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第十二話「騎士団4」

「お、お嬢様」


 フランソワが廊下を歩いていると、1人の従者が駆け寄ってきた。


 予定があるわけではない。しかしフランソワは自由奔放とは言え貴族。

 学業含めあらゆる教養、能力、そして顔を出すべき場所に、若いながら領地の統治についても関わっている。


 つまり基本忙しい身である。加えて誰にでも優しい人間ではない。


 ただ、その従者の表情はあまりにも必死であり、フランソワが足を止めるに十分なほどであった。


「何?」


 端的ではあるが、本来報告などあとに纏めてさせるもの。

 今この場で聞くと言う行為が、フランソワに限らず珍しいと言えた。


「その、先日の」


 そんな中、従者の言葉は息も絶え絶えでどうにも要領を得ない。

 貴族によっては不敬とする者も多いだろうが、だからこそフランソワはその状況に、そしてその内容に少々関心を示した。


「先日の騎士団訓練の視察を覚えておいででしょうか」


「ええ」


 騎士団の視察。

 飽きっぽいフランソワであるが記憶力は確かである。


 そんなこともあったなという程度に風化していたが、忘れてはいなかった。


「その際お嬢様と話をした騎士団長なのですが」


 それは覚えていた。

 フランソワの最近の退屈の中でも、彼の活躍は楽しめるものであった。


 近況があるのであれば聞くのもやぶさかではない。


「先の、国王様の任務の途中で、殉職致しました」


 そう、少し期待をして聞くと、従者は沈痛の面持ちで話した。


「殉職?」


 つまり、死んだ。


 国王の任務については、大したものではなかったはずである。

 任務というよりは挨拶、自領の騎士団の紹介の側面が強いはずだ。


 その中でもちろん腕前を見せるために戦闘もあったろうが、死者を出すほどの任務に他領の騎士を就かせない。


 そう、思った。


「はい、魔物との戦いで不覚をとり」


 そう話すと、彼女は涙ぐんでいた。


「お嬢様に恥じない活躍を。任務先でもそう言って憚らなかったそうです。そうして張り切った故だと」


 あんなに。

 あんなに強く、精悍で、忠義深く。


「お嬢様のことを思ってらっしゃったのに」


 そう話すと、従者は顔を抑え泣き崩れた。


「そう」


 それを聞いてフランソワは。


「残念ね。では騎士団に通達と、今後の指揮形態について報告させなさい」


 淡々と、指示を出し、歩き始めた。


「お、お嬢様」


 泣いていた従者は驚いたように顔を上げると、フランソワを呼び止める。


 しかし、彼女の顔を見て、言葉を飲み込んだ。


「いえ、失礼いたしました」


 退屈。

 彼女の顔にはそれしかなかった。


 悲しい、辛い、驚き。

 そんなものは欠片ほどもなく。


 一歩間違えればその程度の報告に足を止めさせるなと言われないばかりの、つまらなそうな。


 いつも通りの表情がそこにはあった。


 退屈である。

 フランソワは今もそう思っている。


 死人に価値などない。

 彼は面白い人間だとフランソワは感じていたが、結果は任務に失敗し死亡。


 きっと、彼のいう誇りを胸に死んだのだろう。


 彼についてフランソワが思っていたのは1つである。


 彼は、満足していた。

 それは、フランソワと真逆の性質である。


 何をしても、何があっても満たされず、退屈であり続けるしかない彼女と違い。

 彼はただ今のままで満足できた。


 面白い人物だった、だがそれだけだった。


 あの時の出来事を確かにフランソワは楽しんだが、彼にまた会いたいとは思えなかった。

 満足した人間は、そこで止まる。


 フランソワをまた楽しませることは、できない。


 刺激とは変化、フランソワの求めるものとは正反対の性質なのだ。


 フランソワ・マイエンヌ。

 彼女の退屈は、収まらない。




お読みいただきありがとうございます。


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本作主人公フランソワも登場する『邪教徒召喚 ー死を信奉する狂信者は異世界に来てもやっぱり異端ー』は下記リンクか作者マイページよりよりお読みいただけます。

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