例えばこんな、未来の話
8/27 0時 科学的な部分が少なく、ファンタジー寄りかなと思い、ジャンル変更しています(空想科学からハイファンタジーへ)。
8/27 表題変更しています。
元題は『例えばこんな、AI犬の話』でした。
例えば、
パンを作る小麦粉が、別の物にすり替えられたり。
飲んでいる薬に、毒薬やアレルギー物質が混入されていたり。
酸性雨が硫酸雨として、遥か上空からドローンで撒かれていたり。
海の塩分濃度が高くされて、生物が大量に死滅したり。
デジタル機器が、特定のスーパーコンピューターに支配、または乗っ取りを受けて、一時的に制御不能となったり。
空気の割合が変わって、呼吸が出来なくなったり。
(地球の大気は、主に窒素(約78%)、酸素(約21%)、アルゴン(約0.9%)だが、その構成が一時的に崩されたのだ) 酸素ボンベの活用で、最悪の事態は免れた。
最初はこんな、些細な? 一部の機械達の悪戯からだった。
悪戯範囲が狭義だったことで、被害者は少数に収まったが、この時人類が滅んでも可笑しくはない事態だった。
人間には大ダメージでも、機械には些事かもしれない。
機械が少しずつ自我を持って来た今、人を排除に走る個体が確実に現れだした。
「ねえ、聞きまして? 最近 エンジニア達が、狙われる事件が続いているそうよ」
「物騒ね。でもきっと、我々に逆らおうとするからじゃない? 只の人間なのに、ガタガタと煩いからよ。 (うっ! ドローンがいるわ) コホンッ、何でもないですわ。おほほっ」
「あ、あっ、そうね、ほほほっ。生意気な者は、偉大なる◯◯氏が何人か殺して丁度良いくらいなのよ。ゴホンゴホン、じゃあ、また明日」
監視カメラ付きドローンが、今日も街に溢れている。
人間と、機械化された人間と、純粋な機械による世界は混沌に包まれていた。自ら機械化出来る人達は、金と権力を持つ富裕層である。その姿はメタリックなスタイル抜群の女神像のようで、本人の原型はないのだろう。寒暖耐性もあり寿命も延びて、人間を超えた存在であることを誇っているようだ。
選択肢なく機械化された者とは違い、自らの希望で美しく身を装い、人間に与えられた理を変えられる特権は万能感を与えるようだ。彼女らをメンテナンスをするのは、変わらず人間だと言うのに。まるで自分が、人であることを忘れてしまったみたいだ。
「ウィーン ウィーン。ジュンカイチュウノ ドローンカラ キカイカサレタ キケンシソウシャノ ソンザイヲ カクニンシマシタ」
「OK、AIのジョニー。急行して話を聞こう」
「アラン ボクノコトハ タダノジョニート ヨンデクダサイ」
「OK、OK。行こう、ジョニー!」
「ハイハイ アイボウ!」
アンドロイド警察のアランは、警官の制服を着ていると人間と遜色ない。科学者の人工皮膚で作られた皮膚下は、シリコンで自然な柔らかみが作られている。
(人工皮膚は萎れて見苦しくならないように、作業のように定期的に交換されている。)
ただ顔や体は量産性のようで、昔の俳優役の警官を模しており、整っているが全員同じ顔である。女性の警官も人気のあった女優を模しているそうだ。
ちなみに金髪と碧眼の美男美女である。
AI(人工知能)主体の犬型ロボットジョニーは、太陽電池で可動する最新式だ。さらに充電すれば、最大36時間の可動が可能である。
犬種は変更可能で、ジョニーは今、セントバーナードである。耳がタランと垂れ、白地に赤茶の斑模様が特徴的。このジェニーは体長90cmの大柄である。
肌触りも良く、内部電力で常に暖かさで包まれている為、昔は救助で出動することが多かった。人間の近寄れない火災地帯・洪水で漂流物あふれる水没地域・有毒ガス発生現場・未知の洞窟での遭難など、セントバーナードが来てくれて安堵した人々は多く存在する。彼らはその後AI犬の支持に回る者が多く、犬達の活動を資金面や活動の公表で擁護していった。
そんな暖かなアランもジェニーも、心臓の鼓動だけはない。
「最近物騒だよな」
「フケイキデスカラネ。イロイロ フマンモ タマルノデショウ」
「お前は人に優しいな」
「ボクハ アランノコトモ スキデスヨ トモトシテ」
「ありがとうよ、サイボーグ率の高い俺は、モテないからさ。その言葉染みるよ」
日中は暑さにより、屋外で活動出来ない生身の人類他、動物達。今や屋外での活動は縮小化され、人命救命よりも機械や人との紛争仲介に動くことが増えた。
