贈り物に秘め〜花を愛す王女の贈り物には秘密が隠されています〜
*
それは彼が近々18歳の誕生日を迎える頃のことだった。
「はあぁ、婚約者か。そろそろ決定しなければならないが……」
アルマ王国の第一王子、サミュエルは盛大なため息をついた。彼は近く婚約者を決めなければならない重責を担っている。
現在、城に招待し滞在しているのは4人の王女。
婚約、そして婚姻関係を結ぶことによって、より有意義な関係となる国、4国の姫君たちだ。
それぞれデートもしてみたが、いまいちピンとこない。彼女たちの人となりも、あまりわからなかった。
しかも、気掛かりなことがひとつある。
「よし、決めたぞ」
サミュエル王子は、執事のエルを呼びつけ言った。
「今度の俺の誕生日に開催されるパーティーで、婚約者を選んで発表することにする」
「承知しました。では、ただの誕生日パーティーではなく、それ相応の規模のものにしましょう」
「ああ」
執事エルはすまし顔で、「ちなみにすでに心に決めた女性がいらっしゃるのですか?」と問う。
東に海を望み、漁業が盛んな国サンザウル、第一王女エマ。
山々に囲まれ、林業で生計を立てているユーラ国、第三王女ラヴィ。
肥沃で広大な土地を有する国キリシュ、一人娘のリアーナ王女。
そして、ここアルマと他の3国より少し離れた地に位置するシャイナ国、ライナ王女。
「ライナも一人娘だと聞いているが……」
同じく一人娘のリアーナより、とにかく控えめで全くと言って良いほど前に出てこない。
執事エルが思い出したように話す。
「先日のお茶会でも、ぽつんとお一人、離れた席にお座りになっておりました」
「ああ。そういえばそうだったな。あれは侍女が用意した席なのか?」
「まさか。そのようなことはございませんよ」
「では、姫君たちが意地悪で?」
「わたくしからは申し上げられません」
なるほど、とサミュエルは思った。
この婚約者争いが姫君たちの間で、熾烈を極めていることは、重々承知の上だ。
「俺の誕生日に持参する贈り物の中身で決めようと思う」
「承知しました。では」
執事エルは、そのまま執務室から出て行った。
もちろん、ここでエルと話した内容も直ぐにも姫君たちの耳に入ることだろう。
「その贈り物で俺のことをどれだけ想っているかが判断できるだろう。さて。どんな贈り物が集まるか、楽しみだな」
サミュエルは寝室に向かい、そして着替えたのちに眠りについた。
*
「兄上がそのようなことを?」
書きかけの書類から目を離すと、目の前に立つ執事エルを見る。
ことの次第を聞いた第二王子サイラスは、うーんと唸った。
「……人となりは贈り物などでは到底計れないと思うのだがな」
「ですが今回のお妃候補、我が国のパートナーにはどの国も遜色ありません。それもあってなかなか決められないのでしょう」
「そうだな」
「今回ご招待した姫君の中に、サイラス様の将来のお妃候補もいらっしゃるわけですから、婚約お披露目パーティーにもぜひ」
「俺には兄上の残り物があてがわれるってわけだな」
「そうは言ってませんが」
「ははは。わかっている。姫君を見定めるためにも、俺も堂々と参加しよう」
皮肉混じりに笑うと、サイラスは再度、書類に目を落とした。
*
「贈り物の中身で婚約者を決めると仰ったと聞いておりますが、それっていったいどういうことなのでしょうか!」
サンザウル国第一王女エマが金切り声を上げた。
中庭に集まる姫君たちのためにセットされた、アフターヌーンティー。
香り高い紅茶に加えて、3段トレーに乗せられた可愛らしいプティフルールやスコーン。いつもの通り、たわいもないお喋りに花を咲かせるかと思いきや、今回は違った。
「わたくしもそのように聞きました。信じられない!」
ユーラ国ラヴィ王女。
そして、キリシュ国リアーナ王女も同じように興奮して言い放った。
「本来なら殿方より贈り物を頂戴すべきでございますのに。もちろんサミュエル様には、お誕生日の贈り物をしようとは思っていましたけど!」
