第九話「騎士団1」
「退屈ですわ」
フランソワはぼそりと呟いていた。
いつも通りと言えばそうだが、今日は特別退屈と言えた。
マイエンヌ公爵家の持つ騎士団、雌鶏の騎士団の訓練への見学。
今フランソワは訓練場でむさ苦しい男たちの訓練を座って眺めていた。
「壮観かと思いますが」
そう従者がフォローを入れる。
実際、公爵家の持つ騎士団である。
公爵本人ではないとは言え、その一人娘が見にきていることもあり訓練はいつも以上に力を入れていた。
型稽古から体作り、足並みを揃える行進といった形式的な物。
そして何より騎士同士の手合わせ。
並の冒険者や武道家が見れば手に汗握るものも少なくはなかったろう。
しかし、フランソワの求める刺激には程遠かった。
統率の取れた群としての強さ。
騎士団としては正解だが、足並みを揃えると言う個性のない形式には刺激を感じにくい。
1人の圧倒的強者の方がフランソワを満足させうるだろう。
それがわかっていたからこそ、来る前からフランソワは退屈な日になると思っていたのだ。
しかし。
「では、せっかくフランソワ公爵令嬢が観覧に来てくださっている!諸君!ひとつ見せ物でもお見せしようではないか!」
「あ、お嬢様、何か始まるようですよ」
退屈そうに訓練を眺めるフランソワに従者が話しかけ、フランソワは飲み物に口をつけた。
期待はしていないが、パフォーマンスがあるのであれば退屈も紛れよう。
そう考えてると、入り口から赤色の甲冑を身に纏った騎士が数名現れる。
雌鶏の騎士団の甲冑は青に統一されている。別の騎士団。
「薔薇の騎士団?」
「いかにも」
そう声をかけてきたのはでっぷりとした壮年の男であった。
「あらアキテーヌ公爵」
アキテーヌ公爵。
オンスの街に居を構えるもう1つの公爵家である。
精錬潔白、人格者と名高いフランソワの父親と異なり、あまり良い噂を聞かない人物。
しかし、だからこそと言うべきかその政治の腕は確かで、この街の宗教組織のトップとも繋がりがあり顔も広い。
フランソワも何度か話したことがあるが、見た目と性格はともかく嫌いな人物ではなかった。
「騎士団の視察とは珍しい。楽しめてますかな?」
「あまり」
端的に返すフランソワに、嬉しげに笑うアキテーヌ公。
何が面白いのかと不思議に思うフランソワだったが、アキテーヌ公はそれは何よりと口を開く。
「いやはや、フランソワ嬢が騎士団の視察なんぞ形ばかりで退屈させるだろうと思ったようでしてな」
どうにも、フランソワの退屈は想定されていたらしい。
当然と言えば当然。自分勝手に楽しみを見つけては手を伸ばす快楽の権化。
彼女の性格は社交界でも有名である。
騎士団もいつもの訓練に力を入れた程度では、退屈させると思っていたのだろう。
「そこで私の登場というわけです」
薔薇の騎士団。
この領地で広く信奉されている愛の宗教の騎士団であるが、ほとんどスポンサーであるアキテーヌ公の私兵としても動いていると聞いていた。
そして雌鶏の騎士団よりも、端的に言えば強い。
雌鶏の騎士団の弱さは偏に領主の平和主義にあるだろう。
人がいいと言えば聞こえはいいが、軍事力の強化に疎いのだ。
商業の腕もあり町は栄えているものの、同時にその利を狙う巨悪の眠る街でもありそれを排除しきれていない。
その点騎士団の育成はアキテーヌ公の方が得意で、騎士団の質も高い。
「つまり雌鶏の騎士団と薔薇の騎士団の手合わせがみれると?」
それは少し面白い、フランソワも笑みを浮かべる。
勝ち負けはともかく、そもそもこの街の二大公爵家の持つ軍事力をぶつけるという試み。
下手をすれば遺恨すら残りかねない、そして聞く人が聞けば批判もしようというマッチメイク。
悪くない余興である。
「うちからは3人、選りすぐりの騎士を用意しました」
当然のように真剣を携えた、真っ赤な甲冑に身を纏った3人の騎士がアキテーヌ公の後ろに並ぶ。
よりにもよって木刀でなく実戦。
怪我人で住むか怪しいような戦い。
流石のフランソワも、もう退屈とは言えなかった。
「素晴らしい余興ですわアキテーヌ公。そして」
こちらは誰が出るんですの?
そう問いかける前に1人の青年がフランソワに近づく。
若い。金髪に精悍な顔つきの美丈夫である。
「僭越ながらフランソワ嬢、今回は私」
騎士団長スバリが出させていただきますと。
フランソワに跪いた。
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本作主人公フランソワも登場する『邪教徒召喚 ー死を信奉する狂信者は異世界に来てもやっぱり異端ー』は下記リンクか作者マイページよりよりお読みいただけます。




