7.これが宝ですか?
「VRゲームだと移動も一苦労だよね」
「そうですね。実際に歩くのは時間がかかるのが難点ですよね」
リオとノエミは入江の洞窟に入った。
洞窟は天井のところどころに穴が空いており、薄暗いが松明などが必要なほどではない明度だった。
灯りの準備をしてこなかったふたりは「序盤だしね」と割り切って、洞窟を進む。
ヴァンパイアバット、ジャイアントワームといった魔物を退けながら洞窟を進んでいくと、ボロボロになった男性を発見する。
巨大な魔物に追いかけられているようで、男性はかなり追い詰められていた。
「後輩ちゃん、助けるよ!!」
「はい、リオ先輩!!」
ふたりは巨大な魔物の前に立ちはだかる。
《BOSS 石版の守護者》
目の前の表示にふたりは驚きつつ、その魔物を見上げる。
アースゴーレム、土でできた巨大な人型の魔物だった。
リオはもちろん〈盗む〉を敢行する。
アースゴーレムはずんぐりむっくりな見た目通り鈍重な動きで腕を振り回したりするだけで、攻撃パターンは単調だった。
「よし〈盗む〉成功!!」
リオが〈盗む〉を成功させたのは、アースゴーレムのHPが三分の二になった頃だった。
ノエミは火力偏重なスキル構成であるため、ゴリゴリとボスのHPバーを削っていく。
リオの攻撃は急所らしい急所の見当たらないアースゴーレムにはあまり有効打を出せない。
結局、ほとんどノエミひとりでアースゴーレムのHPを削りきって勝利した。
隅っこで怯えていた男性が立ち上がり、土埃にまみれた衣服を手で払いながら近づいてくる。
「ありがとう、助かったよ。君たちは一体?」
「私はリオ。こっちはノエミ。あなたは……」
「私はクロウだ。この洞窟に眠るという宝を探しに来たんだよ」
「あー、もしかしてこのくらいの男の子がいます?」
少年の背丈の辺りに手の平を置くリオ。
クロウは「確かに息子の背丈はそのくらいだが」と答えた。
「実は息子さんがひとりで洞窟まで来ようとしていたんですけどね」
「そんな!! 集落からここまでどれだけあると……!!」
「危なっかしいので、地図を失敬して私たちふたりで来たんですよ」
インベントリから地図を取り出してヒラヒラと振るリオ。
どうせ集落に戻れば少年から地図を盗んだことはバレるのだ。
ならばクロウを助けに来たことにでもしておく方が良いと判断した。
ノエミはリオの二枚舌に呆れていたが。
なにはともあれ、窮地を救ってくれた恩人に対してクロウは警戒心を持たずに、洞窟の奥へと案内した。
洞窟の最奥には一枚の石版が安置されていた。
「これが宝ですか?」
「ああそうだよ。触れた途端にあのゴーレムが地面から現れて……」
「どんな宝なんでしょう」
「それは触ってみれば分かるよ。驚くと思うよ」
首を傾げながら、リオは石版に手を触れた。
《職業を選択してください》
目の前にホロウィンドウが立ち上がり、リストが表示される。
職業はキャラメイクのときにはなかった、すべて戦闘に不向きな生産系の職業だった。
「へえ……生産系の職業を取得できるってことか」
「え? ホントですかリオ先輩!?」
「うん。どれにしようかなあ」
ノエミも石版に触れ、生産系職業のリストに歓喜の声を上げる。
迷うリオより早くノエミは決めたらしい。
「後輩ちゃん、何にしたの?」
「【鍛冶師】です」
「あーなるほどね」
刀鍛冶でも目指すのだろう、とリオは思った。
ひとしきり迷った挙げ句、リオは【薬師】を選択した。
「私は【薬師】にしたよ」
「ふたりとも無事に新しい職業を得られたようですね」
「ええ。じゃあ集落に戻りましょうか」
「あ、待ってください」
クロウは安置されていた石版を台座から外した。
「あ、それ持ち運べるんだ」
「ええ。これを集落に持ち帰ろうかと思います」
「ふむ……」
しばしリオは考える。
生産系職業を得た今、石版は不要だ。
殺してでも奪い取るだけのメリットはないように思えた。
クロウはリオがそんなことを考えているのを知らずに、おずおずと口を開いた。
「私は戦闘は苦手なので、おふたりに護衛を頼みたいのですが」
「構いませんよ」
「はい。お任せください」
「ありがとうございます」
《クロウがパーティに加入しました》
足手まといの加入にリオとノエミは顔を見合わせる。
確かに護衛を承ったが、本当にクロウを守りながら帰路につかねばならないようだ。
それよりも、クロウの減少しているHPが気になった。
「まずクロウさんの傷の手当からかな」
「そうですね」
ゴブリンから入手した薬草でクロウのHPを回復してやる。
そして三人は集落を目指すのだった。