神社
森の、かなり深い所に、その神社はある。
その神社は昔から色々な噂があった。
境内に入ったら病気が治っただの、賽銭を盗もうとしたら鬼に追い回されただの、とにかくその手の噂には事欠かない、実に不思議な神社だった。
ムシムシとする深い森を、かなりの時間を掛けて進むと、その神社が見えてくる。
朝起きたらここまで来るのが、私の日課だ。
境内は誰も居ず、ただ蝉の声が森の中に木霊しているだけだ。
お賽銭箱に五円玉を入れ、鈴を鳴らす。
カランカラン、と心地の良い音が森に響き、吸い込まれる。
暫くその余韻に浸った後、ゆっくりと、前だけを見て歩き出す。
鈴が勝手に鳴ろうとも、木の陰から、何かがこちらを見ていようとも、前だけを見る。
“ヒュー” という音と共に、突然辺りが暗くなる。
「あっ」
森の向こうに、見事な花火が上がった。
思わず振り向くと、狐が一匹、こちらをじいっと見ていた。
「あ〜あ、今日も一本取られたな。」
私はお賽銭箱の前に戻ると、その前に油揚げを置く。
そして、今度は振り返らずに神社を後にする。
そこには夜空も、花火の余韻もなく、夏空に入道雲、蝉時雨がやかましい森の中。
あの神社は実に奇っ怪。そういう噂には事欠かない神社である。