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第一話「婚約破棄1」

「フランソワ・マイエンヌ嬢、貴方との婚約を破棄させていただく」


 壇上から言い放ったのはフランソワ・マイエンヌの婚約者、ファン・ヴァンロードである。


 顔つきこそまだ幼さを残すものの堂々とした態度からは、若干17歳ながらも皇太子としての才覚を感じさせられる。


「なんと……」


 その場にいた全員が言葉を失う。

 当然のことである。本日はオンスの街の領主マイエンヌ家の一人娘、フランソワ・マイエンヌの誕生記念パーティであった。


 フランソワ・マイエンヌの父が治めるここオンスの街はこの国最大の商業都市であり、領主は国王に並ぶ権力者である。


 そしてフランソワとファンは婚約しており、当然この場には国王と領主も参加している。

 ヴァン国でもこれほど豪華な催しは珍しい。


 そんな中で婚約者、ファン・ヴァンロードの挨拶は異様としか言えなかった。


 全員があたりを見渡し、3人の人間を盗み見る。


 国王、領主、フランソワである。


 国王は微動だにしなかった。あらかじめ知っていたのか?あるいは王様が婚約破棄を命じたのか?そう言った予想が場に広がる。


 対する領主の反応は目に見えて明らかであった。

 動揺。皇太子の婚約破棄の言葉を聞くや否や、他の貴族たちと同じく驚きを見せ狼狽。

 今や誰よりも状況を読もうと必死になっていた。


 では、当の本人である、婚約破棄を言い渡されたフランソワ・マイエンヌは何をしていたのか。


 彼女は用意された本日の主役の席で、ゆっくりとした動作で砂糖をティーカップに入れ、口にする。


 彼女から言葉はない。

 当然である。この一言に即座に何かを言える者などいない。


 狼狽した父親のように表に出ないだけ優れている。

 実際は頭の中をあらゆる不安が蠢いているだろう。

 多くの人間がそう心配や、嘲けりの感情を交える。


 しかし、彼女を、フランソワ・マイエンヌという人間を知る者の意見は違う。


 彼女は口にしたティーカップを静かに置くと、このパーティ始まって以来初めて壇上の人間に目を向けた。


 フランソワは何も思っていない。

 ただ、少し、続きを聞く価値だけを見出していた。


 フランソワと目があったファンは、一瞬硬直した。


 初めてのことだったかもしれない。彼女がファンに正面から目を向けるのは。

 しかしその硬直も即座に消える。彼は堂々と言い放った。


「突然のお話申し訳ございません。しかしこのような場でしか彼女の、あの権力に溺れた恐ろしき女性の本性を皆様にお伝えすることはできないと思うのです」


 糾弾。場はさらに騒がしくなった。

 婚約破棄の理由がフランソワの不義にある。そういった旨の申告。


 それはつまり領主への糾弾にすらなり得る。

 これは大きな事件になる。全員が思い、領主は吐き気を抑える。


 しかしフランソワはまだ何も言わない。

 凛としている。皇太子の言葉を聞きフランソワを見た多くの人間が、その胆力を心のうちに賞賛した。


「それは彼女、フランソワ・マイエンヌの裏の顔。今も清ましたように聞いている彼女がその父親の権力の下どれほどの悪事に手を染めているか」


 そう言いながら皇太子が述べたのは驚くべき内容であった。


 それは違法賭場の運営への資金提供である。

 オンスの街では賭場の運営は禁止されている。しかしそれは表の話。


 金の回りのいいこの街である。裏では様々な賭け事が行われ、貴族階級専用の遊び場のようなものもある。


「フランソワ、この女は賭場の運営資金の補助をし見返りとして金銭を得ていたばかりか、あろうことか自分も賭け事に溺れ領地の金で毎夜遊び回る始末」


 投資のように賭場の運営費を出し、儲けを徴収する。

 そういったビジネスの面もさることながら領主の娘ともあろうものが自ら賭け事に溺れる。


 あり得ぬことである。ファンの言葉に場の貴族の一部は気まずそうな表情を漂わせた。

 この場にもその賭場に世話になった人間は少なくないのだ。


「このような女が次期王妃として私の婚約者であるなど言語道断、どう申し開きをなさるおつもりか!」



お読みいただきありがとうございます。


少しでも面白いと思っていただけたら、『ブックマーク』と広告の下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価いただけると幸いです。


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本作主人公フランソワも登場する『邪教徒召喚 ー死を信奉する狂信者は異世界に来てもやっぱり異端ー』は下記リンクか作者マイページよりよりお読みいただけます。

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