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第十話「騎士団2」

「騎士団長?」


 目の前の若い青年に対し、アキテーヌ公が疑惑の視線を向ける。


 若い。歳は18程度だろう。

 騎士団長は歳で決めるものではないが、実績無くしてなれるものでもない。


 「はい、先日から一時的にではありますが、騎士団長の座をいただいております」


 現在の正式な騎士団長は事情あって療養中という話らしい。

 そしてその、いわば代理として彼が騎士団長を務めているとのことだ。


「つまり本来は副団長だと?」


「いえ、元は役職なしの騎士でした。今回の代理で立ててもらったに過ぎません」


 アキテーヌ公は考える。

 本来騎士団長が欠ければ副団長が代理をするだろう。


 それを一騎士に過ぎない若者に任せた。理由は経験を積ませるためだろう。


 それはつまり彼が優秀であることの証左ではあるが、それにしても異例である。

 例え強さがあったとしても、騎士団長の仕事は指揮なのだ。


 必要な経験か?とアキテーヌ公は訝しんだ。


「困惑されるのも無理はありません」


 しかし、そうアキテーヌ公の表情を見てスバリはにっこりと微笑んだ。


「この手合わせでご納得いただけるようにします」


 結果を出す。


 そういった宣言は嫌いではない。

 アキテーヌ公は楽しみを笑みに表す。


 騎士団長として今回の手合わせの指揮を十二分に取れるのであれば、文句のつけようもあるまい。


「で、いつ始めるんですの?」


 アキテーヌ公が納得する中、問答など不要とばかりにフランソワが口を挟んだ。

 結果を出すという宣言は嫌いではないが、言わずとも出して目の前に見せる。


 それを求めるくらいの、要はせっかちさがあった。


「ええ、シンプルにここは」


 私1人と、お連れの騎士団3人で構いません。


 その言葉にアキテーヌ公は笑う。


 若い。

 先程騎士団長としての能力を見せるのであれば、手合わせの指揮、後方に立つ在り方を示すと考えた。


 しかし彼が見せようとしているのは個の強さ、それも無理難題。

 フランソワ嬢の前と意気込んだ結果、空回りした結論を出したと考える。


「それは期待できますわね」


 逆に、フランソワは興味をそそられる。

 無理難題に挑むこそ刺激である。


 3対3の戦略の良さなど語られるより、目の前で強者を3人倒してくれた方が面白い。

 無論できなければ何の価値もないが、見応えはあるだろう。


「フランソワ嬢の期待に添えるよう、全力を尽くします」


「楽しませてくださいね」


 そう応援とも言えない言葉を授けるフランソワに対し、スバリは仰々しく目を閉じ頭を下げると立ち上がった。


「良い若者ですな」


 アキテーヌ公は純粋にフランソワに称賛を送る。

 若く未熟な思考だと考えたが、騎士団長を任される才覚と自分への自信。


 そして騎士としてフランソワに傅く忠誠心まで純粋に見えた。

 嫌いなタイプではない。手元に欲しいとすら思えた。


「勝てればですがね」


 対してフランソワは冷たい反応である。

 自分への忠誠心など大した評価に入れない。


 騎士団長を任された理由も不明瞭な今、さして評価できるポイントがあるとは思えなかった。

 顔のいい将来を嘱望された若者が、騎士として自分に傅くという状況は見るものが見れば理想の状況であるが、フランソワの価値判断基準にはそれら全てが存在しない。


 そして試合は淡々と始まり。

 まさに殺し合いと言っても差し支えない、真剣を持ち出し襲い来る薔薇の騎士団3人に対し。


 スバルは当たり前のように、武器も持たず兜も被らず、素手で倒し切った。



お読みいただきありがとうございます。


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本作主人公フランソワも登場する『邪教徒召喚 ー死を信奉する狂信者は異世界に来てもやっぱり異端ー』は下記リンクか作者マイページよりよりお読みいただけます。

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