あかり x ホーンベアー
「あかりー!! 遂に出番だぞ!!」
バーンッと扉を開けて飛び込んできたのは、騎士団団長から剣聖騎士隊隊長へと昇格したオーウェン隊長だ。
「アル x カイル」の訓練を始めて十日が過ぎた頃だったか、オーウェン騎士団長とマクシス副団長が一緒に訪ねてきて、私専門の剣聖騎士隊が正式に発足したと聞かされた。
隊長はもちろんオーウェンさん、副隊長は満場一致でマクシスさん。他の騎士団から選抜されたメンバーと合わせて総勢十八名。
「アル×カイル」の二人も近衛を辞して私の隊へ異動になった。
まだ治療フェーズOneの段階なので事務作業しか任せていないけれど、これでいつでも観察(妄想)し放題です!
そして今日、オーウェン隊長が飛び込んで来た理由は。
離れた村に魔物が出たと知らせが入り、ついに私達の出番だと言う。
「……っ遂に、剣聖として初陣ですねっ!」
再編成された剣聖騎士隊と共に、馬車で三日掛けて魔物が出たという村へと向かう。
私は馬に乗れないから馬車、隊長と副隊長がそこに同乗して、荷物運搬用の荷馬車が一台着いてくる。
それに馬に乗る騎士八人が前後を守りながら進むと言う隊列になっている。
私は、初めて王城の外へ出るワクワクで興奮していた。街の中の雰囲気や外の景色はどうなっているのだろう。
出発する馬車の御者台に乗せて貰ったのだけれど、何故か御者をオーウェン隊長が務めてる。
「わっ、ここって結構怖いですね」
初めて乗った馬車の御者台は、目の前に何もなくてジェットコースターの一番前の席みたいでチョット怖かった。
「気を付けろ、落ちるんじゃねえぞ」
気遣ってくれるオーウェン隊長。
隣に座る私を親の仇のような目で見るマクシス副隊長、後で代わりますからね、ねっ?!
「えーっ!? もうちょっと普通の暮らしの街並みが見たかったなぁー」
私たちが出発したのは王城から南側に向かう門。
その門の先は、いわゆる貴族街で道は綺麗に整えられた石畳。
並んでいるのは全て豪邸で、元の世界とは余りにも違い過ぎる光景に「ここはビバリーヒルズかよ!」と突っ込んでしまった。
「無茶言うな、お前を乗せて市井の街中なんて走った日には市民が押し寄せて大変な事になるぞ」
何でも『剣聖』が現れたと言う話しは既に王国中に広まっており、剣聖様を一目見ようと国中から人が集まっているという。
なので普段より多くの人が街に溢れていて、そのせいでスリや窃盗、喧嘩も増えて大変だと。
「そんな中にお前を連れて出て行ったら、憲兵達から怒られてしまうわ!」
流石に元騎士団長自ら、街の安全を脅かすような行動は取れないと怒られた。
「はーい……」
仕方がないので、行ったこともないビバリーヒルズや中世ヨーロッパの街並みだと思って我慢しますか。
暫く豪華な街並みを眺めていると、いよいよ王都の端に到着しました。
「さあ、いよいよ王都を出るぞ!」
その言葉に、私のテンションが一気に上がった!
門の外に広がる光景は!
「わぁ! 綺麗!!」
真っ直ぐ一本に伸びる石畳、門外は一面の花畑で油用の花だけど貴族街側だから美しく整備されているそうだ。
やがて花畑が途切れ、いよいよ田園風景へ。
石畳も土の街道へと変わり。
ガタゴト、ガタゴト……
「お尻痛い……」
「情けないなお前は……」
何度か回復魔法を掛けたけど限界!
ガタゴトと下から突き上げる衝撃に、快適な車しか知らない私のお尻には拷問でした。
「今回の私の相手は何ですか?」
気を紛らわせる為に話題を変える。
「言って無かったか? ホーンベアーが数匹だな」
「ホーンベアー?」
私が「何それ?」と首を捻った事でオーウェン隊長の隣にべったり座っているマクシス副隊長からふか〜いため息が溢れる。
「……はぁーっ、貴方にはこの辺りに発生した事例のある魔物のリストを渡していた筈ですが? 読んでいないのですか?」
そう言ってジロリと睨まれる。
「よっ、読みました読みました! ホーンベアー! 確か頭にツノがあるクマの魔物ですよねー」
「……で?」
「で、で?」
「その他の特徴は?」
「そ、そ、その他の特徴は……えーっと」
私が、蛇に睨まれた蛙のようになって縮こまっていると、隣のオーウェン隊長からの助け舟が!
「まあまあ、マクシスよそんなに剣聖様を虐めてやるな」
オーウェン隊長がマクシス副隊長の膝をポンと叩くと、マクシス副隊長が顔を真っ赤にして持っていた書類で顔を隠す。
この顔を隠す動作ってマクシス副隊長の癖なのかな?
「ホーンベアーってのは、その名の通り頭にツノがあるクマの魔物だな。大きさは最大で三メートル程度、この辺りで現れる魔物としては大型の魔物に入る。力が強くて耐久力もあり、通常は騎士三、四人で抑えながら倒す魔物だ。気を付けなければならないのが、偶に火の魔法を使ってくる事だな」
「魔法!?」
私は驚いて大声が出た!
「えっ、魔物も魔法を使えるんですか?!」
「やはり……貴方は何も読まれていませんね」
「まあまあ、ホーンベアーが使う魔法はファイヤーボールの魔法だ。山の中で使われると延焼の可能性があるので魔法を使わせる前に倒す必要がある」
「ファイヤーボール……」
「もしファイヤーボールを撃たれたら、物陰に隠れたり防御魔法のアースウォールで防ぐんだ。そう言えばあかりも防御魔法は使えたよな?」
「そう聞いたけど、使い方は習っていないよ?」
「魔法の本質はイメージだ、『こうしたい』と強く考えて発動のキーになる言葉を発声すると魔法が発動する。身体強化はキーは必要ないが、どうやって使うかは教えた通りのやり方でほぼ同じだと思っていい」
「へー」
身体強化を教えて貰った時は、走っている時に後ろから押して貰って負荷が減っている事を体感し、それを自分自身で魔法で再現すると言う事だった。
私の場合は、元の世界の病院で体験したパワーアシストスーツを使った時のイメージをしたら案外簡単に出来てしまった。
まあ……プラスでラノベの知識もかなり役に立っている気がするけれど。
「ん? もしかして……」
私は、思い付いた事を試してみる事にした。
「エアクッション!」
私が突然変な声を上げた事で、オーウェン隊長とマクシス副隊長が変な顔をする。
「お? おお? おーっ! やった! 成功だ」
馬車の下からの突き上げを攻撃だと考えて防御魔法を発動する。持ち運びタイプの空気を入れるクッションをそのままイメージしてみた。
それを座席とお尻の間に展開させてみたのだ。
実験は大成功! 私のお尻は無事に守られる事が出来ました。
ちなみに二人からも催促されて使ってあげたら、もの凄く感謝された。ホントは二人も我慢していたんだね。
その後の旅路は快適そのもの。
楽しい気分で村まであと少し――ついに、剣聖あかりの初戦が始まろうとしていた!




