4.後輩ちゃんかあ
集落に入った途端、たくさんのプレイヤーたちの姿が現れた。
プレイヤーたちは興奮しながら「グラフィックやべえええ!!」だの「職業なににしたんだよ!?」などと会話している。
ゲーム中で知り合いに会うと面倒そうだ、と思いながら人混みを避けて、まずはNPC相手に情報収集をすることにした。
普通の民家よりは看板の出ている何かしらの店舗の方が情報は集まるだろう。
そう考えて『BAR』という看板に引かれて中に入る。
情報収集といえば酒場が鉄板だろう。
飲んだくれ共の相手をするのは面倒くさそうだが、訳知り顔で情報を提供してくれそうなNPCを探す。
ふとプレイヤーの姿がないことに気づいた。
不自然だ、広場で見た人数を考えるに、酒場に誰かいても良さそうなものなのに。
「なんだと!! もう一回、言ってみろ!!」
「ああ、何度でも言うぜ。お前の親父は今頃、おっ死んじまっているってなぁ」
見ればやんちゃそうな少年が酔っ払いにムキになって突っかかっている。
どうやらイベントを踏んだらしい。
「俺の父ちゃんはきっと今頃、入江の洞窟でお宝を手にしている頃だ!!」
「はン。じゃあお前の親父が戻ってきたら、せいぜい自慢するこったなあ」
「くそッ!!」
少年はその場を後にすべく入り口に向けて走り出す。
進路上にいた私は、――わざと避けずに少年にぶつかってみた。
「うわ、危ねえ!!」
「危ないのはそっちでしょ。走るならちゃんと前を見てよね」
「――え、ああ。ごめんよ。じゃあ」
酒場を出ていく少年を追いかける。
店を出ると、少年はとぼとぼと集落の奥へと歩いていく。
集落にプレイヤーたちの姿はない、イベントは継続しているようだ。
「ちょっと待って」
リオは少年の手を取った。
「なんだよ、姉ちゃん? 俺に何か用事?」
「さっき、宝がどうとか聞こえたから」
「…………その格好。難破船の乗客?」
「そうだよ」
「俺、ちょっと忙しいんだ。父ちゃんを迎えにいかないと」
「ひとりで?」
「…………っ」
「私はこの島に宝を探しに来ているんだ。良かったら手伝おうか?」
「宝を? ……駄目だ、宝は父ちゃんのものだ!!」
それはそうだ。
横取りを警戒するのは仕方がない。
少年は胡散臭そうなものを見る目でリオを睨めつけている。
……イベントはまだ続いている、か。
説得してなんとか同行したい。
素早く言い訳を考えないと、少年は今にも手を振りほどいて走り去ってしまいそうだ。
「私が探しているのは君のお父さんの宝じゃない。だから横取りなんてしないから、危ないことは止めなさい」
「そんなこと言っても、騙されないぞ!!」
駄目か、とリオが考えたとき、ソレが見えた。
少年の腰、ズボンに挟まっている黄ばんだ紙。
地図のようなものを見つけて、リオは目を細めた。
掴んでいた手を離して、リオは「信用できないなら仕方ないね」と告げる。
少年はあっさりと開放されたことに一瞬だけ呆けたように口を開いたが、すぐに踵を返して走り出す。
そこでリオは〈盗む〉を使った。
少年のズボンに挟まっていた地図をスルリと抜き取ったのだ。
走り去った少年を見送る。
姿が見えなくなったところで、ホロウィンドウが浮かび上がった。
《サイドストーリー:入江の洞窟のお宝》
「あれ? メインストーリーじゃないのか」
ちょっと拍子抜けだ。
ともあれイベントは成功し、続きが楽しめるらしい。
ザワザワとプレイヤーたちの話し声が聞こえてきた。
どうやらイベントは終わり、通常の集落のマップに戻ってきたようだ。
リオは近くの民家の裏手に回って、周囲を警戒しつつ地図を開く。
この島の地図らしく、集落の位置と入江の洞窟の位置が記されていた。
「この集落がこの大きさだと……島は結構、広そうだね」
インベントリに地図を仕舞う。
さてここからはどうするか……リオは考える。
急いで入江の洞窟へ向かう必要はなさそうに思える。
実際、割りと距離があるのだ。
短剣一本でなんとかなるとは思えない。
せめてスキルの習得方法くらいは調査しておきたいところだ。
民家の陰から出て、次の目的地を決めようとしたところで、視界の端にメールのアイコンが点灯した。
誰かが私宛てにメールを出したらしい。
左手を二度叩いてメニューからメール画面を開く。
差出人は……ノエミ。
「後輩ちゃんかあ」
リオのVRギアにフレンド登録されているのは、乃絵美だけだ。
名前からしても差出人は乃絵美だろう。
「このゲームやるって息巻いていたもんね。スタートダッシュ組か」
無視する気もないので、メールを開く。
《宛先:リオ
本文:あなたの愛しの後輩ちゃんです。
いま『九魔群島物語』プレイ中です。
先輩もスタートダッシュしてますよね、一緒に遊びませんか?
いま私は最初の集落の宿屋にいます。》
リオは少し考えてから、ノエミにメールを打った。