2.初期装備って感じだね
静かなBGMとともに、莉緒の目の前にホロウィンドウが現れる。
ホロウィンドウには、名前の入力欄、職業選択用のプルダウン、アバターの外観が表示されている。
いま現在のアバターの外観は紺の模様が入った半袖Tシャツに膝丈のジーンズ、そしてサンダルだ。
まず莉緒は名前欄に『リオ』と入力した。
実名だが、ありふれた名前なのでリテラシー的には問題はないと考えてのことだ。
職業選択用のプルダウンメニューを開くと、多岐に渡る職業がズラリと並ぶ。
事前情報では剣士や魔法使いなど最低限の情報しかなかったが、どうやら職業はかなりの種類がある様子。
職業を選択する度にアバターの外観が変化していくのが楽しい。
莉緒は多数の選択肢から【盗賊】を選択した。
アバターの外観は黒のバンダナにナイフを片手に持ったスタイルに変更される。
Tシャツの上には黒のチョッキが追加された。
「初期装備って感じだね」
他の職業の外観と比べると、明らかに貧相な武器と防具だった。
例えば剣士ならば立派なブロードソードを手にし、革製のブレストアーマーを装備している。
また槍騎士に至ってはランス、ブレストアーマー、その上に馬がついてくるという豪華さである。
職業の装備格差が気になるが、莉緒はその上で【盗賊】を選択した。
ゲーマーの莉緒としては弱い職業を選択する趣味はない。
活躍してこそ、ゲームは楽しいのだ。
わざわざ苦労するのが分かっているキャラメイクをする理由はない。
ゲーマーとしての嗅覚が、そして開発元への信頼が、【盗賊】を選ばせた。
ホロウィンドウの『決定』ボタンを押す。
すると『器用、敏捷、筋力、生命、知力、精神、知覚、幸運の中から得意分野をひとつ選択してください』という画面に切り替わった。
「ふむ?」
莉緒は2秒ほど考えて幸運を選択した。
ホロウィンドウが消えて、遠く波の音が聞こえてくる。
段々と波の音が大きくなっていき、――ゲームが始まったのである。