騎士団 x 腐女子
「やっぱ、ガッツ班長はかっこいいなぁ〜」
「やっぱり、メルド班長はかっこいいよな」
二人が同時に口を開く。
「何を!?」
「何だと!?」
「どう考えてもガッツ班長の圧勝だろ!」
「どう見てもメルド班長の圧勝だよな!」
周囲の隊員たちは「あぁ、また始まった……」と完全に聞き流している。
「俺のガッツ班長は前回のホーンベアーを」
「ウチのメルド班長は前回のホーンベアーの」
――二匹も仕留めたんだぞ!
――一番デカい奴に一番槍をぶち込んだんだぞ!
「ガッツ班長のあの筋肉はな……」
「メルド班長のあの腹筋はな……」
――毎晩風呂場で鏡に向かってポージングしてるんだぜ!
――毎朝生卵十個飲んで鍛えてるんだぜ!
「「やかましいわ!! 俺たちの隊長の方が絶対に凄い!!」」
ガッツ班長(遠くから)
メルド班長(遠くから)
「お前ら……それ以上は」
「それ以上は……」
――俺の心が持たん……
――俺の羞恥心が死ぬ……
そして、隊員二人がいよいよ掴み合って喧嘩になりそうな段階になり。
「「お前達、いい加減にしとけ」」
やっと隊長が出てきて二人を止めに入る。
「あっ、ガッツ班長!」
「メルド班長! お疲れ様です!」
二人揃って、ビシッと胸に手を当てて敬礼の姿勢を取る。
キラキラした目でガッツとメルドを見る二人の隊員。
「「今日は二人に稽古付けてやる」」
「「本当ですか!」」
「ただし、いつもと通りだと稽古にならんから今日は組み合わせを変えて」
「俺とマルク」
「私とドッツで稽古をする」
ドッツ(ガッツ班所属)
「……は?」
マルク(メルド班所属)
「……え?」
瞬間、訓練場の空気が凍りついた。
「どうした? さっきまで俺の筋肉がどうのこうの騒いでた奴が、急に黙りこくってんじゃねぇよ」
「俺の腹筋をベタベタ触りたがってたお前が、今さらビビってんのか?」
ドッツ!
ドッツ(ガタガタ震え)
「ち、違います! ただ……ガッツ班長と直接組むなんて、俺なんか死にますって……!」
マルク(半泣き)
「メルド班長の槍捌き、あれを真正面から受けたら俺の骨、全身粉々になりますよぉ……!」
ガッツ班長&メルド班長(同時に一歩前に出る)
「「逃げるな」」
ドッツ&マルク
「「ひぃぃぃぃ!!」」
「今年も始まったな……隊長直伝地獄スパルタ」
「賭けるか? 何分持つか」
「俺はドッツが三十秒、マルクが四十五秒」
「甘いな、両方十五秒だろ」
ガッツ班長(木剣を肩に担いで)
「まずは軽く百本、な」
メルド班長(槍をクルクル回しながら)
「俺は軽く二百本だ」
ドッツ&マルク(涙と鼻水でぐちゃぐちゃ)
「「軽くじゃねぇぇぇぇ!!」」
そして──三十分後。
訓練場には、這いつくばって白目むきながら「班長……最高……です……」と呟く二人の人影だけが残されていた。
ガッツ班長(満足げに腕を組む)
「まあ、今年はよく頑張った方だな」
メルド班長(槍を立てて苦笑)
「十五秒どころか三十分も持ったんだ。成長したな」
遠くで観戦していた隊員たち
「……あいつら、やっぱりマゾだよな」
「来年も絶対やる気満々だろ、これ」
ドッツ(かすれた声で)
「来年は……もっと恥ずかしい話……仕入れてきます……」
マルク(フラフラしながら親指を立てる)
「生卵二十個……飲むところ……見学させて……ください……」
ガッツ班長&メルド班長
「「お前ら……もう帰れ!!」」
──こうして、騎士団の伝統「隊長自慢喧嘩からの公開処刑」は、今年も無事(?)幕を閉じた。
(来年もきっとやる)
【第三騎士団「鉄狼」】
「レオ隊長は先月のオーク大群をたった一撃で!
「ヴィル副隊長は同じ戦場で同時に七体斬りだぞ!」
「レオ隊長のあの胸板はな……」
「ヴィル副隊長のあの背筋はな……」
――毎晩裸で松明持って山道ダッシュしてるらしいぜ
――雪の中で素っ裸で滝行してるって話だぜ!
「「誰に聞いた!!」」
遠くから赤面した声が二重に響く。
そして例のごとく掴み合いが始まり、二人は隊長の斧と双剣にフルボッコにされながらも。
レオ隊長の斧が振り下ろされるたび『さすが胸板です!』、ヴィル副隊長の双剣が突き込まれるたび『背筋が美しい!』と叫びながら吹っ飛ばされ、観客は笑い死にそうだった。
【第四騎士団「白薔薇」訓練場】
「クラウス隊長の魔剣は最強!」
「違う、エレオノーラ副隊長の炎魔法こそ至高の存在!」
「クラウス隊長はドラゴンの息吹を剣で弾き飛ばした!」
「エレオノーラ様は同じドラゴンを一瞬で灰にした!」
「クラウス隊長のあの鎖骨のラインが……」
「エレオノーラ様のあの腰のくびれが……」
――風呂上がりに髪を拭く姿が天使
――着替えの隙間から見えた太ももが伝説
「「黙れぇぇぇ!!」」
二人とも本気で怒ってしまい、全員半殺しで終了。
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「さて……皆確認は出来たかしら?」
植え込みの影からこの様子を覗き見していた騎士団BL腐女子隊が、鼻血を垂らしながら震えていた。
「ガッツ×メルドの『お前ら…もう帰れ!!』で同時絶頂シーン、もう脳内で無限ループしてる」
「ドッツとマルクが白目剥いて『班長……最高……』って呟くやつ、あれ完全に事後なのでは……」
「レオ隊長の斧で隊員が吹っ飛ばされるたび『もっと胸板で踏んでください』って聞こえたよね?」
「クラウスがエレオノーラを抱き上げる→即壁ドン→魔剣で拘束→炎魔法で熱プレイの流れ、もう完璧すぎて昇天した」
三日後――
王城内で謎の薄い本が出回る。
タイトルは『騎士団長たちの恥ずかしい秘密大全』
著者名:匿名(騎士団内部関係者)
王城執務室
国王「――で、誰が書いた?」
全騎士団長・副団長(真っ青な顔で整列)
「「「「「知りません!!」」」」」
腐女子隊(植え込みの影)
「次回作は『隊長たちの温泉旅行二十四時』よ」
「表紙はもちろんガッツ×メルド×レオ×クラウスで――」
ガッツ「却下!!」
メルド「却下だ!!」
レオ「却下に決まってるだろ!!」
クラウス「却下である!!」
(遠くから四人の絶叫が重なり、王都に轟音が響き渡った)




