2話
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森の木々の間から朝日が差し込み、淡い金色の光が湿った地面にきらめく斑点を散らした。アイデンは目を覚ますと、自分がカイルの上着をかけられていることに気づいた。慌てて起き上がり、金髪の少年を探す。
カイルは近くの岩の上に座り、小さなナイフで奇妙な形に木を削っていた。朝日が金色の髪を照らし、彼は緑の森の精霊のように非世俗的で謎めいて見えた。
「起きるのがちょうどよかった」カイルは顔を上げずに言った。「話がある」
アイデンは目をこすり、向かい合って座った。「何の話?」
カイルはナイフをポケットにしまい、木彫りを置いた。「君が一緒に旅したいなら、条件がある」冬の湖のように冷たい青い目がアイデンを直視した。「三つのルールだ」
アイデンは興奮して頷いた。「教えて!」
「一つ―」カイルは指を立てた。「俺の過去を聞かないこと」
「二つ―」二本目の指。「自分で身を守れるようになれ。俺は君のボディガードじゃない」
「そして三つ―」三本目の指でアイデンの額を軽くたたいた。「王子様の身分を誰にも明かすな」
アイデンは眉をひそめた。「なぜ三つ目がそんなに重要なの?」
「君が危険にさらされるからだ」カイルは銀の首飾りに触れた。「約束できるか?」
アイデンは少し考えてから手を差し出した。「約束する!代わりに、俺に戦い方を教えてくれ!」
カイルは差し出された手を見て、かすかに微笑んだ。「戦いを学ぶのは簡単じゃないぞ」
「怖くない!」アイデンはカイルの手を強く握った。「約束だよ!」
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最初の訓練はその日の夕方、森の端の空き地で行われた。
「剣の構え方が全く間違っている」カイルは後ろに立ち、アイデンの手を調整した。「手首はまっすぐ、重心は後ろ足に」
アイデンは唇を噛んで集中したが、剣を振り下ろす際に木の根につまずき、地面に顔から転んだ。
「痛てっ…」
カイルは珍しく澄んだ笑い声を上げた。「お坊ちゃまらしいね」
「笑うなよ!」アイデンは顔を赤らめて起き上がり、服の泥を払った。「宮廷で習った剣術は違うんだ!」
「そうか」カイルは腕を組んだ。「実際に戦ったことはあるのか?」
アイデンは黙った。
「そうだろうと思った」カイルは長い枝を拾った。「俺を攻撃してみろ」
「でも―」
「攻撃しろ!」
アイデンが剣を振り上げると、カイルは即座に枝で彼の手首を打った。「痛い!」
「敵は手加減しない」カイルは別の枝を投げた。「もう一度」
日が西に傾く頃、二人の小さな影は空き地で格闘していた。アイデンは息を切らし、汗でシャツが濡れたが、不平を言わなかった。
カイルは手を止め、珍しい表情でアイデンを見た。「君は思ったより頑丈だ」
「だって…」アイデンは地面に座り込み、息を整えた。「本当に強くなりたいんだ。もう逃げたくない」
カイルはその言葉に共感を覚えた。アイデンの隣に座り、遠くを見つめた。「わかる」
静かな時間が流れ、葉を揺らす風の音だけが聞こえた。
「ねえ」アイデンが突然話し始めた。「僕の母も僕が小さい時に亡くなったんだ。顔もよく覚えてない」
カイルは首飾りを強く握った。「俺もだ」
二人の孤児は夕日の中に並んで座り、初めて心の通い合いを感じた。
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その夜、アイデンが眠りにつくと、カイルは密かに上着のポケットから小さな本を取り出した。月明かりの下、赤い文字が浮かび上がる:
"魔法使いの血を引く者は、血で代償を払わねばならない…"
アイデンの寝顔を見た。無邪気で憂いのないその顔に、カイルは未知の感情が胸を駆け抜けるのを感じた。
「君を俺のような苦しみに遭わせない」
彼は空気に向かって誓いを立て、本を消えゆく火の中に投げ込んだ。
しかし、火は本を焼き尽くさなかった。むしろ、赤い文字は血のように激しく輝き、狂ったように踊った後、黒い煙の中に消えていった。