「あら? リアーナ様はどのような贈り物をするおつもりですか?」
リアーナは、ふんと視線を逸らし、「それはまだ考えておりません。そういうエマ様は、すでにお決めになられているのですか?」
リアーナが問い返す。
「ま、まだですわ」
「殿下のお誕生日は1ヶ月後と迫っておりますが?」
ラヴィが口を挟む。
「ではラヴィ様はすでにお決めになっていると?」
「もちろんでございます。皆さまがこれは素晴らしいと思わず口にしてしまうようなお品を用意するつもりです」
「まあ! わたくしも負けませんことよ」
冷ややかな視線。
「ライナ王女はどうするおつもりでしょうか……」
この場にただ一人不在の王女の名前を出した。シャイナ国、ライナ王女はこのアフタヌーンティーには呼ばれていない。
「あの方の贈り物など、どうせ大したことのない物ですから、気にしなくて結構よ」
「そうそう。先日の馬術大会の日のドレス、覚えていらっしゃる? すごく地味でダサかったわね」
「大丈夫、あの壊滅的なセンスの持ち主の贈り物が選ばれることなど、決してありませんわ」
ふふふふと笑い声が響いた。
「そうだわ、今度の殿下のお誕生日パーティーでも、彼女の席を隠してしまいましょうよ」
「良いですわね。どうせ選ばれないのですから、赤っ恥をかかせてあげましょう!」
*
「サイラス様、このような場所に……どうされましたか?」
ライナ王女が鼻の頭に土をつけながら、振り返った。作業着に身を包み、花壇にしゃがみ込んでなにやら作業をしている姿を見つけると、サイラスは目を細めた。
「通りがかっただけだよ。ライナ姫、君こそ何をしているのだ?」
「『姫』はおやめくださいと何度言ったら……今、球根を掘り起こしているのです」
「もしかしたら、兄上のお誕生日に?」
「……はい。その予定でいます」
サイラスは微笑んだ。
「そうか。君は相変わらずだなあ」
ライナは立ち上がって、土のついた手袋を取った。
麦わらの帽子から、三つ編みされた赤茶色の髪が肩にかかっている。
「だからって、こんな土いじりの作業など、侍女にでもやらせればいいのに」
ライナは顔を傾けると、「どうして? 贈り物をするのは、わたくしですのに?」
サイラスは、ふ、と笑うと、「そりゃそうだ」と両手をあげて、降参のポーズをした。
「きっと、夢中になっていたんだね。ほら、ここ。鼻の頭に……」
そっと手を伸ばしたつもりだったのに、さっと後ろへと後ずさりされた。ライナは慌てて、自分の手の甲を鼻に押し付け、土を拭った。
サイラスは無言で、手を引っ込めた。
「申し訳ございません。みっともない姿をお見せしてしまいました」
「そんなことはない。それほど、兄上のことを……」
サイラスは視線をライナの足元へと落とし、そして続けた。
「兄上のことを想ってのことなのだ。その気持ちは尊いことだよ」
「ありがとうございます……」
ライナは笑顔を浮かべ、けれど次には眉を下げ、辛そうに笑った。
「ライナ、そのような顔をして、どうしたんだ?」
「お褒めの言葉、嬉しく思います。ですが、わたくしは、サミュエル様の婚約者に選ばれることはありません」
「なぜそのようなことを断言するのだ」
哀しそうな表情に、サイラスは胸が痛む思いがした。
だが、ライナはただただ苦く笑うだけだった。
サイラスは不安に思った。
(もしかして、今までに兄上にあげた贈り物が、兄上にどのような扱いをされているのか、知っているのでは……)
けれど、それならそれで……
「それではまた」
ライナの哀しそうな表情が気になりはしたが、サイラスはそこで後ろ髪を引かれながらも、踵を返した。
「……兄上、どうかライナを選ばれないでくれ」
小さな呟きを口の中で留めながら。
*
アルマ王国の第一王子、サミュエルの誕生日パーティーは盛大に開かれた。
お妃候補の王女たちは、それぞれ侍女に贈り物を持たせ、ずらりとその眼前に並んだ。
「サミュエル殿下、18歳のお誕生日、まことにおめでとうございます」