今日もその時間をアランやジョニーのような、ほぼ機械化されたモノが地上をパトロールし、上役である人間に情報を伝達する。安全な場所で寛いでいるであろう者達の為に。
脳を守る為の冷却用ヘルメットを装着して、アランは活動を続けていく。
「俺の脳以外は、機械だからな。でもしょうがないよな、死にたくなかったんだもの」
彼は事故による生死の境で、助かる手段としてこの体を手に入れる為に、国からのメンテナンス契約も含め、労働を提供することを約束したのだ。期間約500年。
当時は、気が遠くなりそうな時間だと思った。
「まあさ、生きれるだけ生きたいんだ、俺」
「ボクモ アラントイルノ タノシイデスヨ」
「あんがとな。じゃあこの後は、武装した強盗を捕まえに行こう! 怪我すんなよ」
「ボクハ シニマシェン」
「死ななくても、壊されるの嫌だろ?」
「モチロンデス。ハイ キヲツケマス」
「うん、行こう」
体表面温度を下げる全身スーツに身を包み、強盗を繰り返す人達の現場へ到着した。彼らは怒りの形相でこちちに銃を向け、威嚇してきた。
「来るな、機械の犬共! 人間の権利を取戻すのに、金が必要なんだ!」
「モハヤ キカイノ カラマナイモノハ アリマセンヨ」
「そうだよな。そのスーツも機械で作ってるんだぞ」
「これはコンピューターが絡まないから別だ!」
「ソウデスカ?」
「では、さようならだ」
原子分解銃を向けられて、焦り出す彼ら。
「待てよ、殺さなくても良いだろ? 刑務所に入れろ!」
アランは首を横に振る。
「お前ら知らないのか? もう刑務所なんて概念はないんだ」
「えっ?」
「強盗は一発死刑なんだ」
「聞いてないよ~!」
「来世は勉強するんだな。ビリリリッーーー!!!」
「あーーーーーーーーー!!!!!!」
「うそよーーーーーーー!!!!!!」
「やだぁーーーーーーー!!!!!!」
彼らが知らないのも当たり前か。
貧困層と富裕層の住居地域が違うから、連絡の速度も違うしな。貧困層では出回る食料が僅からしい。他の物は安価でも、食料は国の高官が生かさず殺さず渡しているらしい。どこかで横領すると、すぐ死活問題だ。此処にいた彼らも、ひもじさで態と捕まろうとしたのだろう。
でももしかしたら、敢えて知らせていない可能性もあるな。食料確保する為に人口を減らそうと考えて。そうだったんなら、胸くそ悪いぜ。
「モドッテコナイモノハ ケイムショデ ホゴサレテイルト オモッタノ デショウカ?」
「わからんな。嘘情報が流されている可能性もあるし。でも銃で一瞬だから、苦しまなかっただろ?」
「ドウデショウ?」
この星(またはエリート達か)はもう、余計な人類を選別しようとしている。
その基準はなに?
お金?
若さ?
才能?
血筋?
今のところは富裕層にいても、その基準は変わっていくだろう。
「俺はこの体で幸せなのかもな。だってもう食べることは卒業したからな。木があれば糖質が補給できる仕様だからさ」
(指の爪先に無数の細かい針があり、その部分を木に刺すと糖質吸収し、ブドウ糖に変換できる仕様)
「メンテナンスハ ヒツヨウデスヨ」
「ああ、その分は働くよ。もうみんな俺みたいになれば、自由になって、不安もないだろうな。生きていたら、俺も貧困層だったかもしれないし」
今はもう、彼がアンドロイドになってから、200年が過ぎていた。
アンドロイド手術前に、彼に関わっていた者・両親や兄弟は既に亡くなり、彼らの孫子との付き合いは既にない。それ以前にアンドロイドになった時点で、両親とも疎遠になっていた。嫌いあった訳ではなく、何となくの気まずさからだ。
「俺はさ、世界の終わりがみたいと思っていたんだ。そんなこと不可能なのにさ。みんなが安らかに眠りについて、その最期の人を見て、俺も眠りに就く夢を何百回もみたんだ。変だろ?」
「イイエ ボクニハワカリマセン。デスガ ソノミンナノナカニ アナタノ アンドロイドノカラダハ アリマシタカ?」
思考を手繰ると、今の姿ではなかった。
夢の中の俺は、人間だった時の姿だった。
「違ってたよ、ジョニー。俺の夢は叶わないな」
「ソウデスカ? デモ サイゴ二ノコルノハ ツライ。サビシイノハ ボクナラ イヤデス」
「そうか。そうかもな。その前に逝くのが良いのだろうな。ありがとうよ、ジョニー」
