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第三話「婚約破棄3」

「ここに集まるのはフランソワ嬢が賭場に関わることを知る賭場の関係者や善良な市民の方々です!さあ」


「いえ、証人の発言は結構です」


 見せ場とばかりに王子の前で大見得を切る王子の付き人に、フランソワは言う。


 出鼻を挫かれた、そういった沈黙が一瞬場を支配する。

 王子の付き人はフランソワの言葉を妨害と考え、一瞬遅れて変わらず証人の紹介を続けようと考えた。


「認めましょう」


 しかしその思考もまた一瞬にして打ち砕かれる。

 

 証人を紹介するまでもない。フランソワはあっけなくも、そして早くも証拠を聞きもせず認めると話す。


 王子の前でフランソワを陥れる見せ場を奪われた付き人は、少し複雑そうに様子を見守るように押し黙ったが、ファンはその肯定とも言える態度に高揚する。


「証人までいらっしゃっては仕方ありません」


 そう言いながら、フランソワは立ち上がった。


 彼女が本日椅子に座り、立ち上がるところを誰もが初めて見た。

 見て理解するのだ。


 貴族の在り方は立ち振る舞いにこそ如実に現れる。


 彼女は、自分が絶対であると信じて疑わない。

 絶対にして至高。全ては自分のためにある。


 欲に溺れ、見えを張り、虚勢で生きる貴族にこそわかる。

 彼女の欲の深さ、そしてその絶対の自信。


 この窮地でも、フランソワの態度が虚勢でなく、彼女が全く追い詰められていると思っていないことが明白であった。


 そして彼女はゆっくりと、未だ自分が主役だと言わんばかりに堂々と、壇上へ足を運ぶ。


「もし、多くの証人が口を揃え、私の糾弾し、悪だと言えば、私も大人しくお話ししましょう。とても残念ですが私にもどうしようもなく」


 全ての罪を話すことになるのでしょうね。


 そう言い放つ。


 ファンは自分の元に向かってくるフランソワから目が離せなかった。


 カリスマ、そういうべきか。

 まるで自分が追い詰められ、ともすれば逃げ出したくなるほどの圧を感じる。


「ええ、お話しするでしょう。違法賭場の運営」


 実質的な敗北宣言。

 所詮礼儀作法はなっていても、ただの一貴族令嬢。


 取り乱し、格を落とさないのが精々と見える。


 しかし、次の言葉はこの場の全員の想像を覆した。


「宗教団体との癒着行為、公共事業の恣意的な依頼先選択、某貴族達との奴隷利用、犯罪組織との契約、犯罪行為の隠蔽、一般市民への迷惑行為」


 これらは私の知る、もしくは関わる犯罪の一部ですが。

 全てをお話しすることになるのでしょうね。


「は……?」


 絶句。

 ファンは興味なさげに壇上に上がるフランソワに身動き一つ取れない。


「まさか違法賭場の検挙一つではないでしょう。私の全ての悪事をお話しすることになるでしょう」


 そんなことはない。

 と言うよりそんなことは知らない。


 ファンも付き人も、気づいてもいなかった。

 それはフランソワという人間の隠していた犯罪ではなく。


 その本質的な、凡庸な人間が人間が悪としか呼べない何か。

 しかしそれとは決定的に違う。


 その歪み。


「仕方のないことです。このような大勢の貴族の方々に悪事の証拠を広げられては私も言うしかなくなるでしょう」


 では、どうぞ。


 フランソワは、そこで簡単に。


 発言権をファンに戻す。


「えっ、その」


 動揺するファンと違い、先程遮られた証人の発言を続けろと言うことだと付き人は理解する。

 先程証人の発言に結構といいながら、証人の発言があれば自白すると言う。


 適当な女だと思いながらも、やることは変わらない。


 彼女は証人を紹介しようとし。


「本日の主役、フランソワ・マイエンヌ嬢の素晴らしい挨拶でした。皆様、大きな拍手を」


 その行為は、司会の言葉に遮られる。


「いや、ちょっと」


 あまりに空気を読まない進行。

 これからフランソワの悪事を暴こうという中で突然の遮り。


 それにも関わらず、場の人間たちは疑問を感じさせることなく従った。

 ファンたちの告発などなかったかのように、フランソワの言葉が単なる誕生会の挨拶であったかのように笑顔で拍手を送る。


 先程まで突然の告発に様子を伺うばかりだった連中が、1人残らず豹変する明確な違和感。


「どうなって」


 まるで、時空でも歪んだかのような周りとの差異。

 すべきことを失った付き人が動きを止め、思考すらままならなくなる中、ファンは考える。


 しかし、ここにいる全ての人間が、まるで壇上に立つファンたちなどいなかったかのように歓談を始めるのを見ると、その気味の悪さに目が眩んだ。


「何故?そう考えてますね」


 呆然と立ち尽くすファンの前に、いつの間にかフランソワ立っていた。


 初めてかもしれない。彼女がこうやってまっすぐに自分と会話をするのは。

 なんと、綺麗な目だろう。


 そういった想いを、ファンは即座に打ち消した。


「しょ、証拠は握った。まだ他にも物的なものも、この場にいない証人だって」


 ファンは諦められないと、どこか言い訳をするように、縋るようにフランソワを見る。


 対するフランソワの目は冷たかった。


 飽きた。

 明白にわかる感情がファンに届く。


 ファンは口をつぐんだ。


「生誕祭という場での婚約破棄、悪事のお披露目。インパクトとしては悪くありません」


 フランソワは、検算するようにファンを見据えた。

 それに元気付いたのか、ファンは少し笑みを浮かべ返す。


「そ、そうだ!この場じゃ貴方も逃げられない!そして僕には確実に、大勢の貴族や領主、父上に発言できる場でもある」


 完璧だったはずという彼に、フランソワは呆れたように肩を落とす。


「では試してみましょうか?」


 そういうと、フランソワは場の全員に向かう。


「私は違法な賭場の運営に手を貸し、あまつさえ奴隷商から手を借り人員を増やし、自身も領民からの税を使い遊ぶこと毎夜。もし問題の声があればすぐ、全ての罪を曝け出しましょう」


 ファンは絶句する。

 それは証拠のうちの1つ。自白である。


 これを言わせるためにファンは長い時間をかけてこの場を用意したはずなのだ。


 しかし、場の状況は変わらない。

 誰1人、フランソワの言葉など聞こえていないかのように、ただ歓談を続けるのみである。


「どうなってる」


 ファンが声を漏らすのもおかしなことではない。

 しかし現状、フランソワが罪を打ち明けようが、状況は何も変わらないのだ。



お読みいただきありがとうございます。


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本作主人公フランソワも登場する『邪教徒召喚 ー死を信奉する狂信者は異世界に来てもやっぱり異端ー』は下記リンクか作者マイページよりよりお読みいただけます。

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