4人の王女が、声を揃えて、お祝いの口上を述べる。
サミュエルもまんざらではない顔をして、「うむ」と頷いた。
「それではまず、わたくしから殿下に贈り物を!」
サンザウル国、第一王女のエマからの贈り物。
侍女が恭しく、サミュエルの前に置いたものは、光り輝く『剣』と頑丈そうな『鎖帷子』だった。
「殿下が地方へと視察へ向かう際、この品で殿下の御身をお守りいただきとうございます」
「これは素晴らしい剣だ」
サミュエルは立ち上がって、剣を取った。すらりすらりと、二度振った。
エマが嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「俺の身を案じてくれたのだな。礼を言う」
サミュエルは席に戻り、足を組んで座った。
そして、次に。
妬ましそうに見ていたユーラ国、第三王女ラヴィが、表情を笑顔へと戻す。
侍女が置いたものは、大きな水晶の原石だった。
「こちらはまだこのように荒い石のものですが、このアルマ国の、卓越した研磨の技で美しい宝石へと変わるでしょう」
「確かに我が国の研磨技術は、世界一と言われるほどのもの。これほど大きな原石は、ついぞ見たことがない!」
「サミュエル殿下、わたくしの贈り物もご覧ください!」
遮るように声を上げたのは、キリシュ国一人娘のリアーナ王女。
差し出されたのは、大きな虎の皮で作ったマントだった。
「これはすごい」
体躯の大きなサミュエルが羽織っても、まだ有り余るほどの、豪奢なものだ。
「どうだ? 強そうに見えるか? ははは!」
そして、最後にシャイナ国、ライナ王女の番が回ってきた。
だが、すでにみな、ライナの贈り物は眼中にない。
それほど、みすぼらしいものであったのだ。
「殿下、お誕生日おめでとうございます。わたくしからは、その……いつもの物で申し訳ないのですが……」
おずおずとそう言って、侍女に目配せした。侍女が二人がかりで品を抱えて、前へと置く。
それは、鉢植えの鉢。
手で抱えるほどの大きな鉢に、土が入れてある。
「ラナンキュラスの球根です。春になれば、美しい花が咲きます」
ライナが控えめに説明すると、サミュエルはふいと後ろへ振り返り、席へと戻っていった。
「皆、ありがとう。貴女方の心からのお祝いに感謝申し上げる。俺は今日、18歳になった。貴女方の中から、婚約者を一人決めて、求婚したいと思っている」
ざわと俄かに会場が騒がしくなった。
「だが、発表は祝宴が終わってからにしよう。さあ、美味いものを食い、浴びるほど酒を飲もうではないか」
わああっと盛り上がり、祝宴は始まった。
*
(私の席が……ない)
以前にもこのようなことがあった。
きょろきょろと周りを見回すが、空いている席はなかった。
くすくすと、姫君たちの笑い声が聞こえる。祝宴が始まり、席へと戻ろうとして、こんな目にあっている。どこかに椅子を隠されたのだろう。
はあ、とため息をつく。どうしようもできず、その場でただただ立ち尽くした。
「これほどおめでたい殿下のお誕生日に、なにあれ? ただの鉢と土? あり得ませんわ」
「本当にそう。殿下をバカにするのもほどがあります」
「バカになんてしてません」
ライナは必死に否定したが、さらに王女たちは煽ってくる。
「咲いている花を持ってくるなら、百歩譲ってまだ理解できますわ。それが、ただの球根だなんて!」
「これから咲くのです。それはそれはとても綺麗なお花で……香りも美しいんです。それに今は咲いていませんが、育てていくうちに芽が出て、大きく成長し、綺麗なお花が咲いてと……とても楽しみではありませんか?」
「バッカみたい」
「ほーんと」
「恥知らずはそこでずっと立ってなさいよ!」
ライナは悲しくて仕方がなかった。
実はサミュエルの誕生日にはずっと、このように鉢に植えた球根を贈っていたのだ。
けれど。
(お礼を言われたことは……一度もない)