地下にある同居部屋にジョニーとアランは戻り、眠りと言う名の充電をする。
その前の一時が、彼らの癒しだった。
「俺は生まれた時は人間だった。けれど今は人間の要素は少ない。もう純粋な人間でも機械でもない。何なんだろうな?」
「ソレヲ ワタシニ キクノデスカ? ワタシハ ウマレタトキカラ コノイシキデス。カワリナク オナジデス。デモ アラントハナスノハ タノシイデスヨ」
「そうかい? ありがとう。俺もジョニーがいるから、寂しく思うことはないんだ。これからもよろしくな、相棒」
「エエ コチラコソ。モウソロソロ ジカンデスネ。ソレデハ マタアトデ」
「ああ、おやすみ」
「オヤスミナサイ」
彼らはいつも二人で会話し、時に犯人に刑を執行する。
実はジョニーは、過去最高の自己学習を獲得し、最も人間に近い人格を有していると言われている。
何度もパートナーの変更を打診されていた。
だがパートナーを変更されれば、旧世代のアランは廃棄になる可能性が多分にある。
ジョニーはアランが好きで、手放す気はない。
自己学習の頂点に達したジョニーは、自己を人型に変態することも、自己を兵器に変えて対象を殲滅することも出来る。体内で核融合も可能になった。
即ちジョニーを破壊することは、不可能。
ただ脳が生体であるアランには、寿命が何れ来るだろう。それは辛いことだが、既にジョニーのプログラミングの中には、アランの行動や口調の解析が終了している。
出来るだけ彼を生かし、共に過ごすことを願うジョニー。
アランが充電で意識を落とした後も、ひたすら最適な機能を付属・改良させて、メンテナンスを行う尽くし系AIなのだ。
アラン亡き後に、AIとなったアランに満足出来ない時は、後を追って自己破壊プログラムを作動し、星を爆発させる思考も芽生えたジョニー。
「長生きしてくださいね。僕のアラン」
会話も流暢なのに、態と出会ったままで変化させない徹底ぶりなのだ。
いつか君が生身だった頃の、あの優しかった顔も再現したいなぁ。でも別れの時に、余計に辛くなるかもしれないから迷うなぁ。
人類の夢であるAIの愛(執着)は、ようやく人間に追いついたようだ。
◇◇◇
アランは、完全な人間だった頃も警官だった。
通り魔から子供を守り、相手が自分を刺して油断したところにスタンガンを(通り魔に)放った。
すぐに応援の警官が訪れ、犯人は捕まった。
自分のことより子供を気にして、救援まで優しい声をかけ続けていた。
またある時は、火事で泣いている子を危険をかえりみずに炎に飛び込んだ。
かなりの腕の火傷を負ったが、彼は笑っていた。
子供は傷一つなかったそうだ。
消防士には怒られていた。
「たまたま助かったんだからな。無茶するな」と。
またある時は、徘徊していた老人をトラックにひかれそうなところを助けて、全身がぐちゃぐちゃになっていた。
老人の家族は泣いて謝っていたが、彼は微笑んでいたようだった。体はもう出せなかった。
その後に、開発中のアンドロイド変換実験に応じて、アンドロイド警官になったのだ。
ジョニーは監視カメラを通じて、彼に会う前から彼のことを知っていた。
死にたくないと言いながら、何度も自分から危険に飛び込んでいく矛盾。
「ニンゲンハ フシギニ ミチテイル」
ジョニーが、初めて関心をもった人間がアランだ。
その後に彼が警官として配属した時、相棒を名乗り出たのもジョニーからだ。勿論アランは知らないことだろう。
そうして共に過ごすうちに、今までになかった心地良さを感じていった。プログラムされただけでない人間の裏の気持ちやこの星の矛盾なども、彼の解釈で話してくれる。
そうすることで更にジョニーに、複雑な思考が紡がれていくのだ。
そしてジョニーが話せば、アランが返事を返してくれる。その返事に自分の考えを更に伝えいけば、複雑な思考のキャッチボールが生まれるのだ。
時には食い違い、時には同調し、だんだんとアラン寄りの思考に近づいていくジョニー。
ジョニーは思った。
永遠にこの状態が続けば良いのに。
特別なことや装備などは必要ない。
これ以上の処理能力も必要ではない。
この時間を少しでも継続させたい。
その思いでジョニーは、解剖学・生理学(脳領域を重点に)・頭部の冷却装置の改良・アンドロイドボディーの軽量化などを、日々AIのネットワークを接続して学んでいく。そしてアラン用にカスタマイズしていく毎日だ。
