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第五話「賭場1」

「レディ、少々よろしいでしょうか」


 レディ、それはフランソワの賭場での名である。


 フランソワは賭場に来ていた。彼女はこの賭場のスポンサーでありながら熱烈なギャンブラーでもある。

 しかし今は何か賭け事をするでもなく、椅子に座り何をするかを考えるだけの時間を無為に過ごしていた。


「何?」


 そんな中、フランソワに話しかけたのは1人の従業員である。

 フランソワは彼の方を見もせずに返した。


「その、向こうの賭け事で少々勝ちすぎている客がいまして」


「そう」


 一概にはいえないが、賭場において勝ちすぎると言うことはあまり運営にとって良いものではない。

 賭け事の種類にもよるが、賭場側が赤字になるような勝ち方をされるともちろん困る。


 しかし、フランソワは興味を示さなかった。

 運営側の人間である以上報告が来るのはいいが、別にどうするつもりもない。


 たまに大きく勝つ人間がいたとして、多少収支に影響が出ても長い目で見れば誤差である。


 この賭場は主に貴族階級の人間の隠れた遊び場。当然勝ちすぎたから制裁をなどということもない。

 そういうことがあったのねと頭に入れるだけである。


「いや、それがですね」


 しかしどうにも従業員の口調はそれで済む話ではないようだった。


「その、金額が大きいのも問題なのですが、その男がレディとの賭け事を望んでいるようで」


 彼の勝ち金を聞くにフランソワの想像の10倍の額は勝っているらしい。

 異例の事態といえよう。相当な賭け事の腕前。


 そしてその彼が何故かフランソワと賭けを申し出ている。

 言いづらそうに言う彼の目を見ることもなく、フランソワはすっと立ち上がった。


「わかりました」


 少し興味が湧いた。

 フランソワは思う。


 賭場の運営という悪事も、賭け事というリスクある行為も彼女の退屈を紛らわせ続けるには足りなかった。


 しかし賭け事も相手次第である。

 その相手が彼女の退屈を打ち消すほどの存在であるのなら。


 その指名に乗ってみるのも悪くはないと思ったのだ。


 彼女が歩くと、目の前から人が消える。

 仮面をつけ、お忍びという形とはいえ貴族が集まるこの場であっても。


 フランソワ公爵令嬢でなく、一介のギャンブラー。レディであっても。


 彼女は変わらない。


 そうやって人混みを意に介さず、フランソワは聞いていた場所まで歩く。


 確かに賑わっているようで、人も多かったが、フランソワを見るや否や人々は道を開け。


「あんたがレディかい」


 無頼、そう言っても差し支えないだろう。


 貴族の遊び場には場違いな、傷だらけの大男が場を支配するように大股を開いて座っていた。


 しかし男の格好は二の次である。

 そこに高く積まれているのはこの賭場のコインであり。


 顔を青くしたディーラーがこの場の状況を十二分に物語っていた。


「あんたと賭け事をしたい」


 そうにやりと笑う男の隣に、フランソワは無言で座った。



お読みいただきありがとうございます。


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本作主人公フランソワも登場する『邪教徒召喚 ー死を信奉する狂信者は異世界に来てもやっぱり異端ー』は下記リンクか作者マイページよりよりお読みいただけます。

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