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迷子と少女、そして死体

 数時間前⋯⋯⋯⋯

凛音の事務所には、怒声が鳴り響いていた。


「おい、お前らいい加減にしろよ!」


銀髪の男、駿河春(するがしゅん)が仁王立ちで、正座をしている男女を見おろしていた。


「そんなに怒らないでよ〜」

 

「⋯⋯声がうるさい。」


凛音と金髪の女、音無冬希おとなしふゆきが言うが、全く反省しておらず春の額に青筋が浮かぶ。


「これはどういうことだ!見てみろ⋯⋯この汚部屋を!さっき掃除したばかりなのに!」


事務所内は脱ぎ散らかした衣類や、何に使うか分からない大量の電子機器、弁当やお菓子の空袋で埋もれ、とてもじゃないが依頼人を迎えられるような状態ではない。


「ふざけるなよ!掃除しても掃除しても綺麗になった場所からお前たちに汚されていく俺の気持ちを考えたことがあるか?!こんな部屋に客なんて来るわけない!ああ、こんなに働いてるのにまた安月給か⋯好きな物も買えない、でかい幼児の世話を2人もしなきゃいけない⋯俺はなんのためにここで働いてるんだ⋯?」


「やばい、春が闇落ちしてるよ」


「⋯⋯掃除して1時間で散らかすのはやりすぎ?散らかすのは楽しいのに」


「わかるー。綺麗なものを汚していくこの背徳感?たまらないよね」


「おいお前ら聞こえてるぞ!ふざけんな今度こそ家出してやる!」


「春がいないと俺達死んじゃうよ!見捨てないで!」


「⋯生活力皆無の私達を置いていくの?」


「くそっ、こいつら腹立つ!でもほっといたら間違いなく死ぬことが分かっているこいつらを置いていけない自分の甘さも腹立たしい!」


ぶつぶつと愚痴を呟く春の哀愁漂う後ろ姿にさすがに罪悪感が湧き、2人が掃除を始めたその時、来客のチャイムが鳴った。3人は思わず目を合わせ、部屋を見回す。どこを見てもゴミ、ゴミ、ゴミの山。


「やば⋯⋯、しょ、少々お待ち下さぁーい!!」


凛音は叫び、3人は急いで部屋を片付けだした。














「夫が帰ってこないんです。」


どうにか片付けを終え迎えた依頼人は、とても疲れた様子の女性だった。


「帰ってこないとは、どのくらいでしょうか?」


凛音は女性に質問した。春はお茶の準備をし、冬希は部屋の隅で大人しく話を聞いている。


「もう2日になります。その日は結婚記念日だったので、夫は早く帰ってくると言っていたんです。なのに数時間どころか、2日も帰ってこなくて。最初はただ仕事が長引いたのかと思っていたんですが、あまりにも遅すぎるし、なにも連絡がつかなくてどんどん不安になってきて⋯⋯なにか事件にでも巻き込まれたんでしょうか!夫は、あの人は無事なんでしょうか!?」


