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第16話 黄昏時

 旅に向けたチェックリストの確認と諸々の指示を済ませると、一人、部屋へと戻った。窓を開ければ涼やかな風が舞い、前髪を揺らしていく。


 窓から遠くに見える街にはもう大きな夕陽が落ちていた。少し身を乗り出して空を仰げば、月が薄っすらと形を表してきている。


 もうすぐ陽が落ちる。太陽に照らされた賑やかな世界から一変したように、暗闇が支配する静かな夜の時間が始まる。


 ……私の時間だ。


『世界はね、9つの国に分かれているんだよ』


 窓枠に頬杖をついてぼんやりと外の景色を見ていると、急に、昔、王子と一緒に読んだ絵本の話がよみがえってきた。


 この世界は9つの国に分かれている。世界を創った神は9つの武器を人に与えた。人は武器を手に国を創り、王となる。王は民を守り、民は国を守る。だから世界は9つの国に分かれている。


『でも、神に逆らった人がいたんだ。神に従うのではなく自由に生きるべきだと主張したその人は、人ではなく咎人とがびととなった。咎人は武器をもらえなかった代わりに、神の力の一部を盗んだ』


 それが、フォヴォラを創る力。黒い影から形を創る力。それ以来、人と咎人は争う運命となった。


「その運命を終わらせるために、咎人は世界から滅ぼされなければならない、か……」


 突如、扉が開かれた。赤髪ツインテールのフリーダだった。


「コンコン」


「ノックは口でするものではなく、ドアを叩く音だ」


「生真面目なご指摘ありがとう。なに? 王子を想って黄昏れてるところだった?」


 挑発的な視線。フリーダはいつもそうだ。


「今、いろいろと抱えていてね。冗談を受け流せる状態じゃないんだ」


「でも、王子のこと好きなんでしょ?」


 フリーダはそう言うと、腕を組んだまま詰め寄ってきた。真っ直ぐな目に視線が外れてしまう。


「……質問の意図がわからない。今、忙しくて悪いが──」


「ねぇ、なんで最近よそよそしいの? 魔法の訓練のとき一回も顔を見せないし、王子と喧嘩でもしたの?」


「け、喧嘩などするものか。私は秘書官だ。王子の命令は絶対。そ、それに紋章を知らない私がいた方が迷惑じゃないかって」


「もう、言い訳、言い訳、言い訳ばかり! こっち見なさいよ! あんたが王子の傍を離れるわけない! 私みたいな不審者と二人きりにさせるわけない! そうでしょ!」


 腕組みを解くと、フリーダはなぜか口調を荒くして私に迫る。


「……待て。なんなんだ。さっきから、何か私に不満でもあるのか?」


「不満だらけよ! 本当は王子が好きで好きでたまらないくせに、平気な顔をして! 変に距離おいて! 今だってどうせ何か悩んでいたんでしょ! なによ、さっきの『王子に伝えてくれ』って! 王子の秘書官だって自慢するなら、それくらい自分で伝えたらいいじゃない!」


「……何を言ってる。フリーダ、君はいったい何を──」


 顔を見てハッとした。どんなに怒り狂った顔をしているのかと思いきや、まだ少女に見えるフリーダの大きな瞳から涙が流れていた。


「見てらんないのよ、あんたみたいな女。自分の気持ちに正直になれなくて、フタをして、ついにはフタをしていることすら忘れて気持ちをなかったかのようにしてさ。……私、あんたのこと嫌い。本当に大嫌い」


 言葉を紡ごうと口を開いたが、何も浮かんでこなかった。何か言いたいのに何も言い返すことができなかった。


 窓から差し込んだ光が夕陽に飲み込まれ、部屋の中が赤く染まっていく。その色はフリーダの赤色の髪をさらに深める。


「紅茶を入れて」


「えっ?」


 フリーダは悔しそうな顔をして指で涙を拭くと、命令口調でもう一度言った。


「だから、紅茶を入れてって言ってるの。わざわざ嫌いってだけ言いに来るわけないじゃない。王子の紋章とあんたのことについて話があるのよ」

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