だから今日、婚約者にも選ばれることもない。わかっている。けれどそれで、いいと思った。引っ込み思案で、煌びやかな洋服や甘いお菓子などにも興味もなければ、センスもない。
ただただ、植物を愛して、花々が好きで、庭で時間を過ごすのが当たり前の自分は、このような大国の王子の妃などになれるはずもない。
(それに……私には……)
素晴らしい料理や美味しそうなお酒を前にして、ライナはその場でただ立ち尽くしていた。
*
いつもは通らない、裏庭に迷い込んでしまった。
13歳になったばかりの弟サイラスは、城の裏手にある勝手口から入るための近道を探そうとして、道を見失っていた。
「ああ! なんでこんな似たようなバラばかり植えるんだよもう!」
サイラスは怒りながらも、ふと、足を止めた。
バラ園と城の建物の間、ちょっとした空間に、視線が誘導されたのだ。そこに勝手口もあった。
鉢植えが三つ。花が咲いている。
近づいていくとそこには真紅の花、そして幾重にも重なる花びらの花、可愛らしい紫色の花があった。
美しかった。
「でもこんな場所にどうして?」
すると庭師が、勝手口から出てきたので、声を掛けた。
「あれは、シャイナ国のライナ王女が、サミュエル殿下のお誕生日のお祝いに贈った贈り物なのですが……」
言いにくそうにしていたものを、無理矢理吐き出させた。
「殿下が捨てろと仰られて……」
「兄上が?」
「はい。貰った時にはなにも咲いてないから、つまらないと思ったんでしょうかね。だけど、処分するのは可哀想すぎると思って、ここで育ててるんでさ。ここなら、殿下もライナ王女もお通りになられないから」
こんな美しいものを、お捨てになるとは。
気になって次の年の誕生日の機会に、サミュエルにつきっきりで行動し、ライナ王女を見つけることができた。
(また鉢植えを贈ったんだな)
最初はその行動が滑稽に思えた。どうせ、兄上に捨てられるのだ、と。
「兄上、これ俺が貰ってもよろしいか?」
「ああ。いいぞ。どのようにでも処分してくれ」
鉢を貰い受け、バルコニーで育ててみた。
春が近づくにつれ、緑色の芽が出、少しずつ伸びていく様に、釘付けになった。
成長すれば喜び、元気がなくなると心配し、ついには花が咲いて心が踊った。
「こんなに、癒されるものなんだな……」
それからというもの、ライナ王女が遊びにくるたびに、サイラスは王女に会いに行った。ライナはいつも庭にいて、色とりどりの花をまとっていた。
花を愛していた。慈しんでいた。
その頃にはもう、サイラスはライナ王女を愛してしまっていた。
*
「それでは、ただいまから、婚約者を発表する」
王女たちが、広間の真ん中に並ぶ。
ライナ王女は足を伸ばして、少し足首を回した。
(ずっと立ちっぱなしだったけど、途中でサイラスが気づいてくれて、椅子を持ってきてくれた)
優しい人。サイラス。
ライナは思い出していた。
あれは16歳のころだっただろうか。ライナはこの年、サミュエルの誕生日に初めて鉢植えを贈るのをやめた。受け取る時、あまり嬉しそうではないことに気づいたらからだ。
封筒と羽ペンのセットをサミュエルに贈ってから数日後、そろそろ自国へと帰るというとき、庭でサイラスが足早に通っていくのを見かけた。
さよならの旨、挨拶をしようと追いかけた先に、自分がサミュエルに贈った鉢植えが並んでいるのを見た。
そこでサイラスが庭師に畳み掛けるように話している姿を見つけてしまう。
「今年は鉢植えじゃなかったみたいなんですよ」
「それは本当だな? では今年、捨てられた鉢はないのだな?」
その会話で、真相を知った。
ライナはショックを受け、震える手と足で壁にしがみつきながらも、気丈にもその場を去らなかった。
庭師が去ったあと、サイラスが呟いた。
「……そっか。今年は、ライナからの贈り物は無し、か。寂しいものだな」
涙が溢れてきた。サミュエルに贈り物を捨てられていたことを知り、胸が苦しかった。けれど、それを凌駕するほどの、喜びがあった。
サイラスが与えてくれたその喜びを抱えたまま、ライナは帰国の途についた。
