ep.2 召喚の儀式
「ここは一体…?」
思わず声に出してみたものの、答えは返ってこない。
周囲の喧騒の中で、翔は自分がどこにいるのか、何が起こっているのか、全く見当もつかなかった。
目を凝らしてみると、遠くの広場の中心で何かの儀式が行われているのが見えた。
そこで集まっているのは、貴族のような衣装を着た人々や、威厳を感じさせる神々しい人物たちだった。
その中に、何か重要な儀式が行われているのだと直感的に感じ取ることができた。
翔は好奇心と恐怖が入り混じる気持ちを抱えながら、ゆっくりとその儀式の方へと足を運んだ。
彼の足音は広場の静寂に反響し、まるで世界の中心にいるような気分になった。
儀式が進行する場所へ近づくにつれて、翔はその空気に圧倒され、何もかもが非現実的に感じた。
足元を見れば、細かい魔法陣の模様が床に刻まれ、空気そのものが妙にひんやりと重たく感じる。
翔はさらに一歩踏み出すと、周囲の人々が彼を見つめ、視線が集中しているのを感じた。
そして、目の前に一人の威厳ある男性が現れる。彼は重厚なローブを身にまとい、王冠をかぶった王のような存在だった。
その人物が、翔をじっと見つめると、静かながらも力強い声が響いた。
「勇者よ、我々の世界に召喚されたか?」
翔はその言葉に反応し、唇を震わせながら思わず言葉を探す。
しかし、その言葉が何を意味しているのか分からない。
自分が「勇者」として召喚された? それは一体どういうことだろうか。
現実感が薄れていく中で、彼はその場に立ち尽くし、動けなくなった。
周囲に集まった人々の視線が一層強くなり、重い空気が漂う。
翔はその中で、自分が何をしなければならないのか全く分からず、ただ立ち尽くすしかなかった。
周りの目が彼に集中し、時間が止まったかのように感じられる。
「お前が勇者なのか?」
再び、王が問いかける。しかし、その問いには答える術もない。
翔はただ立ち尽くすことしかできない。目の前にいる王は、何かを待っているような目で翔を見つめているが、翔はその期待にどう応えればよいのか、全く分からなかった。
王は息を呑んだ後、重々しい声で語り始めた。
「お前が選ばれし者としてこの地に召喚されたのだ。異世界を救う力を持つ者として、我々の世界の危機に立ち向かうために。」
その言葉が翔の心に重く響くが、どこか実感が伴わない。
勇者? 自分がそんな人物だとは信じられなかった。
その瞬間、周囲の空気が一変し、儀式が進行し始めた。
王族と神々が立ち上がり、魔法陣の中央に翔を導くように手を差し出した。
翔はその手に導かれるように歩み寄り、魔法陣の中心に立った。
足元に広がる光の模様が、彼の身体を包み込んだ。
何かが始まるという予感があったが、翔はその正体を理解することなく、ただその場に立っている。
「勇者よ、この魔法陣に踏み入れ、力を解放せよ。」
その言葉に従い、翔は思わず足を踏み入れる。魔法陣が発動し、鮮烈な光が彼を包み込む。
だが、翔の体には何の変化も感じられない。
周囲の神々の目が鋭くなる中、彼はただ静寂に包まれる。
時間が止まったかのように感じる一瞬、翔の心はさらに混乱していった。
周囲の人々の視線が鋭くなり、王の顔にも一瞬の動揺が走った。
儀式が続く中、翔は何も感じない自分にますます無力感を覚え、心の中で「自分には何もない」という現実が強く突き刺さった。
「これは一体…?」
王が呟いたその言葉が、翔の心に突き刺さる。
翔は自分が何もできないこと、何も変わらないことに焦りと絶望を感じた。
しかし、周囲の期待の眼差しは変わらず、彼を見守っていた。
その後、儀式は続くものの、何も起こらないまま進行していった。
翔の「勇者」としての力は、いっこうに目覚めなかった。
そして、儀式の終息と共に、王族や神々の顔には失望が浮かび、冷たい視線が翔を包んだ。
翔はその視線を感じると、さらに自分が無力であることを痛感した。
「お前が選ばれし者であるというのは、どうやら誤りだったようだ…」
王の言葉は、翔の心に深く刺さった。
翔はその場から一歩も動けず、ただ空虚な気持ちに包まれて立ち尽くしていた。
その後、儀式は何事もなかったかのように終了し、翔は自分がどこに立たされているのかを理解し始める。
彼の心には、自己嫌悪と無力感が深く刻まれていた。
自分が異世界に召喚された理由、そしてその力を目覚めさせることができなかったことに対して、彼は答えを見つけることができなかった。