ep.6 決意
翔はザラゴスに助けられたことで、少しだけ安心したが、その安心感もつかの間、心の中には新たな疑問が湧き上がった。
ザラゴスが本当に自分を助けるために動いているのか、それとも何か裏があるのではないか。
翔はその問いを抱えたまま、再びザラゴスの拠点へと戻った。
ザラゴスは、廃墟での一件後、翔を優しく迎え入れてくれたように見えた。
だがその言葉や表情の裏に隠された冷徹さが、翔を完全に安心させることはなかった。
「よくやった。」ザラゴスは言い、翔が持ち帰った物資を確認しながら頷いた。
「これでしばらくは足りるだろう。」
翔は無言でその様子を見守った。言葉を返す気力も湧かず、ただその場に立ち尽くしていた。
ザラゴスは翔を見て、少しだけ優しげな表情を浮かべた。
「お前、あのとき怖かっただろう。」彼は翔の顔をじっと見つめながら言った。
翔は一瞬、驚きとともにその言葉を受け取った。
恐怖を感じたのは事実だったが、それを口に出すことはできなかった。
しかし、ザラゴスは翔の気持ちを見透かしたように続けた。
「だが、お前はこの先、もっと大きな壁も乗り越えなければならない。」
ザラゴスの声には、強い意志がこもっていた。
その言葉に、翔は心の中で何かが動いた気がした。
それは、ただ生き残るためだけでなく、何かもっと大きな意味があると感じたからだ。
その夜、翔は拠点の外に出ることにした。これまでの自分を振り返り、これからの道を見据えるために。
廃墟の街の近くの森の中に、静かな小川が流れている場所があった。
翔はその場所に腰を下ろし、星空を見上げながら、何も言わずにただ時間が過ぎるのを待っていた。
その時、ふと頭に浮かんだのは、転生前のことだった。家族、友人、仲間…自分が何を失い、何を得て、今ここにいるのか。
「俺は一体、何をすべきなのか…」
翔は呟いた。その声は空気の中に消えていくように、静かに響いた。
その時、突然、目の前に何かが現れた。それは、翔が今まで見たことのない、奇妙な生物だった。
体は細長く、長い触手のようなものがいくつも伸び、背中には黒い羽が生えていた。
だが、その生物は翔に対して攻撃的な態度を取ることなく、じっとこちらを見つめていた。
翔はその存在に驚きつつも、どこか興味深く感じた。
その生物が何を求めているのか、翔にはわからなかったが、直感的に、彼に何か伝えようとしているように思えた。
「お前、何か伝えたいのか?」
翔がつぶやくと、その生物は少しだけ体を動かし、さらに近づいてきた。
そして、翔の目の前で、何かを語りかけるように小さな声を発した。
それは人間の言葉ではなかったが、翔の心に何かを伝えるように響いた。
その瞬間、翔は何か大切なことを感じ取った。
自分がこれから進むべき道は、ただ生き延びることだけではない。
自分には、何か他の目的が待っているのだと感じた。そう、もっと大きな何かが。
「わかった…」翔は静かに答え、立ち上がった。
「自分の道を見つけるために、もう少しだけ歩んでみる。」
生物はゆっくりとその場から離れ、翔はその後ろ姿を見送った。
彼が感じたことは、まだ明確には言葉にできなかったが、確かに心の中に新たな火が灯ったような気がした。
自分がどこへ向かうべきか、何を成し遂げるべきか、その答えが見えたわけではない。
だが、少なくともこれから先に進む勇気が湧いてきたのは確かだった。
次の日、翔はザラゴスのもとに向かった。
「ザラゴス。」
翔は呼びかけると、ザラゴスがゆっくりとこちらを向いた。
「どうした?」
ザラゴスは冷ややかに問いかけたが、その目の奥に何かしらの興味が感じられた。
「俺は、これからどうすればいいのか、まだわからない。でも、少しだけでも自分の力を試してみたい。」
翔の言葉には、決意が込められていた。
ザラゴスはしばらく黙って翔を見つめ、そして少しだけ頷いた。
「それなら、俺が試練を与えてやる。」
翔は驚いたが、同時に心の中で少しだけ胸が高鳴った。
試練。それは、自分がこれから進むべき道を見つけるための第一歩となるはずだった。