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不死のクリストフ  作者: 世界
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第五話 シスター・リザ

完結まで毎日17時に投稿します。

 月明かりの射す廊下を歩きながら、クリストフは行方不明になった同僚達の事を考えていた。

 派遣された医師二名の事は知らないが、エクソシストの方は知っている。元々悪魔祓いを担当するエクソシストの数はさほど多くない為、彼らとは何度か顔を合わせた事がある。いつも三人一組で行動しているアベル、カール、コンラッドの三人だ。


 最年長のアベルは法の使い手で、若い頃は異端審問官も務めていた男だ。他人にも自分にも厳しく教義は絶対、さらに剣の腕もかなりのものだったようで、過去には汚職に手を染めた司教を市民たちの前で問い詰め、なます切りにしたらしい。しかも、その部下たちと一族も全てだ。


 多数の市民の前での虐殺劇は、さすがに隠し立てすることも出来ず、火消しに相当な労力がかかったと、当時まだ神父だったというダニエル司教はぼやいていた。その事件が元となって、彼は教皇庁の厄介者とされ、悪魔祓い担当のエクソシストに回された。


 また、彼と共に姿を消したカールとコンラッドは、異端審問官の家系に生まれた兄弟だ。異端審問官は逆恨みされやすい立場にあり、彼らの両親は魔女の村として焼き払われた一族に復讐され、命を落とした。その時に二人を助けたのがアベル神父だ。


 以来、二人はアベルを神のように崇め、剣の腕を磨きながら成長し、あえてエクソシストになったらしい。

 二人とも剣の腕は凄まじく、フランス王国の騎士達と揉め事になった際、たった二人で騎士団の一個隊を叩きのめしたほどの腕前を持っている。アベルはそんな二人を自分の両腕として迎え、悪魔祓いや怪物退治に連れ歩いていた。

 三人共に経験豊富な、言わばこの道のエキスパートである。どんな怪物が相手でも、あの三人が揃っている状態で負けるとは、信じ難いものがあった。


(騙されたか人質でも取られたか…いや、それも少し考えにくいな)


 アベルという男は「己が信じるのは神の言葉のみ」と放言する程の狂信者である。

 例えそれが上司にあたる司教や枢機卿、もっと言えば教皇が相手であっても、神の教えに背くものであれば、容赦なく斬り捨てるだろう。それは人の生命に対する価値観も同様である。もし仮に、人質を取られたとしても、神の命令として与えられた任務を最優先として、人質を見捨てる事など厭わないはずだ。


 カールとコンラッドに至っては、アベルの命令こそ至上の命である。アベルを天秤にでもかけない限り、体裁や良心の呵責など寸毫も気にしないのがあの二人だ。やはり、真正面から打ち負けたと考えるべきだろうか?だとすれば、敵は相当厄介な相手ということになる。


 ちょうどそんな結論に至った頃、廊下の隅にある部屋の前までやってきた。前を歩いていたリザが立ち止まり、扉を開いて頭を下げている。

 

 クリストフは礼を言って、その部屋の中へ入ってみた。


 室内にはベッドが一つ、備え付けの小さなテーブルに椅子があり、卓上にはランタンが用意されている。教会の居住スペースとしては決して悪くない部屋で、ちょっとした宿屋の個室のような佇まいである。先程のダイニングとは違い、香の匂いがほとんどしないのも助かった。

 

 クリストフはリザから荷物を受け取ると、それをベッドとテーブルの横に置いてランタンに火をつけた。一応窓はあるが、今は月が廊下側にあるので、外からの明かりは期待できそうにない。


 それはともかく、今夜はこのまま法衣のキャソックを脱いで休もうかと思っていると、リザがまだ室内に残っている事に気付いた。てっきり出て行ったとばかり思っていたが、何かまだ用があるのだろうか?


「ええと、リザさん、どうかしましたか?」


 言いながら振り向いたクリストフの目に飛び込んできたのは、今まさに修道服を脱ぎ、さらにその下の肌着までを脱ごうとするリザの姿であった。あまりの展開に頭が追い付かず、慌てて再び背を向けるクリストフ、その身は震え、額には大量の冷や汗が滲んでいる。


「い、一体何が…!?」


 その先を言う前に、背中に柔らかい二つの塊が押し付けられ、続けて両の腕が背中から胸に回され、ぎゅっと抱き締められたのが解った。修道服の上からでは解らなかったが、二つのそれはとても大きい。


「な、なななななっ…!」


「クリストフ、様…はした、ない…女だと…思、われるでしょうが…ど、うか…貴方の…熱を、お恵、み下さい…わ、たしは…怖くて、仕方が…ないのです…」


 たどたどしく、かつゆっくりと喋るリザの言葉が紡がれる度にクリストフの身体から震えが消え、冷や汗も落ち着いていった。彼女の腕はとても冷たい、まるで、生きた人間とは思えない体温だった。


「…何が、そんなに恐ろしいのですか?」


「わた、しは…みて…しまったので、す…新しくやって、きた…夫婦、の…紅、い…瞳を…」


 カタカタと震えだすリザの両腕を優しく解いて、クリストフは向き直り、彼女を抱きしめた。一瞬硬直したが、リザは安心したようにクリストフと抱擁を交わす。ちょうど肩まで伸びた彼女の髪に顔が近づくと、ほんのわずかに死臭がした。


 だが、肉体的にはともかく、彼女の魂はここにある、ならば、今救うべきは彼女の心だと自らに言い聞かせて、クリストフは彼女を抱く力を強めた。


「温、かい…で、す…」


 そう呟くリザの目からは、大粒の涙が流れ落ちていく。

 

 口惜しい、純粋にクリストフはそう思った。助けを求められているのに、何一つ救いあげられない自分の無力がただただ無念だった。結局、怪物たちと戦う力は得られても、それだけでは人は救えない。これが主の御心によるものなのか?或いは、これが自分の限界なのか?

 

 クリストフの心にしこりを残し、二人はそのまま抱き合い、夜は更けていった。


お読みいただきありがとうございました。

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