第十五話「冒険者ギルド3」
「お姉ちゃんは離れててね」
少年は慣れた手つきで剣を構える。
それを見てフランソワは日傘を閉じ、見守る体制に入った。
既に向こうはこちらも気付いている。否、アロンダ狼の性質を考えれば向こうが先に気づいていたはずである。
縄張りに来た人間に対し、逃げなかったということ。
それはこちらの戦力が低いと判断されたことに他ならない。
「まあ、とりあえず見学ですわね」
緊張感のないフランソワの呟きと反面に、少年とアロンダ狼はじりじりと距離を詰めていった。
そして、一定の距離まで近づいた瞬間。
「おりゃあ!」
まだ剣のリーチの外にいたアロンダ狼に対し、少年は飛びかかり斬りつける。
攻撃範囲に入っていない状態での突然の攻撃、真正面からの奇襲。
そんなものは。
警戒を続けながら距離を縮めていたアロンダ狼には反応できる範囲内であり、少年の振り下ろした剣を横っ飛びに躱したアロンダ狼は、攻撃の隙を逃さない。
剣を振り下ろし無防備になった少年の側面から、アロンダ狼が飛びかかる。
「危ないですわね」
それを剣を振り下ろした状態から。
流れるような動作で少年は、アロンダ狼の顔面を切りつけた。
「浅いか」
フランソワは思っていたより動きの良い少年を見ながら考える。
剣を振り下ろした後の動きを想定した訓練。
当然ではあるが、彼もただ剣を持っただけの少年でなく、何かしらの剣術を習っているということなのだろう。
アロンダ狼に対する切り返しは浅く、目もつぶせていなかったが同格以上に立ち回っていた。
一瞬、斬られたことに動揺しバックステップで距離を取るアロンダ狼。
その一瞬を逃さず、少年はさらに切りつけに入り。
そして、アロンダ狼を斬りつけ。
もう一体後ろから現れたアロンダ狼に、胴体を噛みつかれた。
「……え?」
2体いた。
さしておかしなことではない。
アロンダ狼は基本群れで行動し、それを強みとする魔物である。
仮にはぐれた2体が出会えば、行動を同じにするだろう。
フランソワは目を細めて、少し思考する。
順当に考えれば、巣に帰ってきたもう1匹が状況を見て奇襲をかけたと言ったところだろう。
少年の斬りつけは、もう一体のアロンダ狼による噛みつきにより浅く止まり。
少年は痛みに顔を歪めながら、剣を握り直した。
しかし、これ以上はなぶり殺しである。
2体のアロンダ狼は、円を描くように少年を取り囲みながら次の攻撃を、そして少年の消耗を狙っている。
警戒心の高い魔物だ。
先程の噛みつきから追い討ちをかけはしない。
一度距離を取り、出血と痛みで消耗する少年の隙を狙う。
「ここまでね」
もう少年は勝てない。想定外の敵に未熟な腕。
冒険者ギルドというものに対する理解も十分だ。
フランソワは帰り支度を始め。
傘をさした。
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本作主人公フランソワも登場する『邪教徒召喚 ー死を信奉する狂信者は異世界に来てもやっぱり異端ー』は下記リンクか作者マイページよりよりお読みいただけます。




