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時間とは、本当に一方通行なのでしょうか?
それは人間が、ただそう思い込んでいるだけなのではないでしょうか?
これからしばしの間、あなたの心はこの不思議な空間へと入って行くのです。
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「私のお願いを、ひとつだけ聞いてほしいんだ」と老人は言った。
「お願い?」と僕は訊き返した。
「そうだとも、これは君にしか出来ない大切なことなんだ」
相手の言葉には、有無を言わせぬ厳粛さがあった。
「僕にしか出来ないこと?」
老人はゆっくりとうなずき、言葉を続けた。
「これから言うことを、しっかりと心に刻んでおいてほしい。無理に暗記しようなんて思わなくていい。その時が来ればきっと君は思い出すはずだからね。
今から六年後の一九七五年、君は高校二年生になっている。その年の秋に、君のクラスに広瀬千代子という少女が転校して来る。こんな少女だ」
言って老人は、ポケットから一葉の写真を取り出して見せてくれた。そこに写っている少女を見て、あ、と僕は小さく声を上げた。それは、千代子冷凍に象られたあの少女にそっくりだったからだ。
「そう、彼女こそ、千代子冷凍のモデルになった女性だ。そして君が六年後に出逢うことになる女性でもある。君は彼女に恋をするだろう。恋とはどういうものか、今の君には解らないかも知れないけれど、その時が来ればきっと解るはずさ。彼女は君と同じ文芸部の部員となる。二人の関係は、徐々に親密さを増して行くだろう。
その年の今日。つまりクリスマス・イヴの夕方、文芸部のメンバーはクリスマス・パーティを開くことになる。ここからが肝心のところだ。君はパーティがはじまる三〇分以上前に、必ず彼女の家に寄って、彼女と一緒にパーティ会場へ向かって欲しい。
お願いはそれだけだ」
そう言って老人は、僕の肩をポンと軽く叩いた。
僕の手には、千代子冷凍の中心に刺さっている棒だけが残っていた。
これが最後の千代子冷凍なのだと言った老人の言葉を思い出した。
「そうだ。これが最後の一本だよ。これから未来永劫、千代子冷凍は存在しなくなる。でもそれは、いいことなんだよ」
ぎこちなく微笑みながら、老人が言った。
その顔が、何だか自分自身のような気がした。
それから後の記憶がない。
果たして少年は運命を変えることが出来るのでしょうか?
次回はいよいよ最終回です。
それではまたお逢いしましょう。