人生には何の役にも立たない知識・思考をつらつらと書くエッセイ集
早い、美味い、安い でも吉野家は早くない
吉野家の牛丼を食べてはや幾年
私は相当の数の吉野家の牛丼を食べてきました
おそらくですが数千杯は食べたと思います
誇張ではありません
一番食べていた時期は週5で一日2杯以上並盛を食べていました
それが数年続いたのでおそらくそれだけで2~3000杯の計算です
その数年以外でもほぼ毎週2~3回食べていた時期は15年以上あります
これはそんな私が吉野家を語るエッセイです
興味を持たれましたらどうぞお付き合いください
今でこそ吉野家には焼肉定食やら豚丼やらカレーやらと様々なメニューがありますが、昔は吉野家と言えば牛丼一本の店でした
吉野家に入ったら「並400円」「大盛500円」「特盛650円」の3択しか無かったのです
卵を付けるか、みそ汁はいるか、お新香食べるか
それくらいしか考える必要が無かったのです
ちょっと財布に余裕のある時は(牛丼並が400円の店なのに1個200円もする!)ごぼうサラダやポテトサラダを頼むくらい、おっとあと120円のコールスローもあったな
メニューは本当にこれだけなんだけど
昼休みに入るとお客さんが大勢座っていて
ひっきりなしに牛丼が注文されていました
そして、その牛丼はすぐ出てくる!のです
当時バイトをしていた人に聞いた話ですが
「吉野家は1分以内に牛丼が出てくる事も値段に入っている。この牛丼は400円では少々高いが、早く出てくるからこの値段なんだと」
そう、当時は本当に早く出てきました
特に昼・夜のピーク時、繁昌店(駅やオフィス街)には必ずベテランが入っているのでめちゃくちゃ早い
どれくらい早いのかというと、私が見た中で最速は
店員「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」
私 「大盛で」
店員「ありがとうございます。大盛りいっちy」
厨房「はい、大盛出ました!」
こんな感じです
カウンターで注文を受けた店員がオーダーを通したかどうかという時点で既に牛丼は盛りが終わっており、店員が厨房前に戻ってきたらすぐ牛丼を手に持って注文者の前に運んできます
恐らく「大盛りで」と注文してから提供まで10秒ないくらいでしょう
つまり私が大盛りを注文した声を厨房が聞いたと同時に牛丼の作成は始まり、注文を取る店員がオーダーする前に完成しているという事です
これでも十分すぎるくらい早いのですが、それの上がありました
それは吉野家発祥の第一号築地店(現在は閉店し移転)
以下、少しうろ覚えですがテレビ番組で放映された話をご紹介します
築地店では店長になるには厳しい条件があったそうです
それはなんと
「築地の常連さんの注文するメニューを全部覚えておく事」
築地市場の常連さんという事は、市場関係者
忙しい中で食べにくる常連さんを待たせてはいけない
という条件をクリアするために、店長(厨房責任者)はすべてを覚えています
なので、常連さんが席に座った時点で(!?)既に牛丼及びいつものサイドメニューが出てきます
注文を取る前に牛丼が出てくるのです
年配の常連がゆっくりと店内に入ってきます
「ああやれやれ」とばかりに席に座ります
その前には既に牛丼を持った店員が・・・・
「お待たせしました。牛丼の並と卵です」
お待たせなんてしてねえよ!と突っ込みたくなります
店長は常連さんの顔を見た瞬間にオーダーを作り始めており
座ったと同時に提供する、という事が当たり前のように行われていました
しかしまあ、これはよくよく考えると相手の意志をほぼ無視した所業です
「今日はいまいち体調がよくないから大盛じゃなくて並を頼もう」
「俺はいつも卵を付けるけど、今日は卵無しがいいな」
「いつもつゆだくだけど今日はあっさりつゆ抜きで」
常連さんは今日はそんな気持ちかもしれない
そんな忖度は全くなくお構いなしで注文は出てきます
