3.遭難から始まるわけ?
「…………!!」
リオは砂浜に倒れていた。
砂浜にはバラバラになった大型帆船の残骸が打ち上げられている。
「えっと、遭難から始まるわけ?」
起き上がって、衣服についた砂を手で払う。
左右を見渡すが、動くものはなにもない。
前方にはヤシの木がまばらに生えている。
その木々の向こうから、ひとりの男性が歩いてくるのが見えた。
「おお、リオ。無事だったか」
「ええと、はい」
誰だ、このオッサンは。
顎にビッシリ生えた無精髭。
腰にはカットラスと思しき曲刀を下げている。
「どうした、頭でも打ったか? 俺のことは分かるよな? ザザ様だぜ?」
「ええと……記憶が曖昧なんですけど。ザザ……様?」
「おいおいマジか。記憶喪失って奴か? 頭を打ったんだろうなあ。まあ一時的なもんだろ。それより近くに集落があるぜ。ついて来いよ」
無防備に背中を晒すザザ。
NPCの受け答えが自然なのはいいとして、人物やオブジェクトのグラフィックが凄まじいリアリティを持っていることに今更ながら圧倒される。
リオは歩いていくザザと少し距離を置きながら、ついていくことにした。
岩陰を曲がったところにすぐに集落があった。
集落という言葉のイメージするところは人によって違うと思うが、かなりの大きさの村だと、リオは思った。
「どうだ、無防備な集落だろ。平和そのものって感じだ」
「そうですねえ」
「ただ武装している連中も少なくないな。嵐で打ち上げられた船に乗っていた連中もここに集まっているようだ。そういえば記憶はどうだ、戻ったか?」
「いえ、生憎」
「そうか……。じゃあ俺たちが船に乗った経緯から説明するか」
ザザはその辺に転がっていた岩に腰掛けると、話し出した。
リオは突っ立ったままザザの言葉に耳を傾ける。
「いいか? この九魔群島にはとんでもないお宝が眠っているって話だ。俺とお前はソイツを探しに来たんだよ」
「お宝……ですか」
「そうさ。どんなもんかも分からねえ。だがあるって情報に賭けて、俺たちは大枚はたいて船のチケットを買って、今ここにいるってわけさ」
「どんな宝かも分からないのに……?」
「へっへ。そうさ。でもそういうもんだろ、俺たち盗賊って奴はよぉ。金の匂いがするぜぇ、この島々からは。何か隠されている。それを探り当てるのが、俺たちの目的だ」
《メインストーリー:九魔群島のお宝を探す》
目の前にホロウィンドウがポップアップした。
どうやらキャラメイクの職業選択によって、導入が変わるのだろう。
随分と細かい仕様だな、とリオは思った。
ザザは左手甲を二度、叩いた。
「……あとは自分の得意分野を確認しとけ。やり方は覚えているか? こう、左手の甲を二度叩くんだ」
「こうですか?」
ザザがしたように左手甲を二度叩くと、メニュー画面が開いた。
「そうだ。後は好きにやれ。俺は集落で情報収集をしている。ひとまず……そうだな、お前も情報収集をしておけ。何か有益な情報があれば情報交換だ」
ザザは集落の方へ歩いていく。
リオはまずメニュー画面をひと通り確認することにした。
ステータス画面は確認すべきだろう。
《名前 リオ 性別 女 年齢 16※未成年※
称号 “記憶喪失の盗賊”
職業 【盗賊】Lv1
能力 器用 12 敏捷 12 筋力 12 生命 12
知力 12 精神 12 知覚 12 幸運 12+
技能 〈盗む〉
SP 残り4pt》
ふむ、とリオは自分のステータスを確認し終える。
スキルの習得はどうやるのだろうか、恐らく残っている4ptのSPを消費するのだろうけど。
リオはメニューをひと通り見たが、スキル習得については分からず仕舞いだ。
「……スキルの習得もまさか情報収集しろってこと? いきなり面倒だなあ」
NPC相手には記憶喪失のロールプレイもしなければならない。
何も知らない状態から手探りでゲームを進めていく、というのは悪くないが、もう少し親切でもいいだろう、とリオは思った。
仕方がない、ゲームの情報収集が簡単だといいな、と思いながらリオは集落へと足を向けた。