3月23日 功利的
つくづく最近の世の中はどうかしている。身の回りの人たちは私に対して功利的に接してくる。
例えば私の通う大学の教授は講義でこんなことを言っていた。
「このテキストを使うから必ず購入するように」
念を押すように何度も言っていた。そのテキストはどうやらその教授が執筆したもので学生が購入することで後から印税が入ってくるのだろう。ただ問題なのはさほどそのテキストを使わないにもかかわらず購入を促すことだ。自分の利益のことばかりで学生のことを考えていない。
こんなことは他にもある。大学内のサークルに入ろうと見学をしていたところ、
「この商品を身の回りの人に勧めて購入してもらう。そうするとその売り上げはあなたのもの。簡単でしょ。やってみない?」
というビジネスの勧誘をしてきた。他のサークルメンバーが乗り気だったため、思わず自分も引っかかってしまいそうになった。しかし、家に帰って冷静になって考えると、あれはマルチ商法か何かではないかとの疑念が浮かんできて、なんとか踏みとどまることができたのだった。
そしてまだまだある。私の好きな動画配信者が料理をする動画をあげていた。内容はふわとろオムライス作るという企画だった。雑談を交えつつ、調理のテクニックの解説しながら料理をしていた。ただ、動画の終盤になると、今回使ったフライパンの話になる。
「そういえば今日、油をひいてなかったですよね。そう、このフライパンを使えば油をひかなくてもオムライスが作れるんです。概要欄にリンクが張ってあると思うんですけど、製品ウェブページを見てもらうとですね――」
そこから延々とフライパンの製品紹介を始めるのだった。動画配信者として食っていくには仕方がないことかもしれないが、私はただ料理をする動画が見たかっただけだ。フライパンの広告を見たかったわけではない。
世の中はどうしてこんなにも功利的なのだろう。悲観的になり思わずうなだれてしまう。そして深いため息をついた。
「どうした? 元気ないね。体調悪い?」
友達が話しかけてきた。
「体調は悪くないよ。色々考え事してただけ」
「そもそもいつも深く考えすぎなんだって。まあ、そんなあなたにこれを進呈しよう」
すると何やらきれいにラッピングされた箱を手渡してくる。
「え? 何?」
「とりあえず開けてみてよ」
開けてみると中には私が昔から一度は食べてみたいと熱望していた高級チョコレートだった。
「これ、どこで買ったの?」
この辺りは一番近いデパートでもここからだと二時間以上かかるくらい地方だ。しかもこの高級チョコレートはそう簡単に手に入るものではない。大都市にあるチョコレート専門店に並ばなければ手にすることのできない代物だ。
「この前、部活の合宿があったんだけど、その時にちょうど自由時間があったから、お土産がでら買ってきたんだ。せっかくだから食べてみてよ。どんなリアクションするのか気になるし」
チョコレートを手に取って口に入れる。あまりのおいしさにしばらく悶絶していた。程よい甘さ、程よいカカオの苦さ。そしてたちまち口の中でとろけてなくなっていく儚さ。全てにおいて今まで食べてきたチョコレートをはるかに凌駕していた。
「どう味は?」
「幸せな味」
「よかった。ずっと食べたいって言ってもんね」
私の親友は『功利的』なんかではなく誰よりもずっと『好意的』だった。
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