第七話「賭場3」
「そう、その通り!」
ジョーゴ肯定し、横に立つ彼のディーラーも頷く。
要はランダムで引かれる1から9のカードに近いものを当てるゲーム。
同じ数字を当てるのであれば確率は単純に1/9、どれを選んでもいいだろう。
しかしこのゲームは近い数字を当てる、つまり。
「こんなの、5以外選びようがありませんわ」
近い数字という意味では1から9の真ん中の数字、5を選んでおけば安全ということになる。
少し考えれば誰だってそう選ぶだろう。
だからフランソワは9という数字に疑問を持ったのだ。
1から10で選ぶのであれば、5と6が同時に一番安全な数字になる。
要は高い数字が出るか低い数字が出るか。
ゲーム性も生まれるだろう。
「それがいいんじゃねえか」
しかし、そんな数字の計算を嘲笑うように男は話す。
「確率の計算、心理的駆け引き、手先の技術」
そんなものは賭け事において不純物でしかない。
そう断言する。
「そういうことがしたいなら他のことをすればいい。世の中には腕を磨いて勝敗を決めるものが溢れている」
だが、賭け事は違う。
純粋な運で全てを決める。
だからこそそこには勝ちも負けも平等に存在し、確実性がない故に熱が入る。
「勝ちが決まった試合も、負けが決まった試合もない。完全な運だけの勝負。それこそが賭け事の醍醐味だろうが」
純粋なギャンブラー。
彼の強みはその胆力にあるとフランソワは考えた。
「なるほど、だからこそこの勝負。あなたのやりたいことも見えました」
それはつまり。
「相手に5を選ばせて勝つ、でしょう?」
計算で安全策を取った、確率の高い選択。
それを捻り潰す。
その快感がわからないとは、フランソワにもいえなかった。
「それは二流との楽しみ方だ」
しかしフランソワの言葉に男は冷静に返した。
「一流同士はそうならない」
脳を止めて5を選ばない。
その通り、フランソワは笑みが溢れる。
そんなつまらない選択をするくらいなら死んだ方がマシなのだ。
「いいでしょう。あなたの賭け事への執念。伝わりました」
内容はそれで構いません。
ディーラーもお連れの方で結構。
「ただし」
相手の決めたゲーム、相手の連れてきた人間。
それを良しとするフランソワに若干心配の声も上がったが、同時にフランソワは提言する。
「まず賭け金が少なすぎますわ」
そう呟きパチンと指を鳴らすと、彼女の後ろからコインの山が用意される。
賭場の収益に影響が出ると言われた目の前の男のコインの数倍、ジョーゴのコインが少なく見えるほどのコインの山。
「先程換金させておきました。私と差しで賭け事をするのにその額では物足りませんわ」
もちろんそちらの掛け金はその額で結構。
こちらが負けた時だけこのコインをお渡しします。
「まあ、このコインの額も所詮は端金なのですけどね」
そうゲームの根幹を揺るがすほどの大金をはした金額と言う彼女。
場の空気は一気に熱を帯びる。
「なるほど」
逆にジョーゴは考える。
彼のレディに対する挑戦は賭場で得たその大きな勝ち金にあった。
異例なほどの賭け事の強さ、それを証明する賭場をも困惑させるコインの山。
それを塗りつぶすような大金の圧力。
圧倒的な力を見せつけてくる。
しかし、そんなもの関係ない。換金してきたということはレディのコインの山はその財力の証左であって、賭け事の強さの証明たり得ない。
安い挑発だと笑う程度である。
「2点目、数字の宣言ですわ」
初めにに互いの数字を宣言し、そのあとディーラーの引いたカードとの数字の差を確認する。
「順に数字を言えば後者が圧倒的に有利なのは明白。なので」
フランソワが話すタイミングで、付き人が近寄る、
「書き物を用意させました。これに望む数字を書いてディーラーに渡しましょう」
順当な考えである。
ジョーゴも声に出して宣言させる気はなかった。
相手の選んだ数字を前提に数字を選べるのは強すぎる。
例えば相手が5を宣言すれば、こちらは同じでも、上か下を推測して4や6を選ぶことができる。
相手が8などを選べばよりわかりやすい。7を選んでおけば確率的にはかなり安心と言える。
書き物に問題がないことを確かめ、ジョーゴも了承する。
「では、始めましょうか」
前提が長くなったが、単純なゲーム。
紙に書いてディーラーに渡した数字と、ディーラーが引いた数字。
その近い方が勝ち。
男はすぐに書き終え、手元を隠しながら時間をかけるフランソワを待つ。
そしてフランソワがやっと書き終えると。
互いが紙をディーラーに渡した。
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本作主人公フランソワも登場する『邪教徒召喚 ー死を信奉する狂信者は異世界に来てもやっぱり異端ー』は下記リンクか作者マイページよりよりお読みいただけます。