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結婚式はある種、同窓会のような場となります。
久し振りに会った友人たちと歓談するうちに、思い出話に花が咲くこともあるでしょう。
これからしばらくの間、あなたの心はこの不思議な空間へと入って行くのです。
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あの夜、チョコレート工場に忍び込んだ六人が、久しぶりに再会したのは、一九八八年の夏、啓介の結婚式のことだった。個々には交流があったけれど、六人が一堂に会するのは、小学校以来のことだった。
一九五八年生まれが大半だった僕たちは、その年に三〇歳になった。
啓介は早生まれだったのでまだ二九歳だったが、僕はすでに三〇歳になっていた。
青春時代と呼ばれる時期をとうに過ぎ、もう若くはないと、ひしひしと感じるような年頃になっていた。実際には、三〇歳などまだまだ青二才だと思い知るようになるのだが。
茂も裕も英一も大二郎も、すでに結婚していて、独身なのは僕一人となった。
高校時代に淡い恋心を抱いていた少女が、不慮の事故で一七歳という若さで亡くなってからというもの、その面影が忘れられず、他のどんな女性と出会っても、本気で愛することが出来なかったからだ。
披露宴は、正午頃にはじまり、延々三時間以上かかった。夏の盛りということもあり、その日、式を挙げるは啓介たち一組しかなかったからだ。
宴が終わった後、ややぐったりした僕たちは、式場の喫茶ルームでコーヒーを飲んでひと休みしていた。他の招待客はすべて帰り、小学校の同窓生だけが残っていた。
そこへ、普段着に着替えた啓介がやって来て、あの日のメンバーが揃った。
僕たちは口々に、夏の盛りに挙式することの非常識と、披露宴が長すぎたことへの不平を新郎にぶつけた。だけど、どのような苦情も批判も、幸せの絶頂にある新郎には通じなかった。
「まあまあ、これもええ思い出やないか」と、へんちくりんな大阪弁で言うのだった。
大学の経済学部を卒業して就職した銀行で、大阪支店へ赴任
させられ、当地で花嫁と出会ったせいか、彼の言葉は、関東の人間が聞いても明らかにおかしなイントネーションのエセ大阪弁になっていたのだ。
みんながあきれかえって沈黙した時に、僕は今ここにいる面子が、あの日チョコレート工場へ忍び込んだメンバーであることに気がついたのだった。
「そういえば、このメンバーでチョコレート工場に忍び込んだことがあったけな」
口に出して言うと、みんなが不思議そうな顔でこちらを見て、不揃いなユニゾンで声を上げた。
「チョコレート工場?」
最初は意外だったけれど、すぐになるほどと理解した。
あの夜、警備員に見つかって、メンバーは四散した。なので、実際に工場内を見学出来たのは、僕一人だ。みんなの記憶が薄いのは、そのためかも知れない。
僕はかいつまんでその夜の冒険の概要を話した。
「そういえば」と、英一が記憶を掘り起こすような表情で言った。「確か街外れに廃工場があって、みんなでそこを探検したことがあったな」
「そうだ、思い出した」と裕が言った。「まだベルトコンベアとか残ってて、わくわくしながら探検したんだ」
「だけど、途中で管理人のおじさんに見つかった」と大二郎。
「そやそや、みんな怒られて、でもお主だけどっか隠れとって、最後まで出て来んかったんや」と啓介。
茂だけは完全に記憶を失っているらしく、ただただ首をかしげるばかりだ。
「だけどあれはチョコレート工場じゃなかった」
英一の断言に、みんながうなずいた。
「確かあれは、でんぷん工場だった」と裕。
「あ、そうそう、その跡地がボウリング場になったんだ」と、やっと記憶が繋がったらしい茂が言った。
ふいに世界が遠のくような感覚に襲われた。
この記憶の断絶は何だろう?
彼等の話を聞いていると、自分の記憶も怪しくなって来る。
記憶は常に修正され、書き換えられるものです。
あなたにとっての大切な思い出も、誰かにとっては無かったことになっているかも知れません。
それではまたお逢いしましょう。