、マルクを揶揄いながら心配しているドッツを見るとニヨついてしまう。
入る前に、それぞれの剣に聖水を振りかけておく。
「さて、入るぞ。くれぐれもシャドウリッパーに触るなよ」
オーウェン隊長を先頭に洞窟へ入ると、薄暗く少しひんやりとした空気が流れていた。
湿気がありちょっと嫌な雰囲気というか不気味な感じがする。
目を凝らして辺りを見ていると、フワッと顔のすぐ側を何かが横切った気がして思わず手で振り払う。
「あれ? 何かいた?」
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「あかりー、ご飯よー、起きてらっしゃい」
母親の声は聞こえているけれど、布団を被ってモゾモゾしていると部屋の戸をあけて母が顔を覗かせた。
私は、布団に潜ったまま……。
「今日……学校いきたくない」
母は別段驚きもせず。
「馬鹿言ってないでご飯食べちゃって、もうお母さんお仕事出なきゃいけないから」
ウチは母子家庭だし、母が毎日病院で働いて頑張ってくれてるのも分かってるから無理は言えなかった。
「あの子オタクだってよ」
「腐女子だってきいたよ」
「えぇー、キモい」
「変態な本とか持ってるのかな」
誰が言いふらしたのか分かってる。
毎月買ってるBL本、いつもは遠い本屋で買っていたのに今月は売り切れてて学校近くの本屋さんに行った時だ。
学校の制服の子がいない事を何度も確認したはずなのに、レジに並んだ途端にその子が隣に並んでた。
「窓乃さんて、そんな本買うんだ」
「えっ、あの……」
「あ、大丈夫よ誰にも言わないから、私特に興味ないし」
そう言ってすぐに居なくなったのだけど……。
次の日にはクラスの女子は皆知ってた……ヒソヒソこっちを見ながら噂してる。
男子は「ねーねーBLの本読ませてよ」なんて揶揄ってくるし。
高校を卒業して、看護師の資格が取れる四年制の大学に進んだ時も。
「えっ、ごめん! 私そんなの興味ないし」
普段から腐女子言葉を使っている子に同じ界隈の子だと勘違いしてグッズを贈ったら、そんな風に言われた。
最近、腐女子の用語が流行ってるから使ってみてただけだって。
ショックだった。
「ごめん朱里、俺たち別れよう」
「えっ?」
「朱里って腐女子って奴でしょ? それは理解しているんだけど。俺の事もそんな風に見てるのかなって思うと、ちょっと嫌って言うか、正直気持ち悪いと思えちゃって、ホントごめん!!」
初めて出来た彼氏だと思ってたのだけど……。
「……は?」
私はスマホを握りしめたまま固まった。
公式SNSが更新されたのは、午前二時〇五分。
アニメ最終回の放送直後だった。
【お知らせ】
『王子×王子 ~Roseblood Chronicle~』
本日をもって完結いたしました。
王子アルバス(CV:貝地裕紀)は王位継承のため、王子エボルス(CV:英具地拓弥)と別れ、隣国の王女と政略結婚し、エボルスとは二度と会う事はありませんでした。
長らくのご声援、ありがとうございました。
コメント欄は地獄だった。
「死ね」「制作委員会爆死しろ」「貝地くん英具地くんごめんね」「白黒は永遠です(現実逃避)」
私は何も書けなかった。ただ、震える指でリツイートだけ押した。
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そして気づいたら──
私は洞窟の中にいた。
剣を持った人たちに囲まれて、バシャバシャと水を振りかけられながら。
「だからシャドウリッパーに触れるなと言っただろが! あかり、ちゃんと起きてろよ!」
……は? 誰? この人たち?
でも、私の心はそれどころじゃなかった。
頭の中にさっき見た公式の文字が焼き付いて離れない。
アルバスが……エボルスを置いて王女と結婚……?
「ふざけんなあああああああああああああ!!!!」
洞窟全体が震えた。
私の叫びが魔力を帯びて響いたらしい。
近くにいた小さな影がフワッと寄ってきた。
黒い影のような体で、私の耳元で囁く。
(ねえ、夢を見せてあげる……)
(アルバスとエボルスが、仲良くしている世界……)
一瞬、視界が歪んだ。
──そこは王宮の庭園だった。
アルバスがエボルスを抱きしめて「俺はお前以外愛せない」って言ってる。エボルスも、アルバスの胸に顔を埋めて「嬉しい――」
「……黙れ」
私は剣を抜いていた。
「違うんだよ!! お前らはもう終わったんだよ!!
公式が!! 公式が!! 王女と結婚させたんだよ!! もう二人が抱き合ってるの見たくねえんだよ!!!」
剣が光った。
純粋すぎる憎悪と喪失感が、剣に聖なる炎となって宿った。
シャドウリッパーの夢が、粉々に砕ける。
私は走り出した。
洞窟の奥へ、奥へ、奥へ。
シャドウリッパーたちが逃げ惑う。
「待てよてめら!! 夢見せてんじゃねえ!! 現実を見せろ!! 『白x黒』が死んだ現実を!! 私に突きつけろよ!!!」
最奥に、巨大なシャドウリッパーの集合体がいた。
まるで、私の絶望を形にしたような、黒い塊。
私は剣を構えた。
「イメージしろって? いいよ、イメージしてやるよ」
脳裏に浮かぶのは、最終回でアルバスがエボルスに背を向けて歩いていく後ろ姿。
エボルスが、声を上げられずに立ち尽くす姿。
二人が二度と触れ合わない、という残酷な事実。
私は泣きながら笑った。
「これが……私の……最推しカプの……墓標だ!!」
剣が、純白に燃えた。
腐女子の業が、聖なる裁きに変わった瞬間だった。
一閃。
巨大なシャドウリッパーが、真っ二つに裂けた。
黒い霧が悲鳴を上げながら消えていく。
私は剣を地面に突き立て膝をついた。
「……アルバス……エボルス……もう、会えないのね……」
オーウェン隊長たちが呆然と私を見ている。
「……あかり? お前、今の技……何?」
私は涙と鼻水を拭い、立ち上がった。
「『白黒葬送剣』」
それが、私の新必殺技の名前だった。
──腐女子は、推しカプが死んだ時、最強になる。
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