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第二話「婚約破棄2」

 次期王妃。

 その言葉でこの糾弾の大きさが改めて感じさせられる。


 皇太子と領主の娘。この国では国家とオンスの土地が対等とすら言える。

 だからこそお互いがお互いと悪い関係を持ちたくない。その結果の婚約でもあった。


 皇太子の演説は一旦区切られる。

 その目線はフランソワ・マイエンヌに向けられていた。


 どう申し開くつもりか。

 申し開けるわけもない。多くの人間がそう思った。


 いくら領主の娘とは言え、本格的な統治には携わっていないはずの、ただの小娘である。

 まして皇太子という上位の権力者からの糾弾、泣いて詫びるのが精々と言える。


 フランソワはそういった周りの推測を想像し、じっと周りを見る。

 何も話さず、ただ皇太子を見た。


 皇太子も何も言わない。ここで重ねて詰め寄るのは二流である。

 現在の沈黙が続けば心象が悪くなるのはフランソワである。それは皇太子の言葉に何も返せないということの証左なのだ。


 なのでただ反応を待つ。フランソワはそれを察し。


 少し口元を緩めた。


「証拠は」


 小さい、この場全員に対し演説のように話す皇太子と異なり、ただ皇太子にのみ話しかけるような声。

 通常の会話のようなあまりにも普通のトーンで、フランソワは初めて言葉を発した。


「私が悪事に手を染めた、証拠がありまして?」


 ゆったりと、まるで茶会のひとときのように語りかける。


 あまりにも動じない。ともすれば冤罪なのではと思わされるほどの余裕。

 しかし彼女の父親、領主だけは娘の変化に気づいていた。


 楽しんでいる。


 同時に何故楽しめるのか疑問に思う。

 皇太子は証拠もなくこのような大事を起こす阿呆ではない。


 領主の危惧の通り、フランソワの言葉にファンはどこか自慢げに笑う。


「ああ、もちろん用意してある」


 ファンは証人を連れてきていると話す。

 犯罪その場面を残す技術などない故に、証拠として用意できるのは証人か、自白か、現行犯くらいなものである。


 その中で彼は証人を選んだということだ。


「フランソワ・マイエンヌ嬢の悪事を知る者を20人連れてきている。1人ずつ聞いてもらおうか」


 20人、その数の多さ。

 フランソワは、笑みをもう隠さなかった。


 相当な仕込み。一体いつから用意していたのか。

 フランソワの賭場運営への手回しは相当入念に行われている。


 口を割るものなどほとんどいないはず。

 そもそも証拠を握れる人間を探すこと自体が難しいはずなのだ。


 それを20人、前の生誕祭、否さらにその前にはすでに用意が開始されていたほど長い期間だと言っていいだろう。


 賭場の従業員、貴族、たまたま目撃した一般市民。

 中身の検討はある程度フランソワにもつく。


「なるほど」


 フランソワは納得したように呟くと、次の言葉を待たずに扉が開かれる。


 入ってくるのは20人の証人。賭場の関係者等、フランソワが知っている者も何人か見受けられた。


「私たちがその証人です」


 そう言って先陣を切り名乗り出たのはファンの横に立つ1人の女性。


「知らない人ね」


 フランソワは興味なさげに呟く。

 それが聞こえたように、彼女はフランソワを睨みつけながら話した。


「私はファン王子の付き人をさせていただいている者です。王子の命にてフランソワ嬢の身辺調査を行っておりました」


 つまりは実行者。

 フランソワも皇太子が自ら張り込みや聞き込みをしたとは思っていなかったが、なるほど。


 懇意にしていた付き人が率先して行っていたということらしいと納得する。

 さして興味もないのだが。


「その結果明かされたのはいかに彼女が悪徳で、王子にふさわしくない愚かな女であるかということ!」


 大きく出た。周りの貴族がそう思うと同時に、フランソワはむしろ冷めた感情を持った。

 王子の付き人とは言うが、王子の命だとしても仮にも公爵令嬢であるフランソワへの身辺調査。


 一歩間違えれば不敬で首を飛ばされる危険な行為。

 そしてこの憎しみにも満ちた目。


 王子との色恋が絡んでいると推測するのは簡単であり、フランソワへの感情もわかりやすかった。



お読みいただきありがとうございます。


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本作主人公フランソワも登場する『邪教徒召喚 ー死を信奉する狂信者は異世界に来てもやっぱり異端ー』は下記リンクか作者マイページよりよりお読みいただけます。

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