「あなたはいつもこれでしょ?間違いないでしょ?それ以外なんてないでしょ?」
とばかりに出てくるのです
勿論、常連さんも心得たものです
当然のように受け取り食べだします
「俺は今日は卵を付ける気分じゃないんだよなあ」
なんてことは言いません
そんな日は彼らはそもそも吉野家に行きません
「いつもの奴くれ」と言う必要もなく出てきた「いつもの」を黙々と食べるのです
まあこれは少々やりすぎなのかもしれませんが
それだけ吉野家は早さを売りにしていたという事ですね
最近の吉野家は違います
牛丼を頼んでから普通に待たされます
普通に3~5分くらい待たされることもあります
店員も昔と違ってゆったりと仕事をしています
牛丼は1分以内で出すという吉野家の気概、今は全くありません
古い吉野家ファンからいうと「どないなっとんねん!」と叫びたくなるところですが
私自身は、これは仕方ないと思っています
一番の転機は狂牛病騒動です
(この騒動を知らない若い人は狂牛病で検索してみましょう)
騒動の詳細は省きますが、狂牛病騒動で牛肉の流通がストップしたのです
牛肉が手に入らなくなった吉野家はなんとご飯しか提供できません
仕方ないので朝定食の納豆定食や焼き魚定食を24時間売り出しました
次いで急遽豚丼を開発し提供しだしましたが、突貫で作ったので洗練されていませんでした
牛丼用のたれをそのまま使った豚丼だったのです
しかもなんかボロボロのごぼうとか入っていて、味も濃いめで豚肉もしなしなで
「ごめんなさい、突貫で開発したのでこんなものしか出来ませんでした」
と語っているような豚丼でした
ついにお客さんは入らなくなり、いつもにぎわっていた吉野家は閑散としてしまいました
私は非常に悲しみました
だって、毎日のように食べていた牛丼が食べられないのです
この騒動は2年弱続きました
長い、長い2年でした
いつ終わるか分からない、いつになれば牛丼が食べられるか分からない
牛丼が食べられないというだけでこんなに不安になるものなのか
そんな2年でした
この騒動の後、吉野家は大転換します
そう、牛丼オンリーの業態から脱却を図りだしました
牛肉が止まったら吉野家は無くなってしまう
それを回避するために、新しい豚丼や、定食や、その他の手間のかかるメニューを導入しだしたのです
ライ〇ップ牛サラダってなんやねん?みたいなメニューも開発しだします
そうなるとどうなったか分かりますね
1分でなんでも提供していた吉野家は1分で商品を出せなくなりました
例えば焼肉定食
まず肉を焼かなければいけません
肉を焼く鉄板に肉を乗せる
焼き加減を見張る、焼けたら肉を皿に移す
肉だけでなくキャベツも盛らないといけません
今は唐揚げもあるので、鳥肉を揚げないといけません
幾らタイマーでほったらかせると言っても、危ないので何度か確認しないといけません
そろそろ揚がったかな?と思ったら隣の調理にも手を入れないといけません
これらが断続的に行われるのです
牛丼ならご飯を盛り、肉をお玉ですくって乗せるだけだったのに
色んな複雑な調理が並行で進んでいきます
そりゃ牛丼だって1分で提供なんて無理ですよね
吉野家は早さを捨てたのです
でも、それはそれで仕方ないのです
もう牛丼だけを出していればいいという時代は過ぎ去ったのです
牛丼オンリーでは、経営リスクが高すぎたのです
それでも、それでもなお吉野家の牛丼はいまだ維持されています
それは、他のメニューを持っているがために維持されています
牛丼を守るために他のメニューがあるのです
提供が遅くなっても、それは牛丼を守るためです
だから1分で出てこなくても私は文句は言いません
あの騒動の混乱を経験した私は
いまだ吉野家の牛丼を食べられる事を感謝しています
だから、古い吉野家ファンの私は今日も牛丼を頼み
なかなか出てこないなあと思いながらスマホをポチポチしつつ
早かった吉野家の牛丼を懐かしく思うのでした
初投稿、小目汚し失礼いたしました