第十三話「冒険者ギルド1」
「依頼を受けたいのだけれど」
フランソワが話したのは冒険者ギルドなどと呼ばれる場所。
彼女はお忍びで、1人で街まで遊びに来ていた。
そして入ったのがここである。
冒険者などとつくものの、要は魔物討伐の依頼所。
フランソワが入った1階は飲み屋となっており、入り口にはこの場に似つかわしくない優しげな好青年が立っていた。
「依頼窓口は2階となっております。冒険者ギルドのご利用は初めてですか?」
お忍びゆえに普段のようなドレスでないが、それでも場所にそぐわぬ華美な格好。
折り畳んだ日傘に、小さなポーチ。
明らかに魔物退治に相応しくない格好の彼女を、青年は笑顔で接客する。
「ええ」
「でしたら登録が必要となりますので、まずは登録の窓口に話しかけください」
説明を受けるフランソワ。
そう、彼女は退屈のあまり魔物討伐の現場に行こうとしていたのだ。
刺激、そういう意味では最も彼女の望みを叶えうる場所。
それは魔物との戦闘の場にこそあるかもしれない。
実際、刺激や生きる実感を求めて冒険者になろうとする人間はさほど珍しいことではない。
そしてこの治安の悪さ。
冒険者ギルドにも種類はあるが、飲み屋が併設されていると客層は急に悪くなる。
その空気感もまた、フランソワの普段の生活では得られない刺激と言えた。
「ありがとうございます」
そう礼を言い、とりあえず2階に足を運ぼうとする。
「だからやめとけって言ってんだ!」
それを、酒場の怒鳴り声が止めた。
「あら」
治安の悪い場所に建てられた賭場に足を運ぶこともあり、特段柄の悪い人間の喧嘩に新鮮味を感じることはないが、なにぶん初めての冒険者ギルド。
揉め事の一つくらい見学するのも悪くないと思ったのだ。
「カーマ」
足を止めたフランソワの脇を、先程話していたボーイのような男が歩く。
酒場での揉め事はやはりご法度のようだが、様子を見ていると単なる喧嘩ではないようであった。
揉め事の中心では、カーマと呼ばれた大男と1人の少年がいた。
怒鳴りつけたのはカーマという男だろう。
それを取りなすようにボーイのような男が話に割って入った。
一瞬物騒な話だと思ったが、フランソワは即座にそうでないと気づく。
「問題ないよ。はぐれアロンダ狼1匹くらい僕でも倒せるよ」
「わからねえだろ。何が起こるかわからねえから危ないって言ってんだ」
どうにも、カーマという男は少年の依頼内容を心配して怒鳴っていたらしい。
粗暴な大男に見えるが、存外繊細でお節介なのだとフランソワは思う。
「いいか?お前の力量じゃ周囲に何もない前提で、大怪我しながら1匹倒せて御の字だ。倒せても帰って来れんかもしれん。行くならせめて俺を連れて行け」
「嫌だよ。僕だけでやるから意味があるんだ」
「俺でも2匹以上なら1人じゃ行かねえ相手だぞ」
堂々巡り、そこにボーイのような男も合わさっても少年の意思は固いようだった。
そんなに危険な依頼なら運営が禁止にすればいいのにとフランソワは思ったが、聞いている限り少年たちもある程度依頼をこなし、規則上アロンダ狼の討伐に向かうことは問題ないようだった。
ただカーマという男曰くまだ早いということで、フランソワも本で読んだ知識で考えると簡単に倒せる魔物とは思えなかった。
しかし付き添いすら断る彼らとの話は終わらない。
「行かせてあげればいいではありませんの」
そこに。
空気も読まずに、フランソワは歩み寄った。
「ああ?」
カーマは突然割り込むように声を上げた高慢そうな女の登場に、いささか不思議そうな声をあげる。
「規律で問題ないのに大人のエゴで少年の行動を制御するのは可哀想ですわ」
「いやそうは言うがな嬢ちゃん」
カーマは初対面の相手に正論をぶつけられ困ったように頭を掻く。
「怪我の1つや2つで済めば俺も勉強だと言えるが、こいつじゃ」
「あら、彼らを馬鹿にしますのね。私には立派な戦士に見えますわよ」
死んでしまうかもしれない。
そう話そうとするカーマを遮って、フランソワは少年を褒めた。
「そうだ!僕はもう立派な冒険者なんだ!」
そう12歳程度の子どもが言い始め、カーマは余計なことをと言う目でフランソワを見る。
「ところで、私は冒険者ギルドに来るのは初めてなのだけれど」
カーマはよく初めてでよくここまで首を突っ込めるなと呆れ。
「せっかくだから先輩たちの活躍を見に、見学させていただけないかしら?」
その落とし所のうまさに、舌を巻いた。
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本作主人公フランソワも登場する『邪教徒召喚 ー死を信奉する狂信者は異世界に来てもやっぱり異端ー』は下記リンクか作者マイページよりよりお読みいただけます。




