「えへへ、この人佐藤くん。昨日彼氏になってもらったんだ」
「えへへ、この人佐藤くん。昨日彼氏になってもらったんだ」
私は、これでもかというくらい佐藤くんの腕をギューっと引き寄せた。ヘラヘラ笑っている私の彼氏は顔が赤かった。
けれど、友達の菜実は、いつものポーカーフェイスを気取ったまま"おめでとう"とシンプルな言葉を放っただけだった。
何よ……もっと悔しそうな顔したらいいじゃない。
「えーなんで!」とか、「いつから好きだったのー!?」とかさ。
なんだか私、すごく馬鹿みたい。
触れる腕にさらに力を込めては佐藤くんを困らせる。絶対、菜実にギャフンと言わせたい。
あの子の悔しがった顔を一度でいいから見てみたい。どうしたらあの子のいろんな表情が見られるの!?
無情にも頭の中は、彼氏よりも菜実のことばかり。ひどい女だよね私。でも仕方ないもん。
私が本当に好きなのは菜実だけなんだから……。
あーもー! 認めたくないんだけどね。恥ずかしいし。
あの子の気を引きたくて今までにたくさんの方法を試してきた。
急に、金髪にした時も「染めたんだ」だけだったし。本当はかわいいって言ってほしかった……。
何でもない日にプレゼントをあげた時も「ありがとう」だけで、表情はあいもかわらず。
あなたの喜んだ姿が見たいのに。いろんな顔が見たくてたまらないのに。
……彼氏を作ってみたら、どんな顔するだろうと思い付いたのが一昨日。そしてできたのが昨日。
私はかわいいから、本気を出せば彼氏の一人や二人は楽勝に作れるんだけど……。
菜実の気持ちが手に入らなければ、そんなの意味がないよ。ねぇ菜実、私にもっと興味を持ってよ。
菜実が驚かないなら、作った彼氏も意味を成さない。佐藤くんには悪いけど、少し経ったら別れ話を切り出そう。
それからというもの、何も代わり映えがしない日々が続いた。
佐藤くんは私をデートに誘ってくれるけど、好きな人では無いので断ってばかりいた。
菜実とは、あれから話をしていない。
私に彼氏が出来たからって気を遣っているのだろうか。あの子はそういうところあるから。……菜実が恋しいよ。
「ねぇ」
……!菜実の声。
条件反射で振り向いたその先には、菜実と見知らぬ男の人が立っていた。
「え…?」
正直状況が掴めなかった。
なんで二人は手を繋いでるの? どうして?
「私も彼氏できたんだ」
聞きたくなかった一言を、菜実の口から伝えられてしまった。
やられた。という感情と共に胸に熱いものがこみ上げてきた。
私、今どんな顔しているのかな。きっと私自身が菜実にさせたかった顔だ。
嘘だと言ってほしかった。
おめでとうと言えない私の横を、手を繋いだ二人が通る。
「こういう気持ちだよ」
菜実は誰にも聞こえない声で確かに私にそう言った。