1/10
1
これはチョコレートとクリスマスの夜にまつわる物語です。
これからしばしの間、あなたの心はこの不思議な空間へと入って行くのです。
1
「これを食べてごらん」と言って差し出されたのは、棒に差された氷菓子だった。
それは見憶えのある、懐かしいアイスだった。
茶褐色で、髪の長い可憐な少女をかたどった氷菓子は「千代子冷凍」という名前で、みんなに親しまれていた。
一口舐めると、甘いチョコレートの味が、かすかなほろ苦さとともに口いっぱいに広がり、香ばしい香りが鼻孔に抜けて行く。
と同時に、懐かしい、様々な記憶が、洪水のように僕の脳裡に押し寄せて来た。
香りには、記憶を呼び醒ます効果があるようです。
これから、どんな記憶が呼び醒まされるのでしょう?
これはまだプロローグに過ぎません。
それではまたお逢いしましょう。