ep2
王の命令により、何故か僕も彼女と一緒に紅蓮国に向かうことになった。
いっそのこと離れられたら楽だったのかもしれない。
彼女が僕とは違う誰かのモノになってしまう姿を毎日見なければならないと思うと息が苦しくなる。
「王女様。今日は、良い天気でございますね」
「そうね」
僕は、王女様が毎朝欠かさず行っている散歩に付き添っていた。
この時間も僕にとっては、癒しの時間だ。
しばらく宮殿内を歩いていると、女中たちが食事の用意や洗濯物などを行っているエリアが見えてきた。
すると、
1人の女中がものすごい勢いでこちらの方へ駆け抜けてきた。
足音が響き、緊張を帯びた声で叫んだ。
「みんな、大変よ!」
「どうしたの、そんなに慌てて」
別の侍女が眉をひそめて問いかける。
「王女様が、紅蓮国の李杏様と……ご結婚なさるそうよ」
王女様のご結婚の噂が女中たちにも広がったようだ。
あまりの衝撃に女中たちは、沈黙する。
それを破ったのは、控えめな口調の侍女だった。
「……あなた、本当に言っているの?」
「紅蓮国って……私たちの土地を侵略しようとしてるって噂じゃない」
侍女の一人が、不安を含んだ声で言う。
「そんな危険な場所に王女様を行かせて大丈夫なのかしら……」
そのつぶやきに、もう一人が重ねた。
「でも、ジュリアンも一緒らしいわよ」
その名を口にした瞬間、場の空気がまた少し揺れた。
「それなら……安心……かもしれないわね」
「そうでございますね」
「安心…なのかしら?だってジュリアンは…」
女中の皆が僕の噂をしている。
僕は、15年間という長い年月を彼女の隣で過ごしてきているのに、何故か怪しまれている。
何故皆は、僕がこの国に復讐すると思うのだろうか。
不思議で仕方がない。
「コホン」
王女様が女中たちに近づき、咳払いをする。
侍女たちは驚き、慌てて頭を下げる。
「あなたたち、何を話しているの?」
王女様の澄んだ声に、侍女の一人が恐る恐る口を開いた。
「お、王女様……し、失礼いたしました。ご結婚の噂を耳にいたしまして……誠でございましょうか?」
「お父上がお決めになったことよ。私は、生まれた時から、父の決めた人と結婚する運命。覚悟していたことよ」
そう言い残し、王女様は僕と共にその場を去る。
しばらく歩いたあと、王女様はふと立ち止まり、静かに振り返った。
「そういえば、まだあなたの考えを聞いていなかったわ」
「……何のことでしょうか?」
「私が、紅蓮国の皇太子と結婚すること。あなたはどう思うの?」
一瞬の沈黙の後、僕は言った。
「紅蓮国は我々の土地を狙っているという噂がございます。危険は伴いますが、私は命を懸けて王女様をお守りいたします」
「そういうことを聞いているんじゃないわ」
王女様の声に、思わず僕は黙り込んだ。
目を伏せる僕を王女様はじっと見つめる。
「またあなたは黙るのね。いつもそう。そしてその鋭い目。あなたは、私を憎んでいるのね」
「……いいえ。憎んでなど、おりません。私はあなた様の側で仕えることができて幸せでございます」
「う、嘘よ。だって…あなたは…私の父上に命令され、嫌々私に仕えている。そうでしょう?」
「王女様……」
「もういいわ。あなたが私のことを恨んでいることなど今に始まった話じゃないわ。私は、生まれた時から敵国に嫁ぐ運命だったの。責務を果たす日が来た。それだけのことよ」
「王女様、お待ちくださいませ!」
僕は、慌てて彼女の姿を追いかける。
「しばらく……一人になりたいの」
その言葉を残し、彼女は静かに背を向けた。
その背中を、僕は追いかけることができなかった。
王女様は、女中の誰かに変な噂を聞いたのか。
ある日を境に僕に対して攻撃的になってしまった。
昔の優しかった頃の王女様に戻って欲しい。
王女様。
あなた様は、分かっていらっしゃらないのです。
僕が、あなたをどれほど……お慕いしているのか。
いつか彼女に信じてもらえることを願っている。




