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ep.7 試練

「一緒に来い。」


翔はザラゴスに言われるまま、森の中にある小さな広場へと向かった。


その場所は静かで、自然の音がただただ響くのみだった。

周囲には魔族の拠点から見えるような建物や防壁はなく、むしろ何もない空間の中に立たされているような気がした。


ザラゴスはその場に立ち、翔の方を振り返った。


「お前に必要なのは、まず自分を知ることだ。」

ザラゴスの声には、普段と変わらぬ冷徹さが感じられたが、そこには少しだけの真剣さも含まれていた。


翔は黙ってその言葉を受け入れると、心の中で自分に誓った。

これから何をすべきかは分からないが、まずは試練を乗り越えることが重要だ。


「まずは、心を整えろ。」

ザラゴスが言うと、手に持っていた杖を軽く地面に打ち付けた。


その瞬間、周囲の空気がひときわ冷たくなり、翔は思わず体を震わせた。

「お前が試練に挑むためには、まず自分の中の恐怖を克服しなければならない。恐れはお前を束縛し、成長を妨げる。」


ザラゴスは冷静に言い放ち、無言で何かを待っているようだった。


翔は息を呑み、心を落ち着けるように深呼吸した。

今までの恐怖や不安が、まるでどこか遠くに感じられるようになった気がした。


それは、自分がこれから乗り越えるべき壁に立ち向かう準備ができた証だった。


「よし!もう大丈夫。」

翔は自分の声をしっかりと聞き届けるように言った。


「それでこそ、試す価値がある。」

ザラゴスは無表情でうなずいた。


試練の開始を告げる言葉とともに、ザラゴスの杖から闇のエネルギーが放たれ、その場に不穏な気配が広がった。


翔はその気配に圧倒されそうになりながらも、じっとその動きを見守った。


「目の前に現れるもの、それが試練だ。お前の心に浮かぶ恐怖、過去の記憶、何でもいい。お前が最も恐れていたものが形を変えて現れる。」


ザラゴスは冷静に説明を続けた。


その言葉を聞いた瞬間、翔は胸の奥に眠っていた恐怖が呼び覚まされるような気がした。


その瞬間、視界が一変した。

周囲の景色が歪み、何もない空間に立つ自分の前に、黒い影が現れた。


それはただの影ではなく、人の形をした存在だった。

その顔は翔に見覚えがあった。それもそのはず、それは転生した王国で見た顔ばかりだったからだ。


だが、その目は空虚で、無表情に翔を見つめていた。


「お前は偽物だ。」その影が低い声で言った。


翔はその言葉に愕然とした。偽物…確かに、俺には勇者の適性がなかった。

王国を追放されることになったとき、何もできないまま逃げることしかできなかった。


胸の中に、かつての自分を責める気持ちが湧き上がってきた。

だが、翔はその思いに押し潰されることなく、心を強く保とうとした。


「確かに俺は…逃げた。けど、今は生きるために、ここにいる。」

その意識はやがて強い光を放った。


その瞬間、影の姿が一瞬揺らぎ、次第に消え去った。

翔は心の中で強く自分に言い聞かせた。恐怖や過去に縛られず、今の自分ができることを見つける。


それが試練を乗り越えるための鍵であると自然と理解していた。

「お前は本当の意味で恐怖を乗り越えた。」


ザラゴスの声が、静かな空間に響いた。

「しかし、次は更なる覚悟を持って進むことだ。」


翔はしばらく息を整え、次の試練に備えて立ち上がった。

少しだけ自分が進むべき道が見えたような気がした。


同時に恐れに支配されることなく、どんな困難にも立ち向かう覚悟を決めた。

試練を乗り越えた後、翔はしばらくの間、ザラゴスの指導を受け続けることになった。


最初の試練を経て、彼の心にはわずかながらも変化が見られた。


恐れに立ち向かうことで、自分がどれだけ弱かったのかを痛感し、その上でどのように強くなるべきかを模索していた。


ザラゴスは日々、翔にさまざまな技術を教え、そしてその過程で彼の過去や魔族の世界についても少しずつ明かしていった。


翔は次第に、ザラゴスがただの冷徹な存在ではないことに気づき始めた。

彼には深い理想があり、翔にその理想を伝えることが、彼の使命であるかのように感じられた。


ある日のこと。翔はザラゴスに頼まれ、森の中にある遺跡を調べに行くことになった。

遺跡には魔族の過去に関わる重要な情報が眠っていると言われており、翔の成長を試すために連れて行かれたのだった。


「これが次の試練だ。」

ザラゴスはそう言い、翔に鍵のかかった古びた扉を開けさせた。


その先には、崩れた壁に囲まれた暗い部屋が広がっていた。

翔は少し不安そうに歩み寄り、部屋の奥を見つめた。


そこには一冊の古文書が置かれており、ザラゴスがそれを取り上げた。

彼がその文書を開くと、奇妙な文字が並んでいた。


それは翔にとっては全く理解できないものであり、ザラゴスが何かを呟くように読んでいるのを見て、翔は次第に不安と好奇心が入り混じるような気持ちになった。


「お前も知りたくないか?」

ザラゴスは翔を見つめた。

その目には冷徹さと共に、どこか期待のようなものが込められているようだった。


翔は一瞬迷ったが、彼が無言でうなずいた。

ザラゴスは文書を手に取り、そこに記されている言葉を続けて読み上げた。


「これは…魔族の王の血脈についての記録だ。お前のような人間には理解できないだろうが、この血筋には強大な力が眠っている。」


ザラゴスは言葉を止め、翔の方を見た。


「実は…お前にもその力が宿っているかもしれない。」

翔はその言葉に驚愕した。自分にそんな力があるとは考えたこともなかった。


しかし、ザラゴスの表情は決して冗談を言っているものではなく、翔はそれを感じ取った。


「お前が王国から追放された日、俺は森の中でお前の微力な魔力を察知した。あの日から俺はお前をここに連れてくるつもりだった。」


ザラゴスの声は低く、だが自信に満ちていた。

翔はその言葉を胸に刻み、改めて自分の存在と向き合わせることになった。


彼が魔族にとってどれほどの意味を持つのか、そして自分の未来に何が待ち受けているのか、まだ明確に見えてこないが、ひとつだけ確かなことがあった。


それは、自分が決してこのままの自分で終わるわけではないということだ。

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