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第十六話「冒険者ギルド4」

「まだ、負けて」


 そう呟く少年の目の前で。


 2体のアロンダ狼が、落雷に打たれたように突然光り、炭化する。

 否、表面が焦げたように煙を放っただけであるが、それでも突然の光と激しい発熱がアロンダ狼を襲ったことは間違いなく。


 アロンダ狼はそのダメージに倒れる。


「ほら、早く首を斬ってしまいなさい」


 そう口元を抑えながら、フランソワは少年に指示を出す。


 少年は一瞬何が起こったのかわからない様子だったが、また襲ってくると思ったようで急いでトドメを刺した。


「これでいいわね。あとこれを」


 フランソワは少年に、一枚の紙を渡す。


「治癒の祈祷がかけられた魔道具ですわ。怪我した部分に貼り付けておきなさい」


 その程度なら今日中には治るでしょう。

 そう話すフランソワの言葉を、呆然と聞きながら少年は言われるがままに紙を腹に貼る。


「い、今のは?」


 少年が目を丸くしながらフランソワを見て、そしてその手に持った日傘に目をやる。


「落雷を溜める魔道具ですわ」


 フランソワは大したことでもないというように話したが、少年はわかっていた。


 その傘も、そして少年の腹に貼った紙も。

 少年では、否、普通の冒険者では手の届かない高級品。


 傘に関しては買うこと自体が困難なほどの貴重品である。


「どうしてそんなものを」


「どうしてって」


 戦いに行くのですから、用意くらいしますわよ。


 当然のことのように言うフランソワに、少年はそういうことではないといいたかったが、言葉は出なかった。

 もはや助けられたと言う恥すら吹き飛んだように、ぽかんとしたままの少年をフランソワはギルドに送り届ける。


「なんとかなりましたわ」


 そう話すフランソワは、カーマに礼を言われると同時に、踵を返す。


「あんたが助けてやったんだろう。初めてなのに大した腕じゃねえか。どうだ話でも」


「いえ」


 もうここには来ませんので。


 そう冷たく話すと、フランソワは登録もせずに冒険者ギルドを後にした。


「刺激的では、ありましたね」


 フランソワは思い返す。


 少年の命懸けの戦闘、想定外の事態。

 生命を脅かす恐ろしさとそれを乗り越える達成感。


 フランソワの求めていたものがそこにあった気がした。


 しかし、少し違う。

 戦闘が好きでないと言うのもあるが、それ以上に思うことがあった。


 フランソワは、強い。

 それは今日のような財にものを言わせた高価な武器を無数に用意でき、自身もまた公爵家の剣術修行を受けていることもある。


 その辺の魔物では相手にならないだろう。


 そしてもう一つ。


 ではそれらを使わずに、あるいは使っても勝てない魔物に挑みに行くとする。

 それは危険であり、リスクある行為である。


 しかし。


「ただ危険なだけの行為って、自殺と何が違うのかしら」


 今日の少年を見ても思った。

 自身の勝てない魔物に挑む。


 そして周りの忠告もいざと言った時の備えも用意せず。

 今回は例外にしても、巣穴を調べれば他のアロンダ狼の可能性も考えられたろうにそれも怠る。


 危険だろう。

 しかしそれは危険なだけで、刺激的でも享楽的でもなんでもなく。


「単なる退屈な死じゃありませんの」


 そんなものを求めているわけではない。

 危険な場所に行けば退屈も凌げるかと思ったが、どうやらそうでもないらしいとフランソワは考える。


 フランソワ・マイエンヌ。

 彼女の退屈は、収まらない。


お読みいただきありがとうございます。


少しでも面白いと思っていただけたら、『ブックマーク』と広告の下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価いただけると幸いです。


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本作主人公フランソワも登場する『邪教徒召喚 ー死を信奉する狂信者は異世界に来てもやっぱり異端ー』は下記リンクか作者マイページよりよりお読みいただけます。

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