そして、ライナは次の年、さらなる誕生日を迎えたサミュエルに球根の植った鉢植えを贈った。
(サミュエル様には嫌がらせとしか思われないだろうけど……)
この鉢植えがサイラス様に届きますように、と。
「俺の婚約者は……」
だから、驚いてしまった。
え? と顔を上げる。
「シャイナ国のライナ王女」
サミュエルを見る。
「ライナ、君を愛してるよ」
どうして……
両手をきつく握りしめてみた。けれど、一向に口から『返事』は出てこなかった。
*
「なぜだ! 兄上!!」
頭に血がのぼり、心臓が早鐘のように打った。
サイラスの大声が飛ぶ。
その後に、王女たちの金切り声が上がって、大広間は騒然となった。
「どうしてこの女なのですかっ!」
「そうですよ、こんなみすぼらしい贈り物をした女がっ」
「信じられません、嘘ですよね……いやあぁぁ」
泣き声と怒鳴り声が上がる中、サイラスがもう一度立ち上がって声に出した。
「どうしてライナなんだっ! それに兄上は、彼女からの贈り物を、」
そこで口をつぐんだ。ライナ本人がそこにいる。兄サミュエルがライナからの贈り物を捨てていた、などと言い放って、ライナを傷つけたくなかった。
(くそっ)
サイラスは唇を噛んだ。
「俺が決めたことに文句を言うつもりか? まあいい。俺の誕生日に俺が欲しくもないこんな鉢植えを贈り続けてくる頭の足りない女だが、なんかの役には立つだろう」
サミュエルがライナの腕を取り引っ張った。そうされるまで、ライナは放心状態だった。
「さあ、俺の寝所へ行くぞ」
「お、お待ちください!」
抵抗するライナの顔を掴む。サミュエルは顔を近づけると、無理矢理口づけをしようとした。
「やめろっっ!!」
サイラスが踊り出て、サミュエルとライナの間に割り込んだ。そして、後ろ手にライナを隠す。
「ライナは兄上なんかに渡さない!!」
溢れた涙が頬を伝う。サイラスはそれを拭いもせず、兄を睨みつけた。
「ライナを不幸にする兄上なんかに……」
「弟の分際で、俺の妻を奪う気か」
「弟の立場なぞ、この場で捨ててやる。ライナを愛してる。俺が幸せにする。俺は絶対にライナを蔑ろになんかしない。兄上とは違う!!」
気がつくと、大広間はしんと静まり返っていた。
空気がひやりとした。
緊張の糸が張り詰めていた。
けれど、その緊張を破った者がいた。
サミュエルの執事エル。
「さあ、茶番はこの辺でお開きにしましょう。殿下、悪ノリし過ぎですよ」
「そうか。悪かった。やり過ぎたか?」
「どういうことだ、兄上っ!!」
「おまえが、いつまでもうじうじしているのがいけない。ライナから貰った鉢植えを大切にするばかりで、一向に告白しない。こっちが痺れを切らしてしまったじゃないか」
「兄上! 知っていたのか!」
「これくらいの荒治療でないと、愛の告白ができないとはな。弟よ、情け無いぞ」
「す、すまない兄上。俺は兄上のことを誤解して……」
「良いんだよ」
わはははとサミュエルはさもおかしそうに笑った。ひと通り笑い終えると、サミュエルは王女たちの前に開き直って言った。
「さあ。お姫様がた、あなた方は婚約者候補から外れたのだから、もうお帰りになった方がいい。すまないが、俺はもう少し相性が合う、そしてもう少し意地悪ではない女を探すことにする」
王女たちは顔を真っ赤にして、部屋へと戻っていった。その後、持参した贈り物を持って自国へと帰ったことは言うまでもない。
*
「ライナ、本当に俺でいいのだろうか?」
(このお方はいつもお優しい……)
ライナは笑った。
「サミュエル様にお送りした贈り物は、いつからかサイラス様に届きますようにと、神に祈っておりました。お花を美しく咲かせてくださって、ありがとうございます」
「ライナからの贈り物は、俺宛てだったのだな。今思えば、兄上の手のひらで踊らされた感もあるが、兄上には感謝しよう。これからも、俺の側にいてくれ。ライナ、愛してる」
「わたくしも」
ライナは春の花のように、頬を染め、こくんと頷いた。
fin