「お、落ち着いてください。現時点ではなんとも言えません。まずは、ご主人の職場とご自宅を教えてもらえますか?」


「⋯わかりました。」
















話を聞き終えた凛音は女性を帰した後、春と調査に向かった。


「いいか、絶対に部屋を散らかすなよ?ゴミはゴミ箱に、出した物はあった場所に、これをしっかり守れ!」


「はーいママ。さっさと行ってきなよ」


「留守番頼むぞー冬希。」


「ま、ママ!?」


そうして向かった彼の職場で話を聞くと、彼の同僚、上司、後輩、全員口を揃えて彼は定時に帰ったと言った。


「やっぱり事故か事件にでも巻き込まれたのかな⋯」


「わざわざ早く帰ってくると言っていたなら、自分の意志で姿を消したとは考えにくいしな。っておい、ちゃんと前向いて歩け。ぶつかるぞ。」


「え、ああ。電柱にぶつかるところだった。ありがとな、ママ。じゃなかった、春」


「おいお前ふざけんなよ⋯」


しかし、考え事をしながら歩いていたせいで、商店街に入ったところで凛音は春とはぐれてしまった。


「⋯⋯あれ、春?」


カラスの鳴き声で凛音は顔を上げる。周囲は全く見覚えのない街並み。夕日に照らされていて無駄に美しい。慌ててスマホを見るが、充電切れで電源が付かない。


「完全に迷子だ、どうしよう⋯⋯」


まさか25歳にもなって迷子になるとは思わなかった。途方に暮れていたとき、1人の少女が向こうから歩いてくるのが見えた。 


「ちょうどよかった。すいません、ここってどこなのかわかりますか?⋯」


道を聞くために声をかけた瞬間、凛音は息を呑んだ。


おそろしいほど整った顔立ちの少女だった。猫のようなパッチリとした吊り目、吸い込まれるような真っ黒な瞳、腰まである長い黒髪。人形のように美しいのに髪も服も黒いせいで、どこか不気味に感じた。


「⋯私もこのあたりに詳しくないけど、この通りを真っ直ぐ進めば商店街に出たはず」


「あ、ああ。ありがとうございます⋯」


少女はじっと凛音を見た後、去っていった。

(すごく綺麗な子だったな⋯綺麗すぎて怖いくらいだ。)

そこでふと凛音は疑問に思った。


「なんであの子はあんな細い路地裏から出てきたんだろう?」


少女が出てきたのは、大きな工場の間にある細い路地裏だった。しかもその先は行き止まりのように見える。なんとなく気になり進んでみると、意外と暗くなり少し焦る。路地裏に入ったことを後悔し始めたとき、凛音はなにかに躓いた。


「なんだこれ?暗くてよく見えないな」


「おい、そこにいるのは⋯凛音か?」


「うわ!」


振り返ると、そこにいたのは春だった。


「春!良かったー!はぐれちゃったしスマホの充電は切れてるし、どうしようかと思ったんだよ。」


「焦ったのはこっちだよ。いい年した大人が迷子になるなんて⋯公衆電話でも使えばよかっただろ。というかこんな場所で何をしてたんだ?」


「電話番号なんていちいち覚えてないよ⋯あ、そうだ忘れてた。ここになにかあるんだけど暗くてよく見えないんだよね」


「どれどれ、⋯⋯ってうわっ!」


「え⋯⋯⋯」


春がスマホのライトで照らすと、そこにあったのは死体だった。しかもよく見ると、依頼人から貰った写真の夫の顔によく似ている。彼の首は、鋭利な刃物のような凶器で切り裂かれていた。


「まじかよ、死んでんじゃねえか⋯おい凛音、どうした?さっさと警察に通報するぞ」


「うん⋯⋯⋯」


凛音が考えていたのはさっき出会った少女のことだった。彼女はこの路地裏から出てきた。どう見ても誰かに殺された死体があるこの場所から。

(でもあんなに細い女の子が大人の男を殺せるのか⋯?)

考えがまとまらない。凛音は春に連れられて、警察に通報した後事務所に帰っていった。 





「⋯行ったね。怪しまれたかな?」


『俺だったら怪しむよ。殺人現場から出てきた人が怪しくない訳無いと思う。』


「あーあ。こんなところ誰も通らないと思ってたのに。」


『最近は調子良かったから油断してたね。しばらくは表に出ないほうが良さそう。』


「やっぱり?まあいいや。2人でゆっくりしようよ。」


『喜んで。ところで、今日の夕食は炒飯でいい?』


「ちょうどそんな気分だった!さっすが双子、分かってるねー。」


『ふふ、それはどうも。』


テンポの良い会話をしながら、少女は1()()()帰っていった。


火澄凛音(ひすみりおん)  25歳

茶髪のマッシュ。天然かもしれない。火のカミと契約している。銃が得意。一応主人公枠。他のキャラが濃いので、かすまないように存在感を増していく予定。


駿河春(するがしゅん)   25歳

短い銀髪。みんなのオカン。風のカミと契約している。剣が得意。主人公の幼馴染で同僚。背も高くモテるはずなのに2人の面倒を見ているせいで苦労が絶えない。


音無冬希(おとなしふゆき) 23歳

淡い金髪のボブ。人が苦手だけど凛音と春は大丈夫。金のカミと契約している。凛音と春の幼馴染で同僚。機械に強く、記憶力がとてもいい。ゲーム大好き。

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― 新着の感想 ―
登場人物の設定、めっちゃ好き。私も書いてみようかな
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