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千代子冷凍工場の秘密  作者: 矢本MAX
7/10

7

結婚式はある種、同窓会のような場となります。

久し振りに会った友人たちと歓談するうちに、思い出話に花が咲くこともあるでしょう。

これからしばらくの間、あなたの心はこの不思議な空間へと入って行くのです。

 7

 あの夜、チョコレート工場に忍び込んだ六人が、久しぶりに再会したのは、一九八八年の夏、啓介の結婚式のことだった。個々には交流があったけれど、六人が一堂に会するのは、小学校以来のことだった。

 一九五八年生まれが大半だった僕たちは、その年に三〇歳になった。

 啓介は早生まれだったのでまだ二九歳だったが、僕はすでに三〇歳になっていた。

 青春時代と呼ばれる時期をとうに過ぎ、もう若くはないと、ひしひしと感じるような年頃になっていた。実際には、三〇歳などまだまだ青二才だと思い知るようになるのだが。

 茂も裕も英一も大二郎も、すでに結婚していて、独身なのは僕一人となった。

 高校時代に淡い恋心を抱いていた少女が、不慮の事故で一七歳という若さで亡くなってからというもの、その面影が忘れられず、他のどんな女性と出会っても、本気で愛することが出来なかったからだ。

 披露宴は、正午頃にはじまり、延々三時間以上かかった。夏の盛りということもあり、その日、式を挙げるは啓介たち一組しかなかったからだ。

 宴が終わった後、ややぐったりした僕たちは、式場の喫茶ルームでコーヒーを飲んでひと休みしていた。他の招待客はすべて帰り、小学校の同窓生だけが残っていた。

 そこへ、普段着に着替えた啓介がやって来て、あの日のメンバーが揃った。

 僕たちは口々に、夏の盛りに挙式することの非常識と、披露宴が長すぎたことへの不平を新郎にぶつけた。だけど、どのような苦情も批判も、幸せの絶頂にある新郎には通じなかった。

「まあまあ、これもええ思い出やないか」と、へんちくりんな大阪弁で言うのだった。

 大学の経済学部を卒業して就職した銀行で、大阪支店へ赴任


させられ、当地で花嫁と出会ったせいか、彼の言葉は、関東の人間が聞いても明らかにおかしなイントネーションのエセ大阪弁になっていたのだ。

 みんながあきれかえって沈黙した時に、僕は今ここにいる面子が、あの日チョコレート工場へ忍び込んだメンバーであることに気がついたのだった。

「そういえば、このメンバーでチョコレート工場に忍び込んだことがあったけな」

 口に出して言うと、みんなが不思議そうな顔でこちらを見て、不揃いなユニゾンで声を上げた。

「チョコレート工場?」

 最初は意外だったけれど、すぐになるほどと理解した。

 あの夜、警備員に見つかって、メンバーは四散した。なので、実際に工場内を見学出来たのは、僕一人だ。みんなの記憶が薄いのは、そのためかも知れない。

 僕はかいつまんでその夜の冒険の概要を話した。

「そういえば」と、英一が記憶を掘り起こすような表情で言った。「確か街外れに廃工場があって、みんなでそこを探検したことがあったな」

「そうだ、思い出した」と裕が言った。「まだベルトコンベアとか残ってて、わくわくしながら探検したんだ」

「だけど、途中で管理人のおじさんに見つかった」と大二郎。

「そやそや、みんな怒られて、でもお主だけどっか隠れとって、最後まで出て来んかったんや」と啓介。

 茂だけは完全に記憶を失っているらしく、ただただ首をかしげるばかりだ。

「だけどあれはチョコレート工場じゃなかった」

 英一の断言に、みんながうなずいた。

「確かあれは、でんぷん工場だった」と裕。

「あ、そうそう、その跡地がボウリング場になったんだ」と、やっと記憶が繋がったらしい茂が言った。

 ふいに世界が遠のくような感覚に襲われた。

 この記憶の断絶は何だろう?

 彼等の話を聞いていると、自分の記憶も怪しくなって来る。

記憶は常に修正され、書き換えられるものです。

あなたにとっての大切な思い出も、誰かにとっては無かったことになっているかも知れません。

それではまたお逢いしましょう。

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