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何日もの訓練の後、アイデンはついにカイルの三連続攻撃を倒れずに防げるようになった。子供のように跳び上がり、泥だらけの顔に満面の笑みを浮かべた。
「見たか!上達したぞ!」アイデンは木の剣を振り回した。
カイルは腕を組みながら小さな笑みを浮かべた。「まだ盗賊に勝つには程遠い」
「ならもっと練習する!」アイデンは袖をまくった。「いつかきっと―」
お腹が大きな音を立てた。カイルは笑い出した。
「まずは何か食べよう」
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ヴェンフォードの町は活気に溢れ、木造の家々が立ち並び、市場では売り声が飛び交っていた。アイデンは興奮してカイルを食堂に引き込んだが、価格表を見て愕然とした。
「串焼き一つで銀貨5枚!?」アイデンはぼそりと言った。
カイルは冷たく彼の手を引いた。「外食する金はない」
「どうやって金を稼ごう?」
広場の大きな掲示板が目に入った。「薬草収集」「森の魔物退治」「失われた品の探索」などの依頼がびっしり。
「ギルドの依頼だ!」アイデンは歓声を上げた。「依頼を受けて金を稼ごう!」
カイルは即座に首を振った。「ギルドは15歳以上しか受け入れない」
「僕はもう15歳だ!」
「俺はまだだ」
アイデンは目を見開いた。「え...15歳未満?でも―」
カイルは視線をそらした。「俺は14だ」
アイデンはある事実に気づいた。カイルの小さな体躯を、町の同年代の少年たちと比較した。カイルは頭一つ分背が低く、痩せた体は満足に食事を取ったことがないようだった。
「だから依頼が受けられないのか...」アイデンは胸が締め付けられるのを感じた。
カイルは眉をひそめた。「そんな目で見るな。哀れみはいらない」
「哀れみじゃない!」アイデンは慌てて言った。「ただ...どうにかしないと」
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ギルドの受付で、長い白ひげを生やした老人は二人を疑わしげに見下ろした。
「依頼を受けたいだと?」
「はい!」アイデンは自信ありげに答えた。「僕は15歳です!」
老人はカイルを見た。「こっちは?」
アイデンは機転を利かせてカイルの肩を抱いた。「弟も15歳です!ただ...背が低いだけ!」
「ふむ」老人はカイルをじっと見た。「家業は?」
カイルは冷静に答えた。「父は猟師で、小さい頃から弓を教わりました」彼は手のひらのタコを見せた。
老人はうなずき、不意に詰問した。「では弓は?」
カイルは動じず:「移動中に折れました。新しい弓を買う金を貯めています」
老人は突然笑い出した。「よし、機会を与えよう。だが覚えておけ―」声は厳しくなった。「ギルドは嘘つきを許さない」
結局、老人は簡単な依頼を許可した:森の奥で夜香草10本を採取する任務だった。
町を離れ、アイデンは感心したようにカイルを見た。「君の嘘は完璧だった!僕も騙されそうになった!」
カイルは唇を結んだ。「必要だった」
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最初の任務は単純だった:森の奥で夜香草10本を集めること。
「誰とも戦わなくて済むなんてラッキーだ」アイデンは小川沿いを歩きながら安堵のため息をついた。
カイルは突然立ち止まった。「アイデン」
「ん?」
「俺の本当の年齢を誰にも言うな」カイルの声には警告が込められていた。「こんな嘘をつくのは最初で最後だ」
アイデンはゆっくり頷いた。「わかった。君を危険にさらさない」
沈黙が流れた。
「それに」アイデンはにっこり笑った。「僕と並ぶと本当に弟みたいだ!兄さんと呼べ!」
カイルは泥の塊をアイデンの顔に投げつけた。「夢見るな!」
二人の笑い声が森に響き、緊張を解きほぐした。しかし心の奥で、アイデンは誓った――幼すぎる年齢で大人にならざるを得なかったカイルを、自分と同じように守ると。