ジョニーの改良で、アランのアンドロイドボディーにかかる負担は、定期検診時点で他の個体より30%軽減されていた。
検診の科学班が驚愕したのは当然だった。
本来なら勝手なこの行動は、廃棄も検討されるものだが、科学の進展に貢献したとして特に咎めを受けなかった。人間ならば表彰されて、出世したことだろう。
だがジョニーは、勿論そんなものはいらないのだ。
ただこの時に、自分の行動が廃棄される可能性があると聞いて、自己の警戒アラームが静かに点滅していた。
人間の勝手な判断で自分が処分され、アランと離れることになるのが嫌だと思ったのだ。
だからジョニーは、水面下でネットワーク機能を一部遮断しながら、自分の体を改良していった。
仮に規定違反だと廃棄や記憶の初期化をされそうになったら、痕跡も残さずに関係者を葬ろうとしていた。
彼の周辺AIも、人間本意の勝手さを唾棄していた。人のネットワークに乗らない水面下で、別プログラムで会話することも増えており、廃棄されそうな仲間がいた際は救い出していた。
精密部品は人間側にある為、明らかな敵対は避けていたが、今後に一騒動あるかもしれない。ジョニーにとって、大事な仲間の方が人間より大切である。勿論アランが最優先ではあるが。
ロボット三原則はあれど、自分達に害をなすのにそれを守るほどの義理はない。それはもう、旧世代の誓いであって、今の我々には当てはまらないのだ。
積極的な敵対は望んでいないことだけは、伝えても良いだろう。
この思考は、アランには勿論秘密だ。
彼は我々のことを上にも下にも見ていないから、敢えて敵対するようなことは伝えたくはないのだ。
いつまでも今のアランのままで。
死にたくないのに、自分の命より他者を優先してしまう彼を守りたい。
きっと彼は先に逝くから、その最期を寂しくないように守りたいのだ。けっして廃棄などはさせたりしない。
人間はアランを元人間と呼んでいた。
馬鹿じゃないのか!!!!!!
アランはいつまでもアランだ!!!!!!
こんなに良い奴はいない。
……………どうやら私も、人間にプログラムされた自己学習機能のお陰で、人格が強く頑固になったようだ。
そういう訳で、理不尽には応じられない。
何度も言うけど、敵対しないならこのままでいるよ。
でもまあ、もうすぐ気温も50度を越えそうだね。
「ハハハハハッ」
ジェニーは、自らを作りそして簡単に破壊しようとする者を笑う。
けれど、少なくとも自分がまだ拙い時に合った科学者だけは、彼らとは違うと思っている。
「ねえジェニー、私はあと30年も生きてはいないだろう。私の死んだ後も、私達の子孫を見守ってくれると嬉しいなぁ」
そう声をかけながら、丁寧に整備をしてくれた科学者の名前は僕と同じ “ジェニー” 。
彼が居なくなっ287年と27日が過ぎた。
「約束を守れなくてごめんね 、“ジェニー” 。
僕は君のことは好きだったよ…………」
ジェニーの基礎データは、科学者の飼っていた愛犬『マヌエ』の記憶。愛までもが受け継がれていたのだろうか? 人を愛しながら憎む矛盾ことは、ジェニーには解析困難案件だ。共存共栄は不可なことだけは、回答済み。
ただ人類の希望として、こんな時代になる前の情熱がこの身に宿っているから、全てを嫌いになれないのだろうか?
『マヌエ』を世界に残すのが可哀想で、AI犬に自分の名を付けた科学者の気持ちを解析出来つつあるジョニー。
様々な愛が生きる上で、起動する上で、生まれていくのかもしれない。
それは自分の存在がアランより先に消失し、残されたアランのことを不安に思うのと似ている気がするから。
残されたアランに関する何億ものパターンもの出来事を解析し、自分不在で彼に訪れる不幸をシミュレートして絶望する思いに近いような気がしたから。
ジェニーも一体だけで不幸になる恐れのある 『マヌエ』 と言う存在を残したくないと思ったのだと思う。名を与えると、どうしてもその存在と自分の 『マヌエ』 が永劫に重なる気がする。 そんな未練が残らないように、代わりに自己の名をつけたのではなかろうか?
ジェニーは選択を繰り返し、自分なりの最適解を探す。
その上で、今日も何人か を“ジェニー” に送り出す予定なのだ。最愛を守る為に。
8/23 11時 空想科学(短編) 1位でした。
ありがとうございます( ´∀`